前橋南高校「コックと窓ふきとねこのいない時間」

作:佃 典彦
演出:(表記なし)

※最優秀賞(関東大会へ)

あらすじ

猫のビッシースミスお抱えのコックは、ビッシースミスさまの帰りを何年も待っていた。そこにやってきた女と、その様子を眺める窓ふき。そんな3人が繰り広げるやりとりと、やがて明かされるビッシーの真相は……。

脚本について

1993年にB級遊撃隊という劇団により上演された劇のようです。→参考資料。いかもにプロの作風で、テーマや物語や笑いに主軸を置きがちな高校演劇創作とはひと味もふた味も違います。

主観的感想

四月当初、我が演劇部は1人しかいませんでした。新入生も1人も入りませんでした。気の毒に思った男2人が手をさしのべたのが運の尽きで、今こうしてなんとか劇として成り立つところまで持ってくることができました。素人の男ばかり3人で見苦しい点もございましょうが――(以下略)

以上、上演パンフレットより引用。開幕直後、どこが素人ですかという驚きの演技力をみせました。男ばかり3人ということからも分かるとおり、女役を女装でやっています。全体にシリアスな劇でありながら、本当に演技力だけでみせたという凄さには乾杯です。本当に素人のなせる技なのか、顧問の力なのか真相は闇の中ですが、役の読みこなしが大変優れています。言葉だけでなく動作や動きで表現するなど、演じるということの本質を実に的確に抑えていて、まさにそこに居る登場人物という絵も言われるリアリティがあります。

とかいいながら、恥ずかしながら優勝するなんてこれっぽっちも思っていませんでした。部員数が少ないということで、昨年度関東大会の松本筑摩高校(部員2名)を否応でも思い出して比べてしまったのですが、装置がいまいち。舞台はビッシースミスの部屋という設定ですが、舞台を広く使っているために物と物の間に必要以上の空間が出来て散漫な感じです。また窓ガラスも入ってなく、小道具も少なく、もう少しどうにかしてほしいところ(欲をいえばやっぱり部屋はパネルで囲ってほしいです。→舞台装置を作り込むときに変にリアルに作りすぎるとこの劇には合わないので注意が必要ですが)。

また、最大の問題はやはり台詞の間です。掛け合いシーンでの台詞と台詞の間がわずかに早いのです。一時的なものかと気になって、ずっと間を注意して聞いてたんですがやっぱり全部早い。相手の台詞に反応して、心の動きが起き、その反応(リアクション)としての言葉の返答(台詞)を発するべきなのですが、そこが若干早い。演技自体はかなりのものであるだけに、一度気になり出すと気になって気になって仕方ありませんでした。現在の状態で間を適切に取るともしかすると上演時間をオーバーしてしまうかもしれませんが、逆に言えばそこをきちんとしない限り関東大会は突破は難しいと思います。

あと女子が居ないために、男が女装として女を真面目に演じる潔さはとても好感を持ちました。最初は飾り気のない簡素な上着と簡素なスカート(手作りかな?)で、すぐにピンクのジャージ姿に着替えるのですが、着替える意味がわかりません。女装を真面目にするんだったら、ウィッグを付けて化粧をしなければならないのと同じレベルで女性としての記号であるスカートを脱いじゃいけません。ただでさえ高校演劇に置いては女装は笑いネタとして使いやすいのですから、真面目にやっているということを示すためにも、活用出来る記号は最大限活用すべきです(もちろん変にならない範囲で)。着替えないのはもちろんのこと、できれば元々の服装を多少飾り気のあるそれらしい作りにして、服としての質をよりあげてほしいと思います。多分、ウィッグが落ちてしまわないようヘアバンドをするために、それに合った服装に着替えたのだと思いますが、ウィッグはいくらでも別の方法で固定できるはずですよ。

その他、ラストの幕を降ろすのが若干遅かったのが気になりました。

【全体的に】

ほんとに演技が上手かったの一言に尽きると思います。さすがに部員不足からか、他の装置やらには手が回りきっていませんが、次は関東大会ですからその辺のクオリティーもあげて関東の上を目指してほしいと思います。

審査員の講評

【担当】鈴木 尚子 先生
  • 非常に面白かった。3人しかキャストが居ない中で1人1人が誠実に役を演じていた。
  • 女装して笑いをとったり、女装した人物そのものに話のスポットが当たったりと、演劇における女装はあざといものが多いのですか、女性そのものを実に誠実に演じていたと思う。
  • コックは理性があって猫を待っているという気品があり、その様子が最初から最後までブレなかった。そしてそんなコックと他の二人の間で自然と笑いが起こる。
  • 本当はもっと狭い空間の方がよかったのかな。
  • どの登場人物も、昔はどんな人だったんだろうとか過去とかを感じるリアリティがあった。
  • フランスパンをコックと女がまわして食べるシーンは官能的だった。
  • ビッシースミスのためにコックがメニューを書くときの至福感がよく表現されていた。
  • それだけに途中コックが台詞をとちったのは勿体なかった。
  • 音響は音量が適切だった。
  • ラスの照明が居ない猫に話しかけているコックの様子をうまくかもし出していた。

前橋南高校「コックと窓ふきとねこのいない時間」

脚本:佃 典彦
演出:(表記なし)

あらすじと概要

猫のビッシースミスお抱えのコックと、もともと部屋の所有者である女と、その様子を眺める窓ふき。そんな3人が繰り広げるやりとりの中で……

主観的感想

県大会のときは間が若干早かったのですが、それが修正させ絶妙の台詞の掛け合いがなされていました。台詞のかぶせもよかったです。もう見事という感じで、ちょっとしたことでも場内に爆笑が起きる。そんな「変なムード」が会場中を支配した、本当に面白い上演でした。

みんな口を揃えてコックがうまいなーと言ってましたけど、女も良かったですよ。窓ふきはやはりちょっと弱いですけど。もっとズルく演じていいと思います。女ですけどやっぱり着替えるのですね……部屋着に。どうでもいいといえばいいのかもしれませんけど、若干なんだかなーと。女役はやっぱり登場時、それは女装ですからクスクスと笑いが起こりそうになったりして(真面目な役なので笑いが起こってはマズい)、南関東大会の桐蔭学園のそれは笑いひとつ起きませんでしたからね。無理な話ですが逆ならどうだったろうとか考えてしまったり(脱線)。

さて本当に見事としか言えない上演だったのですが、入賞ならず。曰く「ヤマがない」という意見もありまして、ネットで調べてみたらこんな意見を見かけました(以下リンク先より引用)。

ただ佃典彦の戯曲はよほどうまくやってようやくそこはかとない感動を浮かばせる、難しい芝居で、正直高校生(や大学生)の上演で面白いと思ったことがあまりない。別役実にも通じるシュールさは年輪を重ねるともっとよく描けるものだろう。

この劇は何が足りなかったのでしょうか。今回見ていて1つだけ気になったことがありまして。ラストシーンでビッシースミスさまがあたかも居るように振る舞うコックの姿を見て「そこにビッシースミスが居る」とは感じなかったんですよね。県大会のときは猫の姿が見えた(居るように感じられた)気がしたんですが、それがない。講評も踏まえよくよく考えてみると、コックのビッシースミスに対する「愛」みたいなものが、関東大会の上演ではさほど感じられなかった。女のコックに対する「愛」も描かれていない。

この作品はおそらく「女が猫に負ける物語」(コックに振られる物語)なのです。台詞の裏に潜む心、この愛というものが表現出来なかった、または(演者・演出に)理解されてなかったことにより、面白いんだけどそれだけとなってしまったのだと思います。非常に残念ですが、やはりそこが致命的だったのでしょう。

細かい点

  • 暗転時、ブライドの奥の青ライトが尽きっぱなしのことがあり、非常に気になりました。
  • 電話の音は、できれば電話の近くで鳴らしてほしいです。

審査員の講評

【担当】土屋 智宏 さん
  • この学校は、部員がいなかったところから3人集めて関東大会に来たところがすでに物語。
  • コックはいい声をしていた。天性のものだと思う。
  • 高校演劇では脚本選びで80%決まってしまう(編注:それ以上は述べなかったけど選択ミス(難しすぎた)と言いたかったのかもしれません)。
  • テーマの掘り下げが不足した。愛の想出、そして失われた猫という存在。
  • 舞台装置を手前に持ってきて狭い空間を作り、配置もよく考えられていた。
  • 猫のトイレはもっとゴージャスなのではないか?
  • 役者3人ともとてもステキでした。面白かった。

三条東高校「例えばジャニスのソウルフルナンバー」

脚本:大島 昭彦
演出:藤石 愛巳
※優秀賞(全国フェスティバル)

あらすじと概要

夢の世界と現実の世界と。夢の世界にいるもう一人の僕。そんな抽象的なイメージの中で現実と夢を行き来しながら描かれるものは。

主観的感想

非常に難しい抽象劇です。夢の中の僕と現実の僕。現実のフラストレーションが夢に昇華され、夢での出来事がまた現実に跳ね返る。主人公(高校生?)の日々の思いのかけらを拾い上げ描いていく作品なんだと思います。夢の中で工事現場監督かと思えば、学校の先生だったり、クラスメイトの(武者小路)祐子と親しくなったと思ったら夢だったり……。

優秀賞(フェスティバル)とのことですが、残念ながらとてもそうは感じられませんでした。全体に早口であり、間が悪く、テンポが一定でメリハリがない。リアクション(動作)もメリハリがない。そういう演技の基本や細かい嘘をきちんと積み上げてこそ、夢とも現実ともおぼつかない独特の空間にリアリティ(というと変ですが説得力とでもいいましょうか)が生まれるのですが、そこがないがしろにされ、劇空間としての成立が失敗したのではないかと思います。

台本を解釈なく(または解釈不足で)演じたという印象が非常に強く、台詞が役者を置いてきぼりにして一人歩きし、テーマを描ききれなかったという印象がぬぐえません。真に迫らないんですよね。主人公の「僕」が最初と最後で変わったんだということを、僕の内面として魅せてほしかったと思います。

細かい点

  • 演技力にかなりの疑問を感じます。間などはそうなのてすが、「うわぁ…、なんで武者小路さんがここにいるわけ」「花火大会の日に街の巡回なんてつまわらいわね」など、説明台詞をやや棒読みした感じがあり、台詞を書き換えたり内面から言葉を発するという努力が不足した印象があります。気持ちで演じてください。その言葉はどういう心の動きから出でいるのか考えることを、もっともっと大切にしてください(詳しくは資料室を参照してください)。
  • 主人公僕と祐子が会話しているシーンを、他のクラスメイトが覗き見するというシーンがあるのですが、主人公と祐子が親しく会話しているという感じにはどうにも見えません。ほとんど動きなく向き合って楽しい会話なんて現実にはあまりありません(向き合うというのは、基本として敵対の関係です)。親しく話すということをなんとなくで演じてませんか? 自分が親しく談笑するときどんな感じですか? あのシーンで実際に心の中で言葉を交わしてみましたか? 言葉を交わしてみてから、その言葉を(舞台上で)省略するというプロセスを取りましたか?
  • 最後の方で主人公僕と祐子のキスシーンがあるんですが、まるきり嘘です。キスに至るということは、本当に好きになった結果でなければならないのです。役作りというのは、役の中で相手を好きになることから始まります。ドラマで共演した男女が現実でも恋愛してしまうのは、ドラマの中で本当に好きになる(という役作りをする)ので、それが現実に影響して恋愛してしまうのです。役をきちんと作るということは、こういう内面を作ることを意味します。厳しいかも知れませんが、少なくとも舞台の上に居るときは本当に好きにならなければいけないのですよ。
  • 工事現場のSEが舞台にマッチしておらず説明的でうるさい印象を受けました。電車のSEもしつこかったように思います。

審査員の講評

【担当】オーハシヨースケ さん
  • ソウルメイキング(河合隼雄の言葉)ドラマだったと思う。魂にまつわる物語を現代人は失っているというが、まさに神話(個人の神話?)についての話(編注:記憶曖昧)。
  • ひとつひとつの言葉を味わうということをよくやっていたと思う。
  • 本音と建て前、現実と非現実をうまく演じ分けていた。
  • ジャニスジャップリンの歌が途中で終わってしまって、もっと聞いていたかった。
  • 舞台装置は左右のバランスを考えて使うともっとよかったと思う。やや右に寄っていた。

新潟中央高校「全校ワックス」

脚本:中村 勉
演出:斉藤志穂美

あらすじと概要

校内をワックスがけすると集められた5人の生徒。互いに会話をしながら……。

主観的感想

2006年に甲府昭和高校が全国大会で上演した台本みたいです(昨年度南関東突破作品ということ)。

大変申し訳ありませんが、旅の疲れが出たこともあり途中で寝てしまい、全体について何か述べることはできません。細かい点のみ記述したいと思います。

細かい点

  • 最初のチャイムがフルサイズで流れるのだけども、長いので半分サイズでよいと思う。
  • 全体に間延びしたムードの劇で、オーバーなシーン、例えばブリっ子キャラがおちゃらけるシーンとか、そういうところはオーバーに演じていいと思う。若干恥ずかしさが感じられた。
  • ほうきがけ、雑巾がけがいい加減で、もちろんリアルな高校生という意味ではやる気なく掃除というのもあるのだとおもうけど、やる気ない演技なのかはっきりせず、やる気ある演技だけど動きがいい加減という印象を受けた。
  • 個性付けしようとして失敗している感じがあり、上辺だけの演技になってしまっているように感じた。掃除への熱の入れ方、例えば、ほうきがけ一つとっても個性を出せたのではないか? みんな画一的な動作をしていたように感じる。
  • 洗剤やワックスを小道具として(あたかも中身が入っているかのように)持ってくるのだけど、その持ち方がいい加減。きちんと中身が入っているように持ちましょう。
  • 掃除道具の扱い方が全体に雑な印象をうけた。キリっと(必要な)メリハリは付けてほしかった(おそらくある程度抜けたムードを狙ったものだと思うので)。
  • 全体に(というか前半を通して)演じるところは演じる、バカをやるところは照れずにバカをやる、真面目なところはくそまじめにという区切りみたいのを意識できたら印象は随分変わったんじゃないかと思います。

審査員の講評

【担当】森脇 清治 さん
  • 舞台全体にベタっとした照明が当たっていて、廊下に緊張感がなかった。廊下を明かりの中心にしたら随分変わったのでは。
  • お掃除やワックスがけがいい加減で、その嘘が気になって台詞に集中できなかった。
  • 顔を見るとき視線が下がっていたので、上げるようにした方がいいと思う。