伊勢崎高校「にこにゃんちゅう」

  • 作:小野里康則(顧問創作)

あらすじ・概要

日本の伝統芸能「にこにゃんちゅう」という勝負のチャンピョン(クイーン)の決定戦が行われていた。

感想

幕があがりホリだけの何もない舞台。そこで行われる「にこにゃんちゅう」という謎の競技。

講評でもルールがよく分からないと言われてましたが、要するに「あっち向いてホイ」のようです。

あっちむいてホイにこちゃんちゅう
パーにこ(女の子)
グーにゃん(猫)
チョキちゅう(ネズミ)

じゃんけんに勝った後の「天井」「ルンバ」とかは逃げる場所=向く方向で一致したら負け。理解するのに結構時間かかったんで、何やってるんだろう?感はありましたが、見てて恥ずかしくなる*1謎の競技を真剣にやっているのは純粋にすごいと思います。

キーマンとして未来が見える薬をセールスマンが売りに来て、その中で旗揚げゲームをします。10連敗してしまうわけですが、普通最初にトリックを疑わないのかなというのが疑問でした。

TV収録シーンでADがカンペを出すみたいな演出必要だったのかな。位置的にも視界に入らないし、もうひと工夫するか、もしくは要らなかったんじゃないかと感じました。

劇全体「なんだったんだろう」というキツネにつままれた感がありますが、力いっぱいやりきったみたいパワーと情熱は十分に感じましたし、この手の劇にありがちな「もはや見ていられない……」とはならず、ちゃんと最後までみせたことを素敵だと思います。

*1 : 共感性羞恥

前橋育英高校「ぐらすとれ ~Graduation×Frustration~」

作:南雲 慶祐(既成/OB創作)
演出:安原実果子

あらすじ・概要

高校式一週間後、教室に集まった「ちか」と「らく」と「梅子」。卒業旅行の打ち合わせの中、在学中に彼女たちが抱えていた想いが出てきて……。高校生活は本当に楽しかったんだろうか。

感想

最初3本のサスで卒業式の呼びかけシーンから始まります。「楽しかった、高校生活」というフレーズを強調して暗転。机が一つ置かれたステージ。教室のイメージのようです。

冒頭でリュックの中からお茶を探すシーンがあり「お茶しかないや」とお茶を取り出すのですが、探して見つけるという様子がまったくない。探すフリをして、予め用意されたお茶を中から取り出しつつ「お茶しかないや」と台詞を述べてるようにしか見えない。このシーンだけではなく、全体的に「ここはこういう演技」に終始してて、台本の人物像も結構ステレオタイプ。演じ方もステレオタイプ。

ステレオタイプで人物の違いがハッキリと分かるので見やすくはありますが、逆に言うと深みがない。そして、全体を通しての演技・演出が「コメディ」のノリになっているなという印象も強くありました。この台本はそこだけじゃないですよね。

雑巾野球のシーンはくだらなくて面白かったです。演じてる人たちがちゃんと楽しんでる様子も伝わってきました。あと、どちらでもいいことですが、ちかと梅子かなの服装が遠目に似てたので、1人本当に制服でもよかったんじゃないかなとも感じました。あと雑巾も白い使ってないものだらけだったのが気になりました。

全体的に

ものすごく頑張って演じているのは伝わってくるんだけど、台本が少し問題かなという印象があります。表現したいことはわかりますが、それにしては台詞がストレートすぎて巧くない。台本が全部悪いとは言いませんし、本を芝居にする過程でも巧く処理できてないなと感じた部分はあります。しかし、共感を覚える人にはえぐるような話かもしれません。

途中で挟むサスのシーンやブルーライトで処理する現実進行ではないシーンは、とても抽象的で比喩的な表現を使っていてうまかったので、余計に地の台詞との乖離を感じて勿体無く感じました。これだけ抽象的な表現をする実力があるのに、台詞が直接的なのでここも少し直してよかったんじゃないかな。あと詰め込みすぎな感じもあります。

演技や芝居を作る実力はあるのになという印象が強い上演でした。

太田高校「どん底」

作:坂本幸基・吉田俊宏(生徒・顧問創作)

あらすじ・概要

部員1人で演じた一人舞台。中央部のサスに大きめのリュックを起きヘルメットをかぶった男が1人。「おーい、誰かー。俺はここに居るぞー」。一体どうしたんだろうか……。

感想

講評でのやりとりを見ると「1人ではこれしかできない」ということで逆説的に作られた台本であり演劇とのことです。1人の演劇部で県大会まで来たことは立派で40分の演劇を上演したことはたしかに評価されるべきですが、しかし。

「しりとり」「落語」「燃えよドラゴンの真似」「ルービックキューブ」とか遭難した男の暇つぶしなのでしょうが、最後ルービックキューブを置いてただ去るとか……結局何だったんだろう。何がしたかったの? というのが正直な感想でした。上記の事情は分からなくはないし、とにかく演じたかったというのも気持ちも分かるのですが、それと上演内容はまた別の話です。

それと途中出てくる落語。頑張っているのは分かりますが、トーンの使い分けがいまいちです。間もありません。本物の落語はもっと「間」や「止め」を効果的かつ贅沢につかいますし、人物の差はもっとオーバーにハッキリと演じ分けられます。落語の真似事のシーンだからこれで良いのだと言われればそれも成り立つでしょうが、もっとうまく落語すればそのシーンが面白くなったでしょう。

全体的に

演劇の醍醐味である人物の関係性が作れないので一人芝居はたしかに大変なのですが、もうすこし他の方法もあったように思います。例えば、相手が居るように片方の台詞だけで物語を紡ぐとか、それこそ落語のように一人で相手役も演じるとか。講評であったように、単にオチを付けることもできたでしょうし、それぐらいしても良かったのではないでしょうか。変化球なら1人の演劇部が頑張って地区大会に参加するまでを皮肉を交え演じるという手もあったかも知れないし、もしくはもっとリアルから遠ざかり良い意味で意味不明にしてしまって煙に巻く手もあったでしょう。

もう一工夫欲しかった印象です……。でも演技力はそれなりに高かったとは思います。

追記 評価が分かれる上演で高く評価する声もありますが、率直な感想を重視し書いてあります。

高崎北高校「Good Job!」

作:高崎北高等学校演劇部(生徒創作)
演出:(表記なし)

あらすじ・概要

ある家の前で不思議な大人たちがたむろしている。そこにやってきた生保のセールス。すぐに追い返されてしまう。この家は、セールスをみんな追い返してしまうと噂になっていた。その場に居た4人の、新聞・ネット・生保・宗教のセールス(勧誘)たちで一致団結して取り組もうということになったのだけど。

感想

左手の入り口(レンガブロックの塀とインターフォン)。右手側に掲示板とゴミステーションと電柱。道路のイメージかな。道路にしては広いけども。生徒創作とは思えない非常によくできた台本で、内容も面白い。台詞のかけ合い不自然なところがなく書かれていて、構成も面白く非常によくできています。オチも秀逸。いやはやしてやられました。

訪問販売員と追い返す親子というやっていることはコメディなのですが、意外な伏線があって最後まで面白く楽しめます。どういうところに話を落とすのかなーとおもったら、母親が「興味のない話を(半ば)無理矢理きかされて、それのどこが『お客様のためですか?』」と投げかけたところで、セールスたちの気持ちの変化が表れるという話筋。他に盛り上げようがなかったのかあらかじめ狙われたものか「そうきたか」っという感じでよかった(命とかいじめとかある意味ありふれて飽きてるので)。他にやりとりの中で、比較的普通な意見を言う人を配置していたり(変な人ずくめにしていない)、その辺のちゃんと配慮がありすばらしかった。創作脚本賞取ってほしかったなあ。

台本についてはいくつか講評で指摘がありましたが、個人的に一番気になったのは4人で協力してセールスするときにあまり4人で力を合わせた感じがしなかったことでした。途中でほかのひとに譲って交代しているところをみても、結局きっかけを作った人(兄)が偉いだけで他が便乗している印象が拭えなかった。もうひとつ。昨日打ち合わせた作戦を振り返りましょうってくだりは要らないと思います。ああいうシーンは普通、過ぎ去ってしまった過去(省略した過去)を観客に説明するために使うもので、コソコソで観客に聞こえないように話すならそもそもシーンとして要らない。笑いを取るわけでもないので、あのシーンの目的がさっぱり分かりませんでした。

インターホンが重要な道具でありインターホンっぽい音(ほんもの使って録音?)というリアルを追求してよく作ってあった点は良かったのですが、SEとして再生する音量が不自然に大きかった。劇全体のムードを少し壊している。舞台の上で鳴っていると錯覚できるぐらいの音量(もしくは実際にそこで鳴らしてしまう)とかの方法を考えましたが、それよりも舞台上にインターホン(の舞台装置。本物である必要はない)を用意して役者が実際に出てきて喋る方がよかったと思います。それにしても、全体的に音が大きすぎでした。

あとは舞台のゴミステーションのゴミがいつまでも置かれていたり、1日経っても増えてなかったするのが気になりました。ゴミステーションらしくない。ブロック塀も160cmぐらいだった気がするのですが、どれくらいだったでしょうか。記憶違いではなければ(高さの意味で)塀らしくないような気がします。こういう細かいリアルの積み重ねが演劇全体のリアリティを増すので、もう少し考えられるといいかなと思いました。

全体的に

演技は笑いを取るための間の使い方がよく研究されていて、台本を含めて笑いを取るために注力されていました。会話の中にもう少し「笑い待ち」をいれてもよかったかもしれません。ただ何もない普通の会話・かけあいは、心の動きから言葉が出るという意味で多少甘いところがありました。投げかけられた言葉から気持ちが動き心の反応が生まれ、それが言葉になる。笑いの追求意外に、同じように反応のリアリティも考えて欲しいなと感じました。

台本を含めコメディとしてよく考えられて演技もされており、面白かった。段ボール教の教祖様は可愛いし。5年振りの県大会出場ということですが、今後も活躍を期待したいです。