前橋南高校「Act@gawa.jp」

作:吉田 藍(顧問創作)
※優秀賞(関東大会へ)

あらすじ・概要

ネット詐欺に注意しましょうと言われてる中、スマホに買い替えた白井(男子)のもとへ、高岸(女子)から詐欺を装ったメッセージが届く。そんなの嘘だよと友達に言われた白井は「俺は信じてみたいんだよ!」と答える。

感想

この台本は、伊勢物語の芥川をモチーフとして使っています。

上手に高さの違う灰色い柱のようなものが4つ。下手に横にした同じものが2つ。奥だけ幕を少し開けてあり3段ぐらいの階段2つ。その他、舞台上に白い服の白子(黒子に対して白子らしい)が4人。見るからに抽象的な舞台で「これから抽象的な演劇をやります」っていうことがこれだけで分かる良いセット。

螺旋(モチーフはLINE)を通じて白井に「助けて」というメッセージを送る高岸がメインとして進行します。はたして嘘なのか本当なのか。ちなみにこのメッセージ着信音がまんまLINEなのですが、これ著作権大丈夫なのかな?(効果音にも著作権はあるしJASRAC登録されているとは思えない)。著作権の問題は別として最初、会場の人が間違って音を鳴らしたと思ったので、あまり適切ではないと思います(もしくは舞台上から音が鳴るようにするか)。

本当に演技がうまい。力はちゃんと抜けてるし、声はきちんと聞こえるし、台詞のタイミングもうまい。

抽象的でどうのこうのと述べるは難しいのですが、2つほど。高岸がなぜそこまで闇を抱えてしまったのか(どういう闇を抱えているのか)という部分がいまいち伝わってきませんでした。こんなことをする人物ってのは普通に振る舞ってても、どこか常識とは異なる隠し切れないズレた部分を持っていると思うのですが、それを上演から感じ取ることはできませんでした。なぜ高岸はこんなにも狂ってしまったのでしょうか(狂気が感じられない)。シーンとして説明があるかないかという話ではなく舞台として説得力が不十分だと感じました。もうひとつは、講評でも指摘されていましたが、白井がどうしてそこまで高岸や詐欺のようなメッセージを信じてみたくなったのか分からないということです。

結局、高岸と白井の関係がこの劇の核心なのですが、それがあまり描写されてません。そう考えるとネット相談センターはあくまで抽象として存在させて、高岸と白井の物語には関係させず、高岸と白井の関係を描くことに注力したほうがよかったのではないでしょうか。「白玉」や「鬼」というモチーフもイマイチ活かしきれてない感じがします(伊勢物語を知らなかったので上演だけでは理解できなかった)。

全体の演技のレベルは非常に高く、とても安心してみることができました。関東大会もがんばってください。

大泉高校「どっちの選択?」

作:江原慎太郎・大泉高校演劇部(顧問・生徒創作)

あらすじ・概要

委員会決めで残ったクラスメイト4人と委員長。早く決めて帰りたいんだけど……

感想

正直なところ台本が微妙かなと感じました。演出の問題もあるかと思いますが「選択」というテーマを際立たせるシナリオ構成にはなってなくて、なんとなく流れて行ってなんとなく終わったという印象です。

間とか動作とか気にして作られていたのですが、緩急が少ない印象を受けました。台詞のテンション(発声のテンション)がほぼ一定だったように感じられます。劇全体のテンションもほぼ一定で上演開始20分ぐらいで飽きてきてしまいました。

教室のセットはちゃんと作ってきてた印象がありますが、教室の構造は少し謎が残りました。見間違えでなければ、上手と下手の両方から出入りしてませんでしたか?

細かいことですが、入学間もないはずなのに服装がけっこう自由だったり、入学間もないはずなのに赤点うんぬんといった電話がかかってきたり、リアリティが足りない印象でした。最後、幕が降り切る前にBGMが止まっていたのも気になりました。

「選択」というテーマをちゃんと演出的に配慮して上演されていたら、また違った印象を受けたかもしれません。

伊勢崎清明高校「あさぎゆめみし」

作:小野里康則(顧問創作)
演出:岩田 里都

あらすじ・概要

中学の遠足登山の最中で谷に落ちてしまった啓太と姫川、そして熊谷。さてどうしよう。

感想

くまむしくらぶの啓太と姫川が成長して中学生になりましたというお話。「くまむしくらぶ」を知ってると「啓太と姫川、変わらないな」と少しニヤニヤできます。虫好きはまだ変わらないのか(苦笑)

人物がステレオタイプなのは相変わらずなのですが、台詞の間が悪いかなという印象です。リアクションがとれてない感じです。全体的にギャグの流れなのにあまり笑いが取れてないのはその辺が原因だと思います。

舞台装置の高いところと、全体を広げて落ちた後の場所を切り替えてるあたりはうまく処理してたなと思います。

説明的な台詞がやや目立ち、BGMもやや説明的で、体を打って動けないはずの人物が気づいたら普通に歩いていたり、色々と細かいところが気になりました。

頑張って演じられていたとは思います。

前橋南高校「外箱:Hen-Pin」

作:大友 佳栄(生徒創作)
演出:吉澤のん、石井大樹
※創作脚本賞

あらすじ・概要

物流倉庫の返品受付E区画。通称ゲロ部屋にいる作業員と、そこにやってきた事務方の手伝いと……。

台本の感想

えっ「これ本当に生徒創作なの!?」。また原澤先生が書いたんじゃないの?と思ってしまいました。先生のアドバイスがどれくらい入っているのかわかりませんが、それを差し引いても非常に完成度の高いとても面白い台本です。

着想が面白く、掛け合いもよくできていて、コメディかなと見せかけておいて「実はホラーでした」っていう。よくできてるなあと思いながら観ていました。

感想

黒幕にダンボールが置かれたステージ。1つの事務机。

さすがに演技がうまく、きちんとリアクションができていて、台詞も詰め込みすぎず「間」もちゃんと使われていて、とても安心して観ることができました。

途中「豚」の返品が出てきたあたりから人が狂っていくのですが、ここが少しもったいなかった。狂っている側の視点で舞台上には「人」を置いてしまったので、観ている側はどっちが狂っているのか分からない。分からせないことの気持ち悪さをあえて出したのかもしれませんが、それにしても「狂い」を見せることがこの台本のキーポイントではあるのですから、全体通して見た時にイマイチだったと言わざる得ません。

つまり、台本の持つ「怖さ」みたいものを活かしきれてなかったと感じました。狂うシーンでは、もっと怖くしていいんじゃないの? 講評では外向きに狂っていたと言われていましたが「狂気」が感じられなかったとも言えると思います。舞台上に「狂気」が見え隠れして成り立つ台本ではないのかな? どこが正常でどこに異常が生まれているのか。方法はいくらでもあると思いますが、もう少し配慮が欲しかった。

完成度は高く、観ていて面白かったし、入賞するんじゃないかなと思っていました。本当にあとちょっと、もう一歩だったと思います。

前橋育英高校「ぐらすとれ ~Graduation×Frustration~」

作:南雲 慶祐(既成/OB創作)
演出:安原実果子

あらすじ・概要

高校式一週間後、教室に集まった「ちか」と「らく」と「梅子」。卒業旅行の打ち合わせの中、在学中に彼女たちが抱えていた想いが出てきて……。高校生活は本当に楽しかったんだろうか。

感想

最初3本のサスで卒業式の呼びかけシーンから始まります。「楽しかった、高校生活」というフレーズを強調して暗転。机が一つ置かれたステージ。教室のイメージのようです。

冒頭でリュックの中からお茶を探すシーンがあり「お茶しかないや」とお茶を取り出すのですが、探して見つけるという様子がまったくない。探すフリをして、予め用意されたお茶を中から取り出しつつ「お茶しかないや」と台詞を述べてるようにしか見えない。このシーンだけではなく、全体的に「ここはこういう演技」に終始してて、台本の人物像も結構ステレオタイプ。演じ方もステレオタイプ。

ステレオタイプで人物の違いがハッキリと分かるので見やすくはありますが、逆に言うと深みがない。そして、全体を通しての演技・演出が「コメディ」のノリになっているなという印象も強くありました。この台本はそこだけじゃないですよね。

雑巾野球のシーンはくだらなくて面白かったです。演じてる人たちがちゃんと楽しんでる様子も伝わってきました。あと、どちらでもいいことですが、ちかと梅子かなの服装が遠目に似てたので、1人本当に制服でもよかったんじゃないかなとも感じました。あと雑巾も白い使ってないものだらけだったのが気になりました。

全体的に

ものすごく頑張って演じているのは伝わってくるんだけど、台本が少し問題かなという印象があります。表現したいことはわかりますが、それにしては台詞がストレートすぎて巧くない。台本が全部悪いとは言いませんし、本を芝居にする過程でも巧く処理できてないなと感じた部分はあります。しかし、共感を覚える人にはえぐるような話かもしれません。

途中で挟むサスのシーンやブルーライトで処理する現実進行ではないシーンは、とても抽象的で比喩的な表現を使っていてうまかったので、余計に地の台詞との乖離を感じて勿体無く感じました。これだけ抽象的な表現をする実力があるのに、台詞が直接的なのでここも少し直してよかったんじゃないかな。あと詰め込みすぎな感じもあります。

演技や芝居を作る実力はあるのになという印象が強い上演でした。