西邑楽高校「桜井家の掟」

作:阿部 順(既成)
潤色:西邑楽高校演劇部

あらすじ・概要

桜井家の4人姉妹のもとへ、次女の蘭が彼氏を連れてくるという。連れてくる彼氏にビクビクする夏実と杏。しかし、光一はごく普通の男子だった。ほっとしたその彼の前で、突然真希は「自分たちの親は離婚して、今週いっぱいで離ればなれになる」と告げる。

感想

この台本で前に見たのは2006年度の新島の県大会・関東大会ですね。有名な台本でよく上演されています。

パネルはなく、舞台上にばらばらと小道具が置かれ、中央にテーブルと椅子。このテーブル、会議室の長テーブル1つにクロスをかけた感じになっていますが、手前までクロスが垂れ下がってるし、奥行きが1つ分しかないので不自然。足を隠したかったんでしょうけども……。上手に本棚や電話機やスリッパ置き。上手が玄関ということらしい。下手に窓のパネル。窓の部分だけパネルにしてあります。奥に少し黒幕を引いて2段分の階段。3段か4段用意すればまだ階段に上がって消えていく感じが出たのですが……。部屋もだだ広く感じてしまいます。

舞台装置を作るのはお金も時間もかかって大変なのはわかりますが、それにしても取ってつけた感が満載でした。窓も「必要なのでしょうがない用意しました」って感じがしてしまう(窓の外を見るというシーンがある)。上下で部屋と外を分けるとか、階段はなくしてしまうとか、椅子とテーブル以外はあえて何も用意しないとか、照明で空間を区切るとか、他にいろいろやりようはあったように感じてしまいました。

さて演技とか。台本のドタバタコメディを活かした楽しい舞台で、本当に笑わせて頂きました。初見ではないのでどうなるか分かってるのに、光一母は面白かった。お菓子の缶が潰れるほど殴るのはすごかった。殴られた方を心配してましうぐらいに。立ち姿から性格もある程度見えてくるし、舞台作りをちゃんとしてきているなと感じました。

こういうドタバタコメディを上演するとき難しいことなのかも知れませんが、台本にはちゃんと物語があってそれもちゃんと表現しなければいけません。これから離れ離れになってしまう桜井家。その姉妹たちの「桜井家の掟」という絆。「掟」や離れ離れになる姉妹たちの想いが表現しきれていないかなという印象がありました。これから親が離婚する。すごく大きなことが起きているので、それについて姉妹それぞれ思うところがあるはずです。そういうものが演技からは読み取れなかった。「掟」に対する想いも。

知っている台本なのに、後半完全に見入っていました。それぐらい勢いがある楽しい上演だったと思います。おつかれさま!

2014年度 群馬県大会

高崎女子高校「真っ赤な真実」

作:長岡音羽、海老沼柚衣(生徒創作)
※創作脚本賞

あらすじ・概要

林間学校ならぬ高原学校での休憩室のひとコマ。先生たちのことを噂する生徒たち。うわさ話はやがて暴走し、馬場先生が悪者になってしまう。

感想

照明で中央を丸く照らして上手に椅子2脚と机、中央に四角いテーブル、下手に座布団。奥に荷物。上手奥に姿見かな。部屋としての空間らしいのですが、荷物と姿見が照明の外。照明の外は存在しない空間というルールが一般的なので、劇空間がいい加減な印象を受けてしまいました。

講評でも褒められていましたが、ガヤ(わいわいガヤガヤ)がとてもうまかった。メインの台詞が聞き取りにくくなることもなく、かといって不自然でもなく。これって結構難しいのですが、うまかったと思います。一方で台詞のかけあいやシーンのテンションが常に高くメリハリが足りない印象。コメディのリアクション(演出)が多く(例えば「えーーーっ」という台詞とか)、それでいてコメディというよりはシリアス劇なので全体から作り物っぽさを感じてしまいました。

登場人物の服装。「小学生? 中学生?」とずっと疑問でしたが高校生のようです。見た目で個々人の差をつけることは重要だし、高原学校という設定なので服装の制限はあるのかもしれませんが、地味すぎてぱっとしない印象が拭えません。いっそ(学校指定の)ジャージとか制服でも良かったのではないかと思ってしまいました。リアリティを追求した結果の「リアル」な服装なのかもしれませんが、演出的配慮(見栄え)を考慮したリアルっぽい服装ってのもちょっと考えて欲しかったかな。

全体的な部分。メリハリのなさに加えて話の進行が遅く「これ何についての話なの?(どこに注目して興味を持続させればいいの?)」という印象が拭えません。いわゆの「引き」の不足です。ラストシーンの「みんな操られてる!」「噂にすぎないのに!」といった台詞からネットなどでよく見られる根拠ない噂に扇動される人々への皮肉だと解釈したのですが違うかな。そうだとするとラストシーンで携帯を置き忘れたことも辻褄が合うのですが、それなら置き忘れるのはスマホのほうがよかったと思います。むしろ、スマホを劇中で小道具として使用し、うわさ話のネタはその場に居ない友人からスマホ経由のメッセージで送られてくるほうがよかったのではないでしょうか。

もうひとつ。馬場先生とみゆき先生の話が全体のほとんどを占めるのですが、馬場先生は登場せず、みゆき先生も余り出てきません。話の当事者が登場しないので、分かりにくいし実感も持ちにくい。噂と実際の人物像(実際の出来事ではなく)の対比を見せればでより効果的にテーマを演出することができた気がします。

色々書いてしまいましたが、演技の基礎はしっかりできてるし声もちゃんと聞こえる。生徒の創作脚本ということも好感が持てます(実際それが評価されて創作脚本賞だったようです)。今後は個々のシーンの見せ方だけではなく、一歩引いた立場で全体のバランスを演出してみましょう。昔は県大会常連だった高女の久しぶりの県大会でした。今後も頑張ってください。

新田暁高校「おかしの家」

作:青山 一也(顧問創作)
演出:根岸 祐里

あらすじ・概要

童話作家のさよこおばさんが亡くなった。その遺品整理にやってきた孫娘たち6人。整理していると高価なものが次々と出てくる。こんな高価な遺産、誰が相続するんだろう? そういえば、おばさんには娘が居たらしい……。

感想

全体にパネルを立てた部屋。奥が廊下。上手に勝手口、下手にテーブルと椅子、小物入れ(棚)。ハンガーがあったり、帽子掛けがあったり、和風っぽい家具があったり、ムードのあるいい装置でした。最初薄暗い照明で始まって、人が入ってきて明るくなった時点でほんと魅力的に映りました、期待大。これが掴みってやつなんでしょうね。もっとも講評では「広すぎる」って指摘もありましたけどリビングダイニングならこんなもんかなとも。

力の抜けた良い演技。ただ前半、一部の台詞が聞き取りにくい部分もありましたが、全体的には安心して見られる演技でした。そしてきちんと動きまで性格付けされていて、特に主役の動きがとても美しい(そういう性格の人物)。またそれぞれの動きが全体としてうるさくならないよう、とてもよく整理されている。見る側への配慮がとてもきちんとされている。これだけでもちゃんと演出が仕事していると分かります。人間関係がちゃんと見えてくるのが面白いです。講評で指摘されたとおり「誰と誰が姉妹なのか」とか分かりにくい面はありますが、それって別に早々わからせる必要はないよねって個人的には思います。ただ、それぞれの関係をもっと掘り下げたほうがいいという講評の指摘は一理あります(描写しろというのではなく、それを作りこんだ上で演じてほしいという意味だと思う)。

カギのかかった引き出しを開ける時の開かない演技もうまかった。

さて、その引き出しから「背守(せもり)」が出てくるのですが、これが劇中での重要アイテムになります。この劇には重要なキーワードが3つあって「背守」「童話」「おかしの家」です。……多くありませんか? ラスト付近で「おばさんの童話ってたくさんの人に読まれてるけど、おばさん自身はたった一人のために書いたんじゃないかな」って台詞があり、これが革新に迫る非常に良い台詞なのですが、この後のラストシーンで「おかしの家の話」をしてムードを壊し、最後にサスで強調されるのは童話ではなく背守。ここがちぐはぐなんです

背守は劇中で一番触れられているメインアイテムだと思うのですが、おかしの家は開幕部屋に入った時に一言触れただけ。童話については多少触れられているものの、童話の中身までは触れられていない。お涙頂戴が必ずしも正義ではありませんが「おばさん自身はたった一人のために書いたんじゃないかな」っていうものすごく良い台詞があり、後ひと押しでみんな感動するだろうってムードができてる。にも関わらずそれを活かしきれていない。

大胆な意見ですけども引き出しに入っていたものは(特別な)童話でよくないですか?。その童話をみつけて、あらすじを会話するシーン等があるだけでもラストの印象が違うと思います。童話ならラストシーンでサスを当てた時にも本なのでわかりやすい(背守だと見えません)。もうひとつ問題があって、このお話、おばさんが童話作家であるということのリアリティが薄い。童話作家ってそうそう簡単になれるものではないので確率論としてのリアリティがどうしても小さくなるところに、しかもお金持ちとなると更に疑問が残ってしまいます。お部屋も童話作家っぽくない(演出的配慮としてのリアル)。どういう経緯でなったのか、どういう経緯でお金持ちだったのか、おばさんの思いを浮かび上がらせつつ、おかしの家を絡めてそれを劇中で説明できていれば……というのはちょっと高望みしすぎでしょうか。

ラストシーンといえば、鍵を持ってきた亜紀が部屋から去り際に少し立ち止まり軽く振り返るところとか、もうたまらなかった。言葉ではなく動きで語らせる。本当によく配慮された素敵な演劇をたっぷり楽しめました。クオリティ高かったですよ!

前橋南高校「Act@gawa.jp」

作:吉田 藍(顧問創作)
※優秀賞(関東大会へ)

あらすじ・概要

ネット詐欺に注意しましょうと言われてる中、スマホに買い替えた白井(男子)のもとへ、高岸(女子)から詐欺を装ったメッセージが届く。そんなの嘘だよと友達に言われた白井は「俺は信じてみたいんだよ!」と答える。

感想

この台本は、伊勢物語の芥川をモチーフとして使っています。

上手に高さの違う灰色い柱のようなものが4つ。下手に横にした同じものが2つ。奥だけ幕を少し開けてあり3段ぐらいの階段2つ。その他、舞台上に白い服の白子(黒子に対して白子らしい)が4人。見るからに抽象的な舞台で「これから抽象的な演劇をやります」っていうことがこれだけで分かる良いセット。

螺旋(モチーフはLINE)を通じて白井に「助けて」というメッセージを送る高岸がメインとして進行します。はたして嘘なのか本当なのか。ちなみにこのメッセージ着信音がまんまLINEなのですが、これ著作権大丈夫なのかな?(効果音にも著作権はあるしJASRAC登録されているとは思えない)。著作権の問題は別として最初、会場の人が間違って音を鳴らしたと思ったので、あまり適切ではないと思います(もしくは舞台上から音が鳴るようにするか)。

本当に演技がうまい。力はちゃんと抜けてるし、声はきちんと聞こえるし、台詞のタイミングもうまい。

抽象的でどうのこうのと述べるは難しいのですが、2つほど。高岸がなぜそこまで闇を抱えてしまったのか(どういう闇を抱えているのか)という部分がいまいち伝わってきませんでした。こんなことをする人物ってのは普通に振る舞ってても、どこか常識とは異なる隠し切れないズレた部分を持っていると思うのですが、それを上演から感じ取ることはできませんでした。なぜ高岸はこんなにも狂ってしまったのでしょうか(狂気が感じられない)。シーンとして説明があるかないかという話ではなく舞台として説得力が不十分だと感じました。もうひとつは、講評でも指摘されていましたが、白井がどうしてそこまで高岸や詐欺のようなメッセージを信じてみたくなったのか分からないということです。

結局、高岸と白井の関係がこの劇の核心なのですが、それがあまり描写されてません。そう考えるとネット相談センターはあくまで抽象として存在させて、高岸と白井の物語には関係させず、高岸と白井の関係を描くことに注力したほうがよかったのではないでしょうか。「白玉」や「鬼」というモチーフもイマイチ活かしきれてない感じがします(伊勢物語を知らなかったので上演だけでは理解できなかった)。

全体の演技のレベルは非常に高く、とても安心してみることができました。関東大会もがんばってください。