前橋育英高校「ぐらすとれ ~Graduation×Frustration~」

作:南雲 慶祐(既成/OB創作)
演出:安原実果子

あらすじ・概要

高校式一週間後、教室に集まった「ちか」と「らく」と「梅子」。卒業旅行の打ち合わせの中、在学中に彼女たちが抱えていた想いが出てきて……。高校生活は本当に楽しかったんだろうか。

感想

最初3本のサスで卒業式の呼びかけシーンから始まります。「楽しかった、高校生活」というフレーズを強調して暗転。机が一つ置かれたステージ。教室のイメージのようです。

冒頭でリュックの中からお茶を探すシーンがあり「お茶しかないや」とお茶を取り出すのですが、探して見つけるという様子がまったくない。探すフリをして、予め用意されたお茶を中から取り出しつつ「お茶しかないや」と台詞を述べてるようにしか見えない。このシーンだけではなく、全体的に「ここはこういう演技」に終始してて、台本の人物像も結構ステレオタイプ。演じ方もステレオタイプ。

ステレオタイプで人物の違いがハッキリと分かるので見やすくはありますが、逆に言うと深みがない。そして、全体を通しての演技・演出が「コメディ」のノリになっているなという印象も強くありました。この台本はそこだけじゃないですよね。

雑巾野球のシーンはくだらなくて面白かったです。演じてる人たちがちゃんと楽しんでる様子も伝わってきました。あと、どちらでもいいことですが、ちかと梅子かなの服装が遠目に似てたので、1人本当に制服でもよかったんじゃないかなとも感じました。あと雑巾も白い使ってないものだらけだったのが気になりました。

全体的に

ものすごく頑張って演じているのは伝わってくるんだけど、台本が少し問題かなという印象があります。表現したいことはわかりますが、それにしては台詞がストレートすぎて巧くない。台本が全部悪いとは言いませんし、本を芝居にする過程でも巧く処理できてないなと感じた部分はあります。しかし、共感を覚える人にはえぐるような話かもしれません。

途中で挟むサスのシーンやブルーライトで処理する現実進行ではないシーンは、とても抽象的で比喩的な表現を使っていてうまかったので、余計に地の台詞との乖離を感じて勿体無く感じました。これだけ抽象的な表現をする実力があるのに、台詞が直接的なのでここも少し直してよかったんじゃないかな。あと詰め込みすぎな感じもあります。

演技や芝居を作る実力はあるのになという印象が強い上演でした。

新田暁高校「全校ワックス」

作:中村 勉(既成)
演出:長瀬 颯希

あらすじ・概要

学校全体を生徒で分担してワックスがけする全校ワックス。そこでたまたま同じグループになった5人が廊下のワックスがけをしながら織りなす物語。

感想

全校ワックスってこんなにおもしろい台本だったんだなというのが印象的でした。

中割幕を使って少しだけ奥への道を開けた舞台。舞台全体が廊下という設定のようです。廊下にしては少し幅がありすぎたかなという印象があります。学校のどこならこんなに幅のある廊下があるだろうか?と。直線を照明で区切るのは難しいとしても、もう少し方法はなかったんでしょうか。舞台の自由度を取るなら幅はまあ良いと思うのですが、それでも「ここからここまでのこういう構造の廊下である」というのが少しも見えてこなかった。それは掃除やワックスがけのシーンからも伝わりませんでした。装置がないから適当でいいってことはないですよね?(前橋南を例に出すまでもなく)

小道具である掃除道具がうまく使われていて、バケツも、外れるデッキブラシもすごく面白かった。たぶん、外れるように仕込んだんだと思うのですが、うまかったなと思いました。バケツやワックスの入った容器を持ち運ぶとき、最初はかなり巧みに中に水が入っているようにしてたのですが、後半適当だったり、人物によって(特に相川)持ち方が甘かったりして(ギャグ的なのは別として)重さに統一性がないと感じました。揺れてしまうと軽く見えるので相当注意するか、水分は無理でも中に重りぐらい貼り付けてもよかったのかもしれません。あとワックスがけするとき、ワックス容器を持ちながら移動するかなという疑問ありました(ベタベタするのであまり持ち歩きたくはないはず)。記憶がたしかならワックスがけする場所の近くに移動しながら使ってたと思います。

各人物がよく立っていて本当に面白かった。人物の距離や移動も非常によく配慮されていて、同時進行させながらもスポットを当てることを怠らなかったので見づらくならず分かりやすかった。掃除の仕方にもきちんと個性を出していたのも好感があります。ただ全体的に散漫な掃除が多くて、もっと几帳面に箒がけやワックスがけをする人物がいてもよかったかなとは思いました。隅々まできっちりやるタイプも居ますよね。

段ボールで廊下に橋を作るシーンがありましたが、この会場の床は茶色でしたので、白い段ボールを用意したほうがわかり易かった気はしました。ただ白い段ボールだと適当に持ってきた感じはしないのでリアリティのバランスとしては難しいところですが、そもそも手近に段ボールがあること自体リアルではないので白くても問題ない気がします。

それにしても大宅さん美味しすぎ(笑)

全体的に

正直、とても面白かったのです。爆笑してました。6分オーバーでは仕方ないですが、関東行ってほしかった。時間オーバーしているということは当然わかっていたと思うのですが、一切の焦りを感じさせることなくきちんと最後までやりきったことは賞賛したいです。実際、観客には時間が多少オーバーしようがしまいが関係ないことですから。

講評や感想ボードなどで前半の間が少し緩い(間延び)しているとの指摘がありましたが、個人的にはこれぐらいが好みです(スタート少し聞き取りにくかったけど)。たっぷり、ゆったりとしながら、静と動をきちんと使い分け、止めも効果的に使いながら演じられていたと思います。

これ以上どこを改良すべきかというのは難しいのですけど、最初から少し仲が良すぎた感じはあります。最初は初対面っぽさやヨソヨソしさ、なんでアイツと一緒になっちゃったんだろう……ってのがあると、それが「偶然」集められ、集められたことで仲良くなってしまった。偶然という神の仕業によって仲良くなってしまったので、足あとを付けたくなったということに繋がるんじゃないかなと感じます。本当に何も事件の起こらない舞台なので、こういう台詞に現れにくい心理的な変化がより一層重要になってきます。今回の上演では最後に足あとを付けたくなる心境的な変化までは感じ取れなかった。足あとをつけたことの意味は理解できても、自然と伝わりはしませんでした。

あとはやはり掃除の様子を今よりいっそうきちんとすること(真面目に掃除しろと言ってるのではありません)。どこがどう掃除されたのか伝わるようにすることなんじゃないかと思います。「ああ、さっきせっかくワックスがけしたところに足あと(紙吹雪)が……」と今のままでは見てる側が思えないのですよね。

高崎商科大学附属高校「修学旅行」

作:畑澤 聖悟(既成)
※優秀賞(関東大会へ)

あらすじ・概要

修学旅行で同じ部屋の5人。旅行地は沖縄。旅行も終盤となり、恋話に花を咲かせていると……。

感想

2×5のござのようなもの(固定されてる)が置かれた10畳の部屋に布団が5つ川の字に敷かれている。

女子5人の非常にワイワイとした上演で、服をきちんと分けていたり配慮もされていたなと思います。元気いっぱいでワイワイ感がよくできているなと感じたのですが、全体的に少し早口であるようにも感じました。もう少し力が抜けているといいかも。講評でも指摘がありましたが、キーとなる口癖の「でー」があまり目立たなかったので間をとるとか発音を変えるとか必要だったと思います。最後の「でー」も聞こえなかったし。

最初は少し固かったけど、先生が滑ってコケそうになったあたりから(たまたま?)引きこまれて面白くなってきました。マクラ投げは面白かったです。マクラが大量に出てきたのは本当にひどいですね。とても楽しそうでした。その先生ですが、先生っぽく気を使っていたのに少し動作と発音が速かった印象があります。大人はもう少しゆっくり動きますので注意しましょう。特に、早く捌けなきゃみたいな焦りが見えました。これと関連しますが、舞台全体を部屋とすると広すぎるので左右にパネル立てたり、幕や照明で狭めるぐらいできなかったのかなという印象はあります。別に舞台の外を部屋と廊下の境界にする必然性はないですよね?

全体的に

台本の面白さをよく演じていたとは思います。元気いっぱいなのもよかった。

苦言を呈するなら逆にそれだけだった印象が強いです。5分残りましたし、もっと力を抜いて間を大切にするところを作っても良いと思います。全体的に間が早く、台詞の言い合いになっているシーンが非常に多かった気がします。あと全体的にはコメディだからもっとコメディしても良いですよね。

高崎健康福祉大学高崎高校「マリオネット組曲」

作・演出:森田 涼子(生徒創作)

あらすじ・概要

本番を1週間後に控えた演劇部。舞台で練習をしている泉水は、次々とめまぐるしく舞台が入れ替わる設定に違和感を覚えながらそれを演じていき……。

感想

ホリのみの簡素な舞台。青いホリの雨のシーンから始まります。雨音が少し大きいな、きっかけがずれてるなと思ったら、その劇が演出家(役)によって止められて「雨音大きい」「きっかけおかしい」と指摘される。失敗したように見せてわざとという憎いかつ挑戦的な演出で舞台は始まります。舞台が止まりバラバラと出てくる部員たち。講評でも指摘はありましたが、何の係の人が舞台に出てきたの?という疑問はやはりありました。

音響の場所に、音響役を配置したり、客席から演出がかけて行ったりとか、サスと声を対応させる演出とか色々面白く工夫されて面白かった。そしてラスト怖かったです。入り込み過ぎちゃったらこうなりましたってある意味ホラーですよね。どうオチを付けるのかすごく気になっていたのですが、そうなりましたかと。講評の指摘にもあるとおり投げっぱなしではありますけど、これもありかなとは思います。

女装のキャラがすごくいい味出してたのですが、少し滑舌が悪かったかな。もうちょっと発声を練習してほしいです。しかし、それ以外はほぼ声の通りもよく、分かりやすく演じられていました。

全体的に

作・演出・出演(演出役)の、かなり挑戦的な(意図してかどうかはともかく)上演ということでこちらとしても気合が入ります。

結果どうかというと甘かったなと言わざる得ません。いや、すごく面白い台本なんですよ。生徒創作でこれだけよく書けているとすごいなと思うのですが、それはあくまで生徒創作という目でみたときで高校演劇での創作脚本全体としてはまだまだの部分があります。

主役の泉水がどんな役にも適応していくということを表現するための様々な設定の舞台(エチュード)だったと思うのですが、逆にいうとそれ以上の意味がない。この構成でこの舞台なら、このエチュードにもっと別の意味を持たせて、ラストシーンで何らかのつながり(意味付け)があったらもっと良かったんじゃないかと感じます。

もう1つ。この芝居は微に入り細に入り隙の無い演技・演出をして初めて成り立つと思うのです。全体的にはよくできている上演も、細かく見ていくとゆるい部分が目についた。具体的にというと難しいのですが、例えば前橋南ほどまでには劇空間(ムード)が作れていなかった。主役の泉水が翻弄されている様子も曖昧な部分があり、まだ自分が無いという部分についても演出やエピソードが不足していたと感じます。演じさせる以外の説明の仕方もあったのでは? またやや適応し過ぎで、どうしてあそこまでの狂気に至ったのかなという部分が透けてみかなかった。

面白いし、よく演じられていたんだけど、あと一歩という印象が残りました。

桐生南高校「笠懸野」

作:伊藤 藍(顧問創作)
演出:新井里実、春山奈々
※優秀賞(次点校)

あらすじ・概要

マラソンで3位となってしまって居場所を失った男が河原に。そこに魔女のような女が現れ……。ついで同級生たちが現れるがそのとき男の姿はなく……。

台本の感想

河原での出来事と河原の記憶としての回想。笠懸地方で昔あった出来事の再現。男と同級生たちの関係も、何も説明しないまま進む舞台進行。そして最後に、男が自殺したことが明かされる。着想や構成は面白いなと思いますが、講評でも指摘があったとおり(顧問創作なので言い淀んでましたが)全体の構成から見ると個々の回想エピソードが完全に浮いてしまっていて正直なところ「要らないよね?」としかならなかった。散漫な話という印象が拭えません。

男と魔女の関係(会話)で進めてしまったほうがよっぽどすっきりするし、もっと男の深い部分を描くこともできたんじゃないかなとしか思えませんでした。マラソンで自殺は円谷幸吉がモチーフなんでしょうか。

感想

舞台の端から端まで河原の土手が表現され、奥にホリ。手前への階段が2つ。河原や手前の地面全体に落ち葉が置かれ(河原には落ち葉の絵と落ち葉を貼り付けて)いました。今年大掛かりな装置を用意したところは少なかったので、よく作ったなと感じました。でも土手にしては高さが1mちょっとしかなく傾斜が緩いので低く感じてます。仕方のないところですけど。

女のしわがれた声の演技うまかったですね。あと田中正造とか、そのあたりの回想エピソードも非常によく演じられていました。ただ人物によって滑舌や声に力が入りすぎたり、複数人で同じ台詞のところは声がずれたりして聞き取りにくかった気はします。これが現代の言葉なら問題なかったのでしょうが、古い言葉なので通常以上にきっちり聞こえないと分からないのですよね。

土手が紅葉色でホリも紅葉色にしているシーンがあるのですが、綺麗と言うよりも色が一緒で混ざっちゃってる印象が強かったので、もう少しホリの色味を変えるとかできなかったのでしょう。雷の演出は上手かったと思います。あと舞台下手の巨大なブランコとその音は非常に良く効果的に使われていました。

他方、水音のSEがループの繋ぎ目がハッキリ分かってしまい、しかもループの間隔が短いので気になってしょうがなかった。PCでフリーのWave編集ソフトを使えばこの手のループは簡単に処理できますし、別の音源を探してくることもできたと思うので(川音にしては土手の大きさと乖離している)絶対的にどうにかすべきだったでしょう。

全体的に

演技や芝居の実力はあるし、よく演じられていたのに台本が少しもったいなかったかなという印象はあります。この台本ならこうなるよねという感じです。

ただまあ、台本が散漫なところを散漫にならないように演出する配慮は可能だったかもしれません。スポットを当てるとしたら男なのかな。男とその同級生という関係性でもよかったかもしれない。やっぱり台本を直さないと難しいところがありますけど。