高崎女子高校「Story of story」

作:川口 麻美(創作)
演出:川口 麻美

あらすじ

高校生小説家の奈央(なお)が、文芸部部室で書けなくて悩んでいる。まわりには賑やかな友達。部員の恵介(けいすけ)と話しているとき、奈央は恵介の姉、遙(はるか/小説家)の幽霊が見えて……。遙は、作品が書けなくて困っている奈央に、自分の代わりに自分の作品を書かないかと言うのだけども。

主観的感想

【脚本について】

雑然とした部室でのやりとりからはじまって次第に奈央に焦点を当てていく様子や、文芸部部室であることや高校生作家であることなどを決して無理して説明せず、自然な会話の中で情報が出るようにかなり注意深く書かれています。今年はどの高校の創作脚本もかなり初歩的なミスがなくレベルが高かったのですが、その中でもこの辺の会話の処理や人の出入りをうまく使い変化を付けたのは秀逸です(個人的には創作脚本賞かなと思ってました)。

じゃあ手放しで絶賛できるかというと残念ながらそうでもなく。途中遙(はるか)が昔書いた小説を朗読するシーンがあり、朗読代わりに劇中劇が始まるのですが、これが結構長い。しかも、「物語についての物語」という作品テーマからして、そこに出る劇中劇(内容)の必要性が全く感じられません。もっと時間を減らして、普通に朗読+αぐらいにしておけばよかったように感じます(朗読劇みたいな感じで)。そもそも、そこに時間と労力を割くならば「物語を生み出す側の苦労や苦しみ」(奈央)と「物語はすらすら書けるのに書くことができない苦しみ」(遙)という対立をより明確にし、もっと深く描くべきだったのではないでしょうか。二人が互いの言葉を交わし、ときに争ってこそ、本当に物語りについて何か描くことが出来たのではないかと思います。

【劇について】

まず初っぱな声が聞こえない(聞き取りにくい)。幕開けて、ゴミっとした部室の様子はよく作られていて、この辺はさすが。前半、リアクションの間(台詞に対する反応の台詞)がわずかに早いところがいくつか。時間がないのか、練習慣れなのか分かりませんが、もったいない感じはしました。関連して気になったのは、「頭を打ったらしい」→「そこ腹っすよ」という掛け合いが被せ気味だったのですが間があった方がいいと思うし、逆に部室からみんな居なくなったとき「みんな帰っちゃった暇だなー」という台詞は、もう少し暇そうにしてから言った方がいいと思います。

物語のキーポイントである遙ですが、最初みんなと同じように制服を着て部室にいて、後々実は幽霊でしたという感じになり、その後、白い衣装に着替えています。観た感想としては、「実は…」という感じの意表がなく自然な流れで「あー幽霊なんだ」となるんですけど、そこに妙な違和感がありました(例えば、昨年の共愛昨年関東大会の秩農とかの幽霊の処理の仕方に比べると)。遙と奈央と恵介のシーンやその前の段階で、もう少し気を配って遙という存在の違和感を慎重かつ十分に出してから幽霊という設定を出してほしかったと思います。あと、幽霊であることを見やすくするためにその後のシーンで着替えさせたのだと思うのですが、それだったら最初から着替えさせててもいいような感じもするし、それよりも元から白衣ではない別の記号を(一人だけ夏服とか、目立つアクセサリとか、色々やりようはあったと思うんですけど)持たせておくほうが自然だったように感じます。

【全体的に】

県大会常連組の高女ですが、一時期の質は維持出来ず年々下がり気味。去年は県大会を逃しており今年はリベンジという感じです。そういえば上演時に着ていた女子制服は高女のではなく健康福祉大付属の制服にみえたのですが(12/24訂正、見間違え&勘違いでした)。高女の制服は黒の上下なので、男子生徒の制服(学ラン)と区別が付きにくいという配慮だと思うのですが、こうこう細かい気配りはさすがでした。

それに限らず、照明、装置(大道具・小道具)、台詞回しなど、本当に細かいところまで気を配って完成度を高めていた一方で、話(テーマ)を中心とした演出・構成という面ではひとつ、ふたつ物足りないという印象です。思うに、多分、劇中劇でやったようなストーリーが本当は好きでやりたかったんだと思いますが(だとすると割り切れてなかったかな)。

審査員の講評

【担当】小堀 重彦 先生
  • 舞台は文芸部で劇中劇もあるなと期待していた。
  • 綺麗なパネルに段ボールなどのアクセントで雑然ともしていて良かった。特に壁の電気スイッチの処理は照明とのタイミングもバッチリで、また電気を切っても切れたことは分かりながら真っ暗にはならないなどよく出来ていた。
  • 劇中劇のとき、上手、下手から捌けるのは、少し気になった。また劇中劇において部室が見えてしまうのは気になった。
  • 朗読から劇中劇に移行するとき、台詞のハモりからうまく劇に移行した。
  • 文芸部の部室のカレンダーが10月から2月に変わったりとか、実に細かいところまでよく出来ていた(手抜きが全くない)。
  • 劇中劇のとき、奈央と恵介が着替えて出てくるのだけど、髪型がそのままなのが気になった。帽子を被るとか何か工夫をしてほしかった。
  • 遙が最初制服で、次に白い衣装(ゆうれいの格好)になったのですが、その遙の想いはきちんと奈央に伝わったのかなという疑問が残る。
  • 音響が大きすぎて台詞をかき消してしまったところがあったのが残念。
  • 台詞を喋るとき、キーワードに気持ちを込めるあまり、それ以外の部分で聞こえにくくなっていた(編注:多分たくさん話してるようなシーンだと思う)。
  • 全般的には創作でよく頑張っていて、いい芝居ができていた。

市立前橋高校「EASY COME, EASY GO ~大切なモノ~」

作:山本 香苗(創作)
演出:(表記なし)

あらすじ

主人公の「かな」は、新人小説家。しかしデビュー作以来なかなか作品を作ることができていない。そこに、なんでも思いを叶えるセントラルドリームカンパニーなる会社のいかがわしグッズの話を聞いて、そこへ行ってしまう。

グッズの効果で次回作を書き、売り上げランキング入りになる「かな」。かなの友人たち、「ゆり」は歌手を目指すがなかなかオーディションに受からない。「だいすけ」は「かな」の小説が好きで、それを出すために出版社に入っていて「かな」を応援する。そんなある日、グッズの効き目が切れてしまい……。

主観的感想

【脚本について】

話としては王道の猿の手の変形。1つ前の高女の上演と並び、小説が書けない主人公なのですが、また趣向が違うという印象でした。話は実にシンプルで分かりやすく、自分の力でなく叶った夢に意味はあるのかということです。最後は「かな」がなぜ小説を書きたかったのかということを思い出し終焉します。

全体的にコメディタッチで描かれているのですが、ドラマという意味ではかなり不足。例えば高女のそれと比べても、書けない苦しみや安易に(グッズという手段に)逃げるほど追い詰められる様子もなく(または逆に、本気ではなく買ったのだけど効果が本物で驚くという様子もなく)、歌手を目指して一生懸命がんばる「ゆかり」の一生懸命さも描写されず(それがわかるようなエピソードもなく)、同じように「だいすけ」の「かなの小説が好きだから出版したい」という懸命さもない。

やりつくされているテーマだけに、エピソードの組み合わせ方は星の数のようにあると思うのですが、本来そこに充てるべき描写のすべてが笑いに費やされているので話が薄っぺらくなっています。全体の構成や、メイン3人の人物配置、その3人の組み合わせでシーンに変化を付けるなど上手くバランスが取れているだけに、非常にもったいないという印象です。例えば、講評で言われていた「三角関係」はまさにうってつけのやり方だったと思います。

【劇について】

「場面は変わって次の日」「1時間後」「2時間後」と、登場人物みんなで声そろえて時間経過してしまうというやり方やSEを役者が台詞で言ってしまう処理など、非常に面白いと感じました。その手があったかと。コメディメインですが、動きやポーズで笑わせるのがうまかった。間とかも大体適切です。

舞台セットは非常に簡素で裏に黒いパネルが3枚、その手前、舞台中央に大きさ的にも高さ的にもたたみ4畳ほどの木の台があり、その中央2枚がさらにたたみ一畳分高くなっています。全体の出来に対し舞台装置は適当な感じで、シーンが比較的多いのですから左右で別のものを用意して使い分けるなど、工夫がほしかったところです。

上でも書きましたが、やはり主人公「かな」の苦しみや迷い、「ゆり」の歌手に向けてひたむきな様子をもっと描写してほしかったところ。最後の「何で小説が書きたかったの」「わかんないよ、何で書けないの」などの問いかけやラストの結論の出し方などは良かったのですが、結局そこ(カタルシス)に至るまでのドラマ(抑圧)が不足したという点に尽きると思います。

【全体的に】

話は単純ですが、演出と演技で押し切ったという印象があります。OPでダンス+プロジェクタの投影、エンディングでBGMをバックに動きだけみせるという映像的演出がされた劇でした。そう考えれば、暗転も7~8回あったし、BGMもやや映像的に使われていたし(参考)、どちらも鼻に付くほどではなかったので大きな問題では無いにしろ、ではこれで万事OKかといわれると疑問符を出さざるを得ません(演劇は映像ではないのですから)。

コメディとしてみれば面白かったのですが、これもまた手放しで絶賛できるかといえばそうでもなく。多分、暗転3回で書いていれば、否応でもドラマがきちんとしたのではないでしょうか。

審査員の講評

【担当】鈴木 尚子 先生
  • 高女のときと同じ小説が書けない主人公ですが、また別の作品になっていて、こちらは何かに打ち込んでいる青春もの。役者が楽しんでる様子が伝わってきた。
  • 話がシンプルで分かりやすかった。
  • くちびる星人、まつげぷるるん星人など(編中:グッズの変な人形)、手作りだと思うけど可愛くできていた。
  • 基本的に裏の黒パネルの隙間から出入りするのだけど、平台の木目がむき出しで現実に戻される。また小説を書くシーンでは立ったまま書いていたし、そういう意味でも箱などを置いてみてはどうだったか。
  • 小説が書けないという「かな」のドラマが薄い。
  • 「ゆり」は素敵でいつも「かな」を励ます役回りだったが、例えば「ゆり」は本当は「だいすけ」のことが好きとして、「だいすけ」は「かな」が好きというふうに三角関係とかがあれば物語に厚みが出たのではないか。
  • オーディションのとき、サス(天井のスポットライト)だけで「ゆり」の顔がよく見えない。ピンスポ(前面からのスポットライト)とかあててほしかった。

高崎東高校「ステップ」

作:高崎東高校演劇部(創作)
演出:(表記なし)

あらすじ

NEET(ニート)の兄、妹、母親、単身赴任で家にいない父親の家族コメディ劇。兄は昆虫にはまっていて、最近の行動はなんだかよく分からない。そこに近所でおこる不審な誘拐事件の犯人として兄が疑われているという噂が舞い込んでくる。兄と父親が昆虫の幼虫のことで電話してるのを盗み聞きした母が、てっきり兄が子供を誘拐したものと勘違いして……。

主観的感想

【脚本について】

コメディの王道かな。電話の会話を母親に盗み聞きさせ、兄を誘拐犯と勘違いさせるなどの作りはうまく出来ていました。講評でも述べられているとおり、おっとりな母親、元気な妹、NEETの兄という人物の色づけがうまく出来ています。

その一方でやっぱりこれも話全体としては無理があります。家族劇、青春劇だと思うんですが、出てくる人物のキャラ立てはうまくできているのに深みや背景がない。最終的に昆虫好きの兄は北海道に単身赴任している父親の元へ引っ越すという結論を出すのですが、そこに至る葛藤やら、なんでNEETなのかといった描写、そんな兄のことを母や妹はどう想っているのかなど、そういうドラマが全くありません。

では全編とおしてコメディなのかというと、コメディとして見たときも中途半端。「60分笑いっぱなし」とはいきません。作者が演劇部表記であることや内容から推測して、多分話を構成したというよりは数珠繋ぎにシーンを作って繋げていったのではないかと思うのですが、それだけに非常に散漫な作りになってしまいました。

【劇について】

後ろに幕を張って、その前に家財道具を置くことで家に見立てているのですが、やっぱりパネルがほしい。壁があって囲ってしまわないと家という感じはどうにもしません。照明のあたる範囲を狭めればよかったのでしょうが、どこの高校もそういうことをしていなかったので、おそらく照明のあたる部分を絞れない舞台(照明装置)だったのでしょう。

笑いを狙っているのですが、全体に微妙な笑いです。というのも台詞と台詞に「間」がほとんどなく、台詞のテンションがほとんど一定だから「ゆるみ」などがなく見ていて飽きてくるのです。コメディとして中途半端になった原因はここにもあると思います。唯一電話で父とやりとりするシーンは一番おいしく面白かったんですが、他が散漫すぎてしまったといえるでしょう。あと電話の声、少し大きかったかな。

【全体的に】

ドラマ性がなくテンポが一定だと、もうそれは飽きるしかなくなるわけで、そういう意味で勿体ない劇でした。とはいえ1つ前の市立前橋同じく、全くなってない悲惨なものかと言うとそうではなく、劇にはなっていますし初歩的なミスや致命的な演技の欠陥もありません。逆に言えば、それぐらいドラマ性がないシナリオと、テンションの変わらない芝居が悪影響するということを示した典型例とも言えます。全体に一生懸命になりすぎたあまりの失敗かもしれませんね。

とにかく、演じるときのテンションを変化させること、台詞と台詞のあいだにある「間」を大切にすること(練習を録音して自分たちで聞いてみること)、この2点を注意するだけでかなり変わるのではないかと思います。それだけやってもよく分からなかったら、さらに県大会上位の上演やプロの上演、全国大会の上演などを「間」や「テンション」に着目して見てみるといいでしょう。

審査員の講評

【担当】小堀 重彦 先生
  • 面白い台本で、着想が優れていると思う。
  • 父は北海道へ単身赴任、おっとりした母、サクサクとした感じの妹、主役のカブトムシのかぶり物(よく出来ていた)を被った兄。それぞれキャラが違うというのは良いドラマのポイントになっていた。
  • カブトムシの子供を間違えて殺してしまったという兄の電話を、(人間の)子供を殺したと勘違いした母や、事実が分かったときの母の戻りかたもほんわかしていた。
  • ラストシーンのあと、なつき(兄)は昆虫学者になったのかな、何になったのかなと今後を想像させた。
  • シーン最初で扇風機で声が変わるところがあったが、ややしつこいように感じた。しかも客席ではそんなに声が変わったように聞こえなかった。
  • いたって普通な家庭環境から立ち上げて60分よく作ってあった。

桐生高校「DisHarmony」

脚本:山本 雅之(生徒創作)
演出:小林 祐佳(兼 主演)

あらすじ

ある日の帰り大谷先生(女)は奇妙な露天商(お婆さん)に呼び止められる。「何か買っていかないか?」と。そして「願いが叶う本」をタダでもらって帰り、その本の開けると悪魔が現れた。悪魔は「誰か一人を殺す」という願いを叶える本なのだと、大谷に説明する。そして「誰かを殺さなければ自分が死ぬ」のだと。大谷は学校の生徒、教職員たち、彼氏に対して少なからず恨みを持っている(ことを回想する)。

でも誰かを殺すなんて選べない。「さあさあ、恨みがあるんなら誰を」とゆさぶりをかけられると、最後に悪魔を指名するのだけど……。

主観的感想

【脚本について】

悪魔のささやきと、日頃の恨みというありがちの構成です。ありがちということは無難ということで、それ自体問題はありません。ですが、いちいち回想するたびに暗転するので少々テンポが悪いことと、出てくる登場人物が「全部が全部ステレオタイプ」(いかにもありがちなキャラ立てで現実には到底いそうもない感じの人物像)なので、どうにも笑い出したくなってしまいます。

ステレオタイプな人物を使うなとはいいませんが、大谷以外全員ステレオタイプにされてしまうと、感情移入しずらいと言いますか、話全体が陳腐に映ると言いますか、もうちょっと考えようね……と感じてしまいます。周り中から追いつめられた境遇を出すという(シナリオ構成上の)方向性は全く間違っていませんが(むしろそう構成したことは十分に評価出来ますが)、そのための手段をかなり安易に選びすぎたかなと感じました。(参考:創作脚本を書かれる方へ

【脚本以外】

シナリオ上の(要請する)人物がステレオタイプなのでもちろん演じる方もそうするわけですが、実際にはそのステレオタイプを演じきるほどの演技力もないために、観ていて苦笑いしかできないという状況でした。もし相当の演技力と迫力をもってして演じきれば、それはそれですごいものになったとは思いますが……。

3幕や5幕で内幕を引いてその裏で舞台の転換を行っているのですが、その作業音が「ガラガラ」「ゴロゴロ」(幕の前で劇が進行中に関わらず)聞こえきます。これはひど過ぎます。最初のシーンで大谷先生がバッグをもっているのですが(おそらく帰宅途中)、その中身が空であるように見えます。つまり帰宅途中らしさがありません。また大谷先生が「~だわ」「~わよ」「~わ」を多用するのも不自然です。

【全体的に】

あまり深く考えることなく、こういうときはこう、ああいうときはああ、と先入観だけで劇やシナリオを組み立ててしまったという印象を受けました。もっとよく調べて、考えて、他の(うまい)演劇を参考にして、という作業をすると改善されるのではないかと感じます。そういう意味で総じて勉強不足、演技についても努力不足といえるのではないでしょうか。

審査員の講評

【担当】石村
  • 声がアニメの発声のような感じがする(光瀬氏)という意見がありました。距離感がなくて相手との距離が10cmでも5m同じような声の出し方をしていた。
  • 照明の外で演技してはダメです。位置を失敗したら照明の中に移動しないと。
  • 舞台装置があっさりしすぎ。
  • 最初のシーンで黒幕に黒い衣装というのはコントラストとして少し考えた方がいいかと。
  • ストーリーとしては大谷先生が徐々に追いつめられていくというものですが、勢いのようなものがあって真に迫る。
  • 大谷先生が振られた男を恨んでいたが、あんな男だったら別に振られてもいいのではと思った。
  • 最初の老婆と悪魔が(役者は同じ人でしたが)同一人物だとはっきりわかる構成でもよかったのではないか。
  • 最後の方の悪魔が大谷先生にとりつくシーンで暗転してしまうという処理は安易な感じがした。
  • 最初の露天が置いてあるものが庶民的な感じがした。全体の装置や衣装もややチープに感じた。
  • 中幕で舞台を分けたり、サス(サーチスポット?)をあてて独白するというのは安易であるけど、安易いうことは分かりやすいという面もある。
  • ただ、芸術性としては安易すぎると落ちてしまう。
  • 音響が印象に残らなかった。

渋川女子高校「青の壁を越えて」

脚本:町田 愛実(生徒創作)
演出:町田 愛実(兼 主演)

あらすじ

仲良し(?)女子高生3人、由紀は歴史オタ、霞(かすみ)は引きこもりキャラ、望(のぞみ)は活発な感じの子。帰り道、由紀は事故にあいそうになって電柱に頭をぶつける。そしてそのまま、西ドイツの諜報部員(?)のペコが憑依(?)してしまった。そんな3人の巻き起こすおかしな学園生活。その中で、ペコはマリアを探すのだけど……。

主観的感想

【脚本について】

ライトな学園コメディです。霞という引きこもりキャラが、日本引きこもり協会(NHK)ならぬ世界引きこもり協会の教祖という位置づけのギャグキャラなのですが、これがまたとてもいい味を出しています。笑いの半分以上はこの霞という登場人物の力ではないかというほど、見事な笑いを導いてくれます。そして、時代錯誤なためほふく前進をするようなペコ(でも見た目は女子高生)、その二人に振り回される望というのが基本の構図です。

この3名の人物配置が実にうまい。コメディに走ったときによくある失敗は全員ギャグキャラにしてしまうために基準が分からなくなり(おかしいことがその舞台の中での普通になってしまい)、全く笑えなくなってしまうことです(実際過去の県大会で見られました)。望という普通な人物を一人置くことによって、霞やペコの異質感がより際だち笑いに結びつけていたと思います。

それに比べてストーリー構成の方は問題があります。まず戦中ドイツのペリという人物を持ってきたことに作品ムードとの大きなギャップがあり、それは良いとしても処理の仕方がまずい。コメディに「コメディだけだと話にならないので無理矢理お話をくっつけました」という印象以上の何かを受け取るのは現状では難しいと思います。なぜなら、ペリの思いを描くなどの処理がなくドラマが上辺だけで進行するからです。

もしパンフレットに書かれた「越えられない壁なんてあろうか」というものを比喩的テーマとして解釈するならば、壁を越えられないということをもっと強烈に印象づけなければなりませんし、メイン3人の中に比喩的な壁(越えられないもの)を設定する必要もあるかと思います。その辺、明らかに考察不足です。(参考:創作脚本を書かれる方へ

【脚本以外】

メインの舞台設定がおそらく廊下だと思われるのですが、3枚のパネルがあり左右が「ハ」の字に曲げてあって、中央が窓、それぞれのバネルの間には空間があります。はっきり言って廊下とは飲み込めませんでした。中央のパネルは教室のドアにもみえましたし、ハの字に曲がっていることからも廊下とは捉えられませんでした。またパネルも(6尺なので)やや低いように感じました。空間も出入り口に見えたのですが、途中暗転して退かすための空間省略の意味合いだったようです。もう少しどうにかしてほしかったところです。

演技ですが、最初のほうは緊張していたのか、体が暖まっていなかったのか若干聞き取りづらい台詞があったのですが、時間が経つにす声も通ってきて、また3人の人物もよく味が出てて楽しめました。特に教祖様キャラ(霞)がよい味を出していて、面白かったです。細かいことですが、霞が途中で「さっきの謎かけの答え」といういうのですが、これは「昨日の謎かけの答え」の誤りだと思います。劇進行上は「さっき」でも劇中では「昨日」ですから。この手のミスは以外に見落としがちなようで、毎年1校ぐらい見かけます。

【全体的に】

もっと間をうまく使えばもっと笑えたかな、という感じはするもののこれで十分とも思います。そういう意味で(今年一番)笑わせて頂いた劇でした。ですが、心理ドラマとしてはやはり演出面・演技面からも不足していて、結果「あー面白かったね、教祖様」の一言で片づいてしまうのは少々残念です。ドラマをみせるとこと、構成することをもう少し考えてみると、もっと良くなると思います。

審査員の講評

【担当】原澤
  • (タイトルの)青の壁の壁というのはベルリンの壁でいいのかな?
  • 幕が開いたとき地味な舞台だなと思ったが実際にはそうでもなかった。
  • 渋女ってこんな学校だったけなと思わせるほど、引きこもりキャラは強烈でした。カスミはどこかで会ってたんじゃないかなと思うぐらいに。
  • 人物の作り分け、台詞のやりとりはよく出来ていた。
  • 登場人物の掛け合いはよかったが、中後半までそれで引っ張り切れたかと言われれば疑問が残る。
  • 全体として憑依の話でどう決着するのかと思いましたが、ラストはよく分からなかった。よくわからないことが狙いだとすれば、どっち付かず。(編注:おそらく最初のシーン=ベルリンからペリの心が時空を越えて現代に来て、また再び戻っていったというラストだと思います。「想いは時代も壁も越えたのだ」というテーマではないかと思います)
  • 台本には勢いがあるが、舞台はもやもやとして終わってしまった。
  • ペコと彼女(マリア)の間の関係がよく伝わってこなかった。
  • 渋女の生徒って面白いなという感じで、どうせならもっと徹底的にやってほしかったかなと感じた。