高崎北高校「ちょっぴりシアワセ」

脚本:ながみね ひとみ
演出:黒沢 有香(兼 主演)

あらすじ

十子(トウコ/女子高生)はクラスメイトの百恵に相談を持ちかけられる。「学校、辞めるかもしれないんだ……」。十子の家に東京へ行っている姉が帰ってきた。姉はすっかり東京モンになっていたのだけど、翌日にはすっかり田舎の姉に戻っていた。そんな姉に「彼氏元気?」と問いかけるがはぐらかされる。

また十子には気になる友達近藤君が居た。姉はそんな十子に、ディズニー映画のチケット(2枚)を渡す。誰かと見ておいでよ……と。そんな姉とクラスメイトの百恵の恋愛模様、そしていろいろな決断を聞きながら、十子は自分の幸せについて考え始める。 。

脚本について

はりこのトラの穴で公開されている脚本です(書いた人のblog)。ネットの脚本は結構よく使われるのですが、今年はこの1校だけでした。上演をみてすぐにネット脚本と分かってしまう、そんな感じの作品です(昨今の高校生風の作風)。何と言っても暗転回数17回、イメージとしては2つのシーンを細切れにカットとしてインサートする(挟む)感じですが、演劇でそれをやると無理が出ます。4分に1回は暗転していることになりますから。映像作品だったならよかったかもしれません(それでも少ししつこいかも)。

主観的感想

夏(夏休み前)という設定で、一目「あの服装で寒くないのかな」と演劇とは関係ないことを心配してしまいましたが、その寒さなどみじんも感じさせない演技をみせてくれました。パンフレットによると「8人という少ない部員で頑張った」とのことです。

演技にやや不安が。ギャグキャラであるお父さんは演技力の方がかなり……。全員、声のトーンや間ということ、その人物になりきって気持ちで演じるということをするとうんと良くなると思います。(これも毎年書いてるような気がしますが)驚いた演技をするときに「あー驚いた」というのは嘘の驚きで、「驚いたときにはどんな感じの気持ちになるだろうか?」という自問自答から入ってその結果として出た態度は本当の驚きです。演技というのは、台詞や動作の上辺をなぞる行為ではなく、なりきってこその演技であるということを忘れないようにしましょう。

演技、演出。細かいところですが、(これも毎年言っていますが)例えばビールやジュースの缶。それを持つ手が明らかに軽そうです。中身が入っているように見せようという配慮が足りません。あるシーンで母親が部屋から出て行くときにふすまを開けるとそこに姉が居て、すれ違いになるのですが、姉も母親も微塵も驚きません。よく考えてみてください。日常生活でドアを開けてその前に誰か居たら確実にびっくりしますよね。そういうことに対する配慮がないのです。発生も基礎練習も、感情表現も大切です。ですが、そういう登場人物の心境を考えなくては演技というものは始まらないのです。

暗転の主な要因である、十子と百恵の対話(ダイアローグ)ですが、これはいちいち部屋であるセットの前に椅子を持ってきて行い、そのシーンが終わると片づけていました。セットの左右が開いているのですから、そこに椅子を置きっぱなしにして照明で手早く切り替えるなどの工夫をしてもよかったのではないかと思います。

【全体的に】

少ない部員でもよく頑張っていましたし、楽しめるものにはなっていたのですが、感情表現についてはさらに頑張ってほしかったというところです。シナリオは十子が近藤君を通してちょっぴり大人になるものなのですから、そういう意味での成長前の十子の迷いや悩み、はっきりとしたものではないにしろ「恋愛ってなんだろう?」「シアワセってなんだろう?」みたいな漠然とした不安のような興味深さのような好奇心のような、そういう部分が(前フリとして)描き出されるとラストが生きてくると思います。その点、かなり不足しているように感じました。

つまり演出的な配慮不足。この点、去年の全体感想とかにも書いてあるので、(手前味噌ですが)参考にしてください。

審査員の講評

【担当】光瀬
  • 舞台装置(居間のセット)が具体的であるから、演劇としてはリアリティが求められる。よって日常を見せる必要があるのですが、立ったまま携帯で話すのは動きを見せるためだったとしても、それでもリアリティとして疑問が残る。
  • 全体的に日常っぽさが足りなかった。例えば洗濯物を畳みながら話したり、おかしを食べながら話したり、携帯メールをしながら話したりというものを取り入れればもっと日常感が出たと思う。
  • 感情の振れ幅とリアクションの振れ幅にギャップがあると疑問を感じてしまう。大きなぬいぐるみ(?)を観て「ああ驚いた」というのだけど、本当に驚いている感じがしない(編注:記憶が曖昧です。違ってるかも)。
  • この脚本は恋愛における様々な側面を見せるものであるけども、そういうものは実感があるかないかすぐに分かってしまう。例えば、十子の姉は「好き同士で仕方なく別れた」と言っていたがリアリティがないし(実感が伴わない)、百恵は中絶の映像を見たと言っていたが本当に見たのか疑問が残る。
  • 途中何度も出てくる十子と百恵のシーンでは、十子はリアリティがあるのに対し、百恵にはリアリティがなかった。「私のこと信頼してる?」という言葉には重みがなかった。百恵は十子と違い自分の道を歩み始めている、母になろうとしているということでそういう強さがかいま見えてもよかったと思う。
  • 十子がいう「百恵が私の知らないところへ行っちゃった」という台詞はよい台詞だと思う。
  • 近藤君は十子にとって彼氏未満なのだけど、そういう相手に対してはもっと優しくなるのではないか。
  • 近藤君に彼女がいると分かってがっかりするシーンでも実感があまり伝わってこなかった。
  • 全体的に、実体験+誇張という形で演じるようにするともっと良くなると思う。

安中高校「カレー屋の女」

作:佃 典彦
潤色:原沢 毅一(顧問)
演出:西川 由美

※最優秀賞(関東大会へ)

主観的感想

脚本はよく知られているようです。なぜか女性しか居ない離島に迷い込んだ、森本という男の話を描いた作品。 良い意味で高校演劇っぽくなく劇団の劇みたいでした。 まず登場人物が大人であって、高校生が演じているため若干の無理はあるものの、それでも迫力は十分。 こう、力強さのようなものが感じられました。 大人数が舞台の上で動く楽しみもあり、話が展開する横で皆で覗き見するなど印象深い。 イヤなオバさんを、ここまで高校生が演じられるものなのかとも感じました。

ただ、全体に完成度が高めだったせいか、逆に細かい点が気になりました。 死体を埋めるシーンで、シャベルで土を盛る動作がよく出来ていたのに対し、 バケツで土をかぶせる動きが軽そうであったり、 埋めかた、コップで台所の蛇口から水を注ぐ動き、カレーをよそり食べる仕草などが 適当であったりといった感じです。 また、若干森本の演技が弱かったように思われます。 あの状況に対して、やや冷静すぎ、楽観的すぎに思いました。 最終的にも、その主人公の心理が見えなかったためにオチの解釈が難しい。 この本(脚本)は人によって「汚いものと毛嫌い」しかねないものですが、 演劇らしいとも言えます。 とにかく圧倒されました。

審査員の講評(の主観的抜粋)

  • 大人向けの台本であって、なぜ高校演劇にこの本を選んだのかは若干疑問が残る。
  • (オチと関連して)森本という存在が島の人々にとってどんな存在だったのか、 また全体としてどういうお話なのか(オチなのか)がいまいち不透明、説明不足。
  • 島の人々が、どうしてこのような無惨なことをしなければならなかったのか。 なぜそれほどまでに追い込まれてしまったのか。そういう人間心理をもっと描いて欲しかった。

関東学園大学附属高校「On」

脚本:中村 真悠子
演出:関学演劇部

脚本について

はりこのトラの穴にて公開されていた、 高校生(?)の執筆脚本のようです。現在はこの脚本は公開されていません。

主観的感想

テニス部存続の危機!  二人劇独特のムードを持ちつつも、内容はネタ盛りだくさんというか、 ユーモア盛りだくさんというか、とにかく笑いましょうというもの。 最後には「上演時間ちょうど何々分何秒、ぴったし!」なんて騒ぎ初めて、もうほとんど何でもあり(笑)  ここまでやりたい放題やられると逆に気持ちいいぐらいです。

一言で表すなら「不真面目に大まじめで取り組んだ劇」で、 本来は学校の体育館とかで(学校)内輪ネタをちりばめて行うための脚本っぽいです。 こんな演劇1校ぐらいあってもいいよね、という印象なんだけども、 結局それだけなんだよなーってのは演じた方も分かっているのでしょう。 まあでも、さすがに1時間が限界でしょうか、お腹一杯。 結局、この作品は笑えるか笑えないかですから、笑えればいいんじゃないかと。 ただ、あれだけ演じられるなら、今度は別の作品を選んでやってほしいですね。

審査員の講評(の主観的抜粋)

  • ずっとこんなペースで、最後どう締めるのかなぁと思ったら、お客さんにラストを押しつけて終わった。 時間が来たから終わりなの、まだまだ出来るけどしょうがないでしょ、みたいな終わり方。
  • やっぱり演劇なのだから、舞台の上の虚構に観客を引き込んで欲しい。

前橋西高校「改造人間」

脚本:喜多 淳
演出:大久保 岳

主観的感想

TVのヒーロー物に、演劇的ギャグを取り入れた作品。 笑いを狙っているのは分かるのだけど、不発が多かった様子。 笑える、笑えないの境界は難しいところにあるんだと観ていて感じました。 登場人物達が次々と気持ち独白するあたり、 観客を少し置いて行っている印象を持ちました。 (演技の)動きも適当で、間がうまく計れないのか、 タイミングを伺っている姿を何度も見かけました。 音のつけ方も、何か鳴らしてごまかす、という意図を感じてしまい、 もっと工夫をしてほしいなと感じた作品でした。

審査員の講評(の主観的抜粋)

  • 全体にメリハリがないために、流れがベタベタになる。 もっと、話の流れや、動き、シーンにメリハリをつければ違ってくる。
  • ステージの広さ負け。地区大会よりも広い舞台に、 地区大会で使った大道具を持ってきたのは失敗。 そのため、こじんまりとしたドタバタ感が出なかった。 舞台を狭める選択があっても良かったのではないか?
  • ピン(スポットライト)の外は、隠れているという、 芝居を観る上での約束があるが、 この劇ではピンの外の役者が動いてやりとりをしていた。