渋川高校「病気」

作:別役 実(既成)
潤色:渋川高校演劇部
演出:渋川高校演劇部

あらすじ・概要

路上に突然現れた応急救護所。そこに通りがかったサラリーマンはいつの間にか病人にされてしまった。

感想

くだらない、ほんとくだらない! 最高ですね、このくだらなさが。不条理コメディとでもいうべきなんでしょうか。通りがかったサラリーマンが翻弄されてどんどん不幸になるのがくだらなくて面白くて、にやにやしてしまいました。

サラリーマン役の人は大丈夫だったと思うのですが、他の登場人物の声量が足りなかったのがとても残念でした。聞き取れないレベルではないし、力の抜けて演技はできている。力みすぎて演技になっていない状況に比べたらずっと良いのですが、会話劇なのに会話が聞き取りにくいというのは勿体無い。本当に勿体無い。声量を除けば、演技など大きな問題はなかったと思います。ただ少し早口だったところもあったかな。

下手に医者用の椅子とちょっとした医療関係小道具。中央に雑な屋根つきベッド(会議室の長テーブルの上に布かけた感じ)。上手に電信柱とゴミ袋。独特の世界観をよく出していると思います。

この上演、どうのこうのと述べるのは難しいですね。声量が足りないのが惜しかった、ただただそれに尽きます。それでも、とても面白かったし楽しめました。良かった!

西邑楽高校「桜井家の掟」

作:阿部 順(既成)
潤色:西邑楽高校演劇部

あらすじ・概要

桜井家の4人姉妹のもとへ、次女の蘭が彼氏を連れてくるという。連れてくる彼氏にビクビクする夏実と杏。しかし、光一はごく普通の男子だった。ほっとしたその彼の前で、突然真希は「自分たちの親は離婚して、今週いっぱいで離ればなれになる」と告げる。

感想

この台本で前に見たのは2006年度の新島の県大会・関東大会ですね。有名な台本でよく上演されています。

パネルはなく、舞台上にばらばらと小道具が置かれ、中央にテーブルと椅子。このテーブル、会議室の長テーブル1つにクロスをかけた感じになっていますが、手前までクロスが垂れ下がってるし、奥行きが1つ分しかないので不自然。足を隠したかったんでしょうけども……。上手に本棚や電話機やスリッパ置き。上手が玄関ということらしい。下手に窓のパネル。窓の部分だけパネルにしてあります。奥に少し黒幕を引いて2段分の階段。3段か4段用意すればまだ階段に上がって消えていく感じが出たのですが……。部屋もだだ広く感じてしまいます。

舞台装置を作るのはお金も時間もかかって大変なのはわかりますが、それにしても取ってつけた感が満載でした。窓も「必要なのでしょうがない用意しました」って感じがしてしまう(窓の外を見るというシーンがある)。上下で部屋と外を分けるとか、階段はなくしてしまうとか、椅子とテーブル以外はあえて何も用意しないとか、照明で空間を区切るとか、他にいろいろやりようはあったように感じてしまいました。

さて演技とか。台本のドタバタコメディを活かした楽しい舞台で、本当に笑わせて頂きました。初見ではないのでどうなるか分かってるのに、光一母は面白かった。お菓子の缶が潰れるほど殴るのはすごかった。殴られた方を心配してましうぐらいに。立ち姿から性格もある程度見えてくるし、舞台作りをちゃんとしてきているなと感じました。

こういうドタバタコメディを上演するとき難しいことなのかも知れませんが、台本にはちゃんと物語があってそれもちゃんと表現しなければいけません。これから離れ離れになってしまう桜井家。その姉妹たちの「桜井家の掟」という絆。「掟」や離れ離れになる姉妹たちの想いが表現しきれていないかなという印象がありました。これから親が離婚する。すごく大きなことが起きているので、それについて姉妹それぞれ思うところがあるはずです。そういうものが演技からは読み取れなかった。「掟」に対する想いも。

知っている台本なのに、後半完全に見入っていました。それぐらい勢いがある楽しい上演だったと思います。おつかれさま!

富岡東高校「全校ワックス」

作:中村 勉(既成)
潤色:富岡東高校演劇部
演出:橳島 唯

あらすじ・概要

学校全体を生徒で分担してワックスがけする全校ワックス。そこでたまたま同じグループになった5人が廊下のワックスがけをしながら織りなす物語。

感想

これまた有名な台本で、去年の新田暁の上演が強烈に印象に残っているのですが、それと比べると劣る印象は拭えませんでした。

去年の感想と多少共通するのですが「掃除が適当すぎ」「廊下の構造が適当すぎ」の2つに尽きると思います。バケツに水を汲んでくるシーンがあるのですが、汲んできた水は一度も使うことなく片付けられます。なんのために汲んできたの? 適当に掃除をすることはそれは高校生だからあるでしょうが、それにしたって「ここまで掃除した」ってものがわからないし、人物によってまじめに掃除する人も適当に掃除する人もいるでしょう。序盤で大家が廊下の窓を開けるジェスチャーがあるのですが、その後で窓より外側を掃除しているのはどうなんでしょう。

この台本は綺麗にワックスがけしたところを汚すことに最大の見せ場があるのです。そのシーンを際立たせるには「綺麗にワックスがけ」する必要があるし、嫌々でもなんでも広い廊下を一生懸命ワックスがけするからこそ「あぁー」というラストシーンにつながるのです。

それと同時並行で人物間の心の距離がだんだんと縮んでいく必要もあります。頑張って上演してはいましたが、台本を活かしきれなかったと言わざる得ないでしょう。

明和県央高校「アネモネ」

作:小笠原 梢(既成)
潤色:明和県央高校演劇部
演出:橋川 結衣

あらすじ・概要

盲腸で入院している奈美と、見舞いに行く友人達の織りなす物語。

感想

最初ちょっと台詞が聞き取りにくいかなと思いましたが、後半は乗ってきたようでよくなってきました。ただセリフ回しが全体的に早めでリアクションが取れてない印象です。他校にも言えますが、人物がややステレオタイプかなと感じました。声を作りすぎに感じた人物も複数居ました。

声のテンションがほぼ一定で、立板に水のようにさらさらと流れるのであれあれあれ?と置いて行かれそうになります。全体的にセリフ量が多いかもしれません。ラストシーンの花ですが、退院を知らないのになんで持ってきてたんだろう?と思ってしまいました。

県大会初出場ということで、これからも頑張ってほしいなと思います。

富岡東高校「女や~めた!」

作:安倍いさむ(既成)
脚色:富岡東高校演劇部
※優秀賞

あらすじ・概要

女子校に入学した生徒が、ある時「男になりたい」と宣言。それが発端となって共学化検討委員会が発足し、議論が行われる。

「高校演劇Selection 2002下」収録作品。

感想

舞台中央と左右に1枚ずつ、計3枚のパネルが置かれ、それぞれに隙間があり出入りできるようになっています。中央には教壇ぐらいの段があり、その上に机と椅子、左右にも学校の生徒用の机と椅子が1セットずつ置かれ、そのまわりに椅子がバラバラと起これています。このバラバラと置かれた椅子の大半は使われることはなく、何の意味があって置いたのかよく分かりません。教室を示したかったのなら余り効果的ではありませんし……。あっても構わないといえば構わないのですが。

過去の男女教育などを、劇中劇を使って振り返るシーンで「木役」が非常に見事に機能していて笑わせてもらいました。コメディの部分は非常によく作られていて、特に演劇部部長だかの女役だった人が美味しいところを全部持っていった印象。人物づくりからして成功していたと思います。

講評で指摘があったように、劇背景を絵でめくってしまうのはチープだなというのは感じました。たしかに、この舞台ならこれはアリだとは思いますけど。ただし、舞台下手側の「演劇部」「上演中」という垂れ幕は必要だったのでしょうか? 途中「着替え中」などにめくって切り替えるのですが必ずしも正確ではない上、いちいちめくる音がするので気をそがれる。最後に「反省中」という笑いを取りたいだけだったのなら、余計ですので無いほうが良いと思います。

全体的に

以前、同台本を吾妻高校の公演で観たときも指摘したのですが、この台本には致命的な欠陥があって性同一性障害を扱うにはあまりにも考えが浅すぎます。人物像の問題はあまり感じなかったので演じ手でここまで変わるのだなあと感心する一方(潤色で全体的に直したのかも知れません)、ジェンダーの問題や男と女についての思慮は浅く、歴史観とか、振り返るフリ、議論してるフリをしてるだけで実際は何も議論していません。性同一性障害を発端にしながら、オチは共学化するかしないか。それなら性同一性障害なんて大層なものを持ってくることなく、共学化に焦点を当てれば済んだ話で、それを軸にして「共学化に対する登場人物たちそれぞれの思い」をきちんと描けば済んだ話でしょう。

つまり、男女のジェンダー論やその延長にある共学化に対して「単に反対」している以上の何かがまったく感じられず、その主題に関する人物たちの立場が「ただ反対」以上に何も感じられない。そのような台本上の欠陥を特に克服すること無く演じてしまった。ジェンダーや共学化に対する深い思慮は演技からも感じられなかったし、「男になりたい」に何の深みも想いも感じられない。結局それが問題になってしまった印象はあります。

しかしながら、コメディとして見ればこれほどの完成度で観客を沸かせたのは見事で、人物それぞれの演じ分けもきちんとされていました。とても面白かったと思います。