太田フレックス高校「DOUBLE妄想RUNNING」

作:大渕秀代と太フレ演劇部(顧問・生徒創作)
演出:長谷川 瑛美
※最優秀賞(関東大会へ)
※創作脚本賞

あらすじ・概要

ステージ中央でランニングしている男。電話がかかってきて、どうやら演劇の役を降ろされそうになっているのか。ラジオを聞きながら、妄想しながら進むランニング。

感想

ランニング中の妄想という設定がまずすごい。そして舞台中央でのサスの中でランニングし、過ぎゆく車や信号、すれ違う人などの対象物を動かすことで移動していることを表現する。そして1時間ほとんどひたすらに走る。妄想やラジオが少しずつ男の悩みという主題を浮き上がらせていく構成も面白い。説明しすぎないことにとても配慮がされていて、それでいながら主題を忘れてない。4年連続創作脚本賞ですが、大渕先生、3年前とは見違えるほどうまくなったなあ。あれから相当努力されたんだろうと思います。

さてシナリオ褒めたのですが、ひたすら走るという無理難題をきちんと演出し演劇として成り立たせたことも同じぐらいすごい。妄想とのチェンジでポンチョみたいな布をかぶった集団が出てくるのですが、これが非常に効果的でした。上手い処理。ただ、ランニング中であることを説明するために永遠と走ってる音をスピーカーから流すのはどうなんでしょう。個人的には煩くて気になりました。特に最初はミスかとも思いましたし。

細かいことですが、サスだけだと顔が暗くなったりすのでちゃんと横から光(SS)を当ててる配慮もさすがだなあと思いました。(違う目的での光だったら恥ずかしけど(汗))

演技は過不足無く、良く演じられていました。この上演に合った演技だったと思います。1つ挙げれば、演劇部女子が出てきた妄想シーンでの、互いの言葉の投げかけが「きちんと考えて次の言葉を出している」ように演じられていました。特に女子の方。うまかった。

全体的に

もう着想と、それを舞台化した見事な演出力の時点で勝利と言ってよいでしょう。納得の最優秀賞・創作脚本賞です。

しかし1つ問題を挙げるとすれば、男の悩みが多すぎて結局どれだったのか絞りきれてなかったと感じました。主題に対してあまり触れずほんわかと浮かび上がらせる構成ですから、その主題たる悩みが多すぎるとどれに着目していいのか観客としては悩みます。1つに絞れとは言いませんが、「部活の役」がメインであることを分からせる演出、その他の悩みを部活の役の件に結び付ける演出がされたらより印象的な舞台になったと感じました。今のままだと、ラストシーンになるまで主題の代表格が「部活のこと」って分からない(伝わってこない)のですよね……。つまりラストシーンの印象が弱い。

新島学園高校「女将さんのバラード」

原案:安藤里紗(生徒)
作:大嶋昭彦(顧問創作)
※優秀賞(次点校)

あらすじ・概要

卒業式の夜。けいおん部の3人は居酒屋をやっている純子の家に謝恩会後の2次会として集まった。遅れてやってきたエリカは彼氏と別れるという。エリカは女将さん(純子の母)に元旦那(早川)とのなれそめや別れた理由を尋ね始めた。

感想

高さ8尺(6尺ではない)のパネルで囲まれた居酒屋。左手にカウンター中央左にテーブル、中央に入り口、右手にこたつ席。一番右にトイレ。壁にはビールのポスターやらメニューやらがあり、テーブルには箸やら小さいメニューやらが置かれ、ちょうちん、神棚、カレンダー等などすばらしく作り込まれた居酒屋の舞台装置。新島は部屋を作らせたら本当にうまい。

今年も生徒原案、顧問創作という好感の持てる構成。けいおん部とかの設定は生徒でしょうか。いつもながらに非常に完成度の高い台本で、創作脚本賞あげてもいいんじゃないかといつも思うのですが、完成度より着想の方が評価されるためたまにしか脚本賞にならない。

と脱線しましたが、話自体が面白いところに演技がまたすばらしく、とても面白く楽しめました。具体的には台詞に対するリアクションがきちんとできていて、そのリアクション自体に相手に対する気持ちや人物個々の性格がよく表れていました。3人のうち1人が早川を好いてない態度や距離をきちんと演じてたり。全体的によかったのですが、特にうまかったなあと思うのは最後の女将さんと早川(元夫)がぎこちなく会話するシーンで、言葉以上に視線や態度で会話してるんですよね。二人の距離も近すぎず遠すぎずちゃんと意味を持っている。人物距離感と心の距離感もよく考えられていて、静と動をきちんと明確に使い分けている。1行の台詞の中ですらも、トーンの変化、声の強弱、メリハリがきちんとなされていて、ゆるみの演技もきちんとできている。本当に隙がない。

演出面でよかったなと思ったのは女将さんが若い頃を回想するシーンでは声のトーンを変え、早川の髪型や髪の量をも年代を追うに連れ相応に変化させている。見落としがちな細かいところをきちんと配慮することで、大人や時間の流れを的確に表現していて、講評では否定的に言われていたけど若女将と考えれば別段不自然じゃなかったし、むしろとても自然に演じられていたと思います。光の明るさと心情をリンクさせていたところもうまい処理だと感じました。

非常に細かいことですが、缶ビールは底に穴を空けることで中身を空にしておくという処理がされていたため、序盤のシーンでは「空っぽな音」がしてしまったのが残念でした。ラストシーンではそれがなかったので、多分演者も気付いてると思いますが一応指摘。サイダーも空っぽさが少し出てしまったかな。ステージの制約でなければ水入れておいてもよかったように思います(そういう演出を好まないのは知ってますが(苦笑))。

これも細かいことですが、回想シーンでバーのマスターに麻生首相のかぶりものを被せたところはもう出オチで凄まじかったけど、その声を卒業生3人の中で当ててしまうという発想はうまかった。

上演時間が4分ぐらい余っていたので「笑い待ち」してもよかったんじゃないかと。ドッとうけているときに流してしまうと台詞は聞こえなくなってしまうし勿体ない。

全体的に

見事でした。「小難しい劇さえしなければ、新島敵なしか」と思ったものの、この上演で関東いけないのかと結果をきいて恐ろしくも感じました(詳しくは全体感想にて)。

面白かったし、ラストに至る流れも不自然なところはない(ラストを取って付けた感もない)。細部まで演出されていて、何が足りなかったかという逆思考を敢えてするなら、早川と女将さんの関係にエリカが尋ね始めるより前からスポットがあたって、「女将さんと早川の関係」が「エリカとその彼」の関係と対比され、もう少し目立って表現されていればなあというところか。大人と高校生のコントラストとか、近くて遠い存在という距離感とか、純子の父や母に対する気持ちの表現とか。

とはいえ、別に現状の流れでも(個人的には)不満ないんだよなあ。とても面白かった。

太田フレックス高校「他部ぅ」

作:大渕 秀代(顧問創作/創作脚本賞)
演出:富澤 直樹、温井 希味

あらすじ・概要

夜の図書館。そこへ集まる生徒たち。生徒たちはひそかに部活を始めることにした。タブーへ挑戦する部活、その名も「他部ぅ」。

感想

図書館。左から中央にかけて3つの低めの本棚、右手に大型(高さ3mぐらい)の本棚。中にはぎっしり本が収められ(本にみえる本でないものだったようでこの辺の美術は見事)、手前に大きめのテーブルが置かれていました。その割に窓が縦型の装置が付けられているだけで、見てて倒れやしないかとひやひやしたし、素直にパネルと窓は置けなかったものでしょうか。

台詞のやりとりや間、トーンの変化、そしてリアクション(反応)がよく研究されていて良かった。でも、ややうそっぽいリアクションが所々に見え隠れして、たぶん「こんな感じでい・い・ん・だ・よ・ね?」っていう自信がないリアクションをしていたせいではないかと思います。これは演出や他の役者が見て、他人が直していくといいと思います。あとは練習なのかもしれないけども。

昼休みに体育教師を図書館に呼び出すシーンがありましたが、そのときみんな私服だったのが気になりました(夜は学校関係ないと理解していた)。太田フレックスは制服がないみたいで、おそらくそれを想定したものだとは思いますが、それだと裕子が一人で制服を着ているのは混乱の元です。もちろん制服のない学校で制服を着ることに問題はありませんが、観客にとって一般的でないことはなるべく分かりやすく提示して理解を得る必要があります。私服登校自体がそもそもあまり一般的ではないわけで。

なんどか暗転するのですが、服装が変化していってるところは芸が細かいなあと感じました。克也が本当におとこに見えた。すごい。ただ横向いたときに声が聞き取りにくかったのがちょっと難点だったけど。男役とかは発声やりにくいのはありますが、真横向かないかそれでも聞こえる努力をするか何かしら頑張ってほしい。

もうひとつ去年の上演で使ったボックスを図書館に置かれているという設定でたびたび登場させてるのですが、全く必然性を感じませんでした。ラストシーンは別にロッカー(掃除用具入れとか)とかトイレでもよかったわけですよね。舞台上にあんなでかい装置を動かすと邪魔でしょうがないし、暗転時でもガラゴロ音がするし、図書館という作り上げた空間に不相応に大きいからその空間自体をブチ壊すし、なんでこんなの出したんだろう?と疑問に感じずには要られません。

台本の感想

3年連続創作脚本賞という。たしかに着想は面白いからなあ大渕先生の本は(苦笑)

とはいえ、今年は去年までとは見違える完成度でした。正直、大渕先生の本ということで肝を冷やしてましたが、上演を見て取り越し苦労だと分かりました。荒っぽいところはなくはなかったけども、今年は納得の脚本賞。

最初のシーンの下校放送や司書先生のシーンが要らないとずっと思っていたのですが、ラストシーンみるとこのシーンがフリだと分かり少し納得はしましたが、序盤夜の図書館へ来る人間がどんどん増えていくということを説明するためか2~3回暗転処理するのが、気になりました。序盤のテンポが悪く感じられたので、もう少し工夫できないかなあ。少なくとも下校放送は説明的すぎるので要らない気がする。

人が増えていく感じは「2日に1人のペースです」という台詞でしか説明されてないわけで、それだったら最後の1人がやってきたときの会話のやりとりの中で「○○さんはいつからココ(図書館)に来てるの?」で済んだしその方が分かりやすかったんじゃないかと。その最後の1人が美奈でもよかったわけですよね。その最後の1人が「その日の最初」に来れば済む話ですよね(他の人で練習していよいよとも解釈できる)。体育教師を呼び出す下りも昼間シーンを挟むためにテンポを悪化させてて気になりました。別に夜、あの場所で呼び出してもよかったんじゃないかと。

個人的に暗転は極力減らしたいと考える人なので、好みではありますが一意見として。

全体の感想

ラストシーンから考えると、図書館へ来た相手に対する裕子の表情やうれしさ、見つけたときの気持ちが劇からあまり伝わってこなかったのが残念なところ。それと裕子が常軌を逸する狂気を内包する感じとか、裕子がそれぞれの人物に対してどう思って、何を感じて、何を考えていたのか、もっとフォーカスしてもよかったんじゃないかと。ついでに、そこにつながる動機や本への執着も。例えば本を他人が触ったりしたときの反応や、本をバカにした風に言われたらどう反応するのかとか、見当たらないと取り乱したり、どうして本に執着するようになったのかってエピソードとか(独白はダメ)。

もっともそれがなくてもラストシーンの流れは本当に恐怖でした。去年はホラーとして成立してなかったからものすごい進化であるわけで、成功だったと思います。会場内も気持ち悪いという意味でしばらくざわついてました。良かったというか本当に気持ち悪かったよ(苦笑)

前橋南高校「荒野のMärchen」

民間伝承より原澤毅一翻案(顧問創作)
演出:黒澤 理生
※最優秀賞(関東大会へ)
※Märchen(メルヒェン)=ドイツ語で昔話、口承文芸のこと。

あらすじ・概要

開幕。スモークに中央スポットと、上下白い服装の人物が6人。6人は追いつめられた状況らしく言い合っている。そんなところに、マントを被った西部ガンマン風の人物が現れ。暗転。

場面が変わって田舎の(昭和の?)女子高生4人。TVの話やらおばあさんにきいた昔話やら。その昔話と、白い人物たちの劇かやがてリンクしていく……。

感想

民間伝承とハーメルンのバイオリン弾きに荒野のガンマンと田舎の女子高生っていうモチーフをごちゃまぜにしてぐちゃぐちゃにバラし、再構成した演劇。言い訳程度の解釈の余地を残しながら、例年同様「解釈などできない」劇になっています。個人的には相性が悪い、いつもの前橋南の劇です(苦笑)

男が何人もでてきて、かけあいと勢いでうまく笑いを取っていて、静と動のメリハリ、間の使い方、細かい演出が細部まで行き渡って非常に完成度になっています。光の効果もうまく、笑いもよく取れていたけども、やっぱり解釈はできない(笑)。

不条理というか理不尽というか、なんでもありな構成と、とりあえずガンマン格好いいなあというそれだけ。「そこに意味などないのだ」が一貫された演劇でありました。表層表現がかなり現実サイドだったので表面的には笑って楽しめたけど、例年と一緒は一緒。

完成度は相変わらず見事で、今年も入賞しそう(予想通り最優秀賞でした)。

桐生第一高校「タマキハル」

作:秋野トンボ・山吹 緑(顧問創作)
演出:坂本 美優

あらすじ・概要

いじめに合っていたミホは飛び降りようとした瞬間にタイムスリップ。猫のタマを案内役に戦時中のひいおじいちゃんの姿、昭和初期に戻り命を見つめ直す。

感想

良くも悪くも桐生第一劇団という感じで、県内ではめずらしく大人数の演劇部。舞台には左手に黒板があり、右手にロッカーがあり、奥に1mぐらいの段があり、場面転換して途中で横幅3mぐらいの長い木製の階段を付けたりしました。最初のシーンでは机を中央に12個も並べ、次々と登校する生徒達が教室でガヤガヤしているシーンは非常に臨場感があり、こういう作り込みは本当に凝っています。ロッカーも場面転換でひっくり返すと壁になったりと、大がかりな装置含めて本当に凝って作っています。でもその一方で、時代が現代なのに机が完全に木製だったり(金属製の骨組みではなく骨組みまでパイプではない)、何のためにあるのかよくわからない段差とその階段など、演出的考慮の穴は相変わらず。

自殺を思いとどまるため戦中などのシーンを回想して戦中やら戦後間もない必死に生きた時代を描きたいというコンセプトは分かるのですが、それぞれのシーンに厚みがないため、よくある安っぽい自己啓発ドラマ(アニメ)になってしまっています。それを特に工夫無く構成してしてしまった演出も含め問題があります。人の心はあの程度のことでは動かない。人の心を動かすのは人であって、人というのは人物を出してあからさまなエピソードを書けば終わるものではない。登場人物の心を如実に描き出し、観客に共感を生み感情移入をさせてこそドラマは成立します。

例えば、戦中の「徴兵」して列車に乗るシーンだけ見ても誰も感情移入なんてしません。別れる相手との関係性(仲の良さ)や死にたくないとい迷いや本音をたくさんのエピソードを積み重ねて丁寧に描き出してこそやっとその別れに共感出来ます。10分ぐらいそのシーンだけ振り返って「戦争の別れ。ほら悲しい出来事でしょう?」とか言われても誰も共感しません。登場人物に対する共感や感情移入をどうやったら引き起こせるのか。台本作者も演出も、もっとよくよく考えるべきです

比較的発声や演技もよくできている方ではあるのですが、まだまだな面もあります。例えば何組か登場する恋愛関係の二人。二人はほんとに恋していますか? 恋いこがれて相手を本当に大切だと思って、すべてを自分のものにしたいと思うかもしれない欲や大切にしたい優しさや思いやり。そういうものが混ざり合う中での相手と自分の気持ちとのせめぎ合いを演じるときに持てている? 残念ながらあまり恋人同士には見えなかった。街を歩いている高校生のカップルが、会話が聞こえなくてもカップルにみえるのはなぜ? そういうことを少し考えてみてほしい。そういうところまで演じられると演技はより進化すると思います。

全体的に

桐生第一の公演は何度も見ていてもうこれが桐生第一の味なのだろうけども、やっぱり問題だと感じる点はしつこく問題だと言い続けたい。

シーンひとつひとつを構成していく手法や、意味もなく踊ってみたり、そういうのがやりたいんだろうなあーというのは分かるし否定もしない。でも60分これを見た観客個人の感想としては勘弁してれとすら感じる。毎回毎回ものすごく凝っていて、ものすごく努力していて、ものすごく一生懸命作っているのに、その一生懸命の方向性が「私たちはこうだっ!!」でしかない。それもそれで突き抜ければすごいのだけど(今年の前橋南のようにそこまで観客を無視して突き抜けることに極めているわけでもない。かと言って、舞台の上で一方的に観客に話しかけているだけでは観客との会話は成立しません。

もう一度よく考えてみてください。観客と対話して初めて舞台は完成するのです。観客に一方的に話しかけるならビデオやラジオでいいのです。どうかそこを見落とさないでほしい。個々の技術と質と演技力とそういうものが全部備わったとても実力のある演劇部だけに、とにかくその点が惜しくて惜しくてなりません。