桐生高校「通勤電車のドア越しに」

作:金居 達(既成)
潤色:桐生高校演劇部
演出:後藤 潤一
※最優秀賞(関東大会へ)

あらすじ・概要

通勤電車のドアに顔だけ挟まれた男とその周りの人物が織りなすドタバタコメディ。

感想

すごく面白かった!

2005年の桐生南の上演で観ているのですが、その時より面白かった。人物がきちんと立っていて、リアクションがちゃんと取れている。それに加えてちゃんと演出されている。

気になったところとしてはドアをどかした後のポールが視覚的に分かりにくいことです。白や色つきの棒でも、昔の桐生南のように枠だけでも何でもいいのですが、もう少し分かりやすくしてもいいんじゃないかな。また、列車アナウンスを声でかき消すシーンは実際にかき消してほしかった。ミキサーでボリューム絞って中域少し下げれば聞き取りにくくなりますから(もしくは聞き取りにくい音加工をしておけば)十分可能だと思います。

それと暗転のテンポが少し悪かった。装置の転換はないのですから、もう少し早く処理できないものでしょうか。以前の桐生南はもっと手早く処理してた記憶があります(暗転しないで回想処理してたんだっけかな)。

カメラの少年が出てきますが、写真を撮る際フラッシュを炊いたほうがいいと思います。あと電車の椅子ですが少し大きいように見えました。椅子と分かりにくいので、欲を言えば左右に2つほしいし、もう少し固そうな座席に見せられないものでしょうか。

色々書いてしまいましたが、とても面白く、台本のアレンジもうまくされていて楽しめました。関東大会も頑張ってください。

新田暁高校「七人の部長」

作:越智 優(既成)
潤色:青山 一也(顧問)
演出:有賀理中奈
※優秀賞(次点校)

あらすじ・概要

部活動予算会議に集められた7人の部長。予算案を承認して終わるはずが、削られた予算に拒否権を発動しようと言い出して……。

感想

これもとても有名な台本です。よく力が抜けて演じられ、リアクションがきっちりされていたので、とても面白く観ることができました。台本も過不足なくアレンジされていました。

まずきっちり部屋を作ってきていました。ちゃんとした部屋の装置で七人の部長を見たのは初めてかも。これだけモノがあると動きを付けにくいじゃないかと心配したのですが、左右にテーブルと離れた椅子を用意することでこれをうまく処理していて、動きを含めてしっかりと演出されていました。

例えば生徒会長が言い間違える演技とか、すごく難しいと思うのですがちゃんと成り立っていました。剣道部部長もアニメ部部長も、演劇部もみんなちゃんと性格が見える演技になっていて、とても良かった。

この台本は全体がコメディタッチなので終盤のシリアスシーン(生徒会長の想いのシーン)への流れがとても難しいのですが、これをきちんと成り立たせていました。

ラストシーンでスポットの下の紙切れが落ちたのは偶然なのか仕組んだのかわかりませんが、おおっと思いました。

欲を言えば、台本の問題もあるとは思うのですが演劇部の人のラストの流れはちょっと長いかなと感じてしまいました。生徒会長のシーンが一番の見せ場なのにそれが薄まってしまう。無くすというわけにはいかないかも知れないけど、重点をもっと生徒会長のシーンに置いて(時間を使って)演劇部の人のシーンはおまけ程度の扱いでよかったんではないかなとも思ってしまいました。全体的に、生徒会長をもう少し際だたせる演出をしてもよかったのかもしれません。劇のどの場面でも生徒会長が主役だと分かるように、あくまで生徒会長が主役なんだと分かるように。

序盤から装置から気合がぜんぜん違ったし面白かった。関東行けるかなと思っていました。上演おつかれさま。ラストシーンのBGMを連動させた処理うまかったです。

渋川女子高校「流星群」

作:品田 歩(既成)
演出:渋川女子高校演劇部

あらすじ・概要

宮沢賢治作の「銀河鉄道の夜」と「よだかの星」を混ぜてモチーフにしつつ、宮沢賢治についての創作劇。

感想

暗幕の手前に、白い幕を3つ垂らしたシンプルな装置で、ピアノBGMをふんだんに使って幻想的な演出をしていました。

たまたま「銀河鉄道の夜」を読んだ直後でして、題材となった2作がどのように省略されているのも見てて分かるぐらいだったのですが、それでも全体的に分かりにくい気がしました。

宮沢賢治の作品自体、現代の小説とか娯楽に比べると分かりにくい部分があるのですが、賢治作品のそういう「生死観」みたいものを浮かび上がらせ、なおかつそれを踏まえて「宮沢賢治」という人物に少し空想して迫ってみようという台本ですよね。後者はともかく、前者さえうまくいったとは言えないのではないかと感じてしまいました。

よく演じられていたとは思うのですし努力しているのもわかるのですが、幻想的に見せることは果たして本当に必要だったのかも含め、演劇としてもう1歩2歩進んでもらいたいなと思います。

前橋市立前橋高校「ホット・チョコレート」

作:曽我部マコト(既成)

あらすじ・概要

学校を休んだキッコ。そこに来る友人ミオ。期末テスト、そしてキッコの引越しまで約1週間。キッコのやっていたバンド活動はどうなるのか。全国大会の優勝校台本。軽妙な掛け合いの中と、友人達の微妙な心理のずれを描いた、定番の青春モノ。

感想

有名台本です。去年の吾妻の感想に書いたとおり「去っていくキッコ」と「去られてしまうミオ」の物語なのですが、その点きちんと上演されていたかというと難しいです。

講評でも指摘されていましたが、ホットチョコレートのシーンがあまり際立っていなかったことと、加えてキッコとミオの関係性がきちんと描き出されていなかった(まだまだ足りなかった)と感じました。具体的に何をどうこうというよりも「演出してください」と言うしかない気もします。

キッコとミオの関係ってのは(その他の人物含め台本全部)ガラス細工のように繊細で、台詞だけで表現できるものでは到底ありません。ガラス細工をひとつひとつ丁寧に組み合わせ、初めて表現できるような内容の台本なのですよね。

観ていて「全体的に漂う嘘っぽさ」はどこから来るのかなってずっと考えていたのですが、キャラが作りすぎなんじゃないかなと少し感じました。力が抜けてない、ステレオタイプ的な人物像になってる、人物の読み込みが甘い気がします。

荷造りしながら会話するシーンとか、ラジカセをちゃんと動かしていたのはよかったかな。引っ越しが徐々に進んでいくのもよかったのですが「この量なら1日で片付くよね?」としか思えなかったのが少し残念でした。歌の音源がL(左)しか入ってないのは素人がよくやる失敗なのですが、わざとその演出をしたのかは分かりませんでした。最後の方の「手紙送るから」の台詞は今なら「メールするから」じゃないかなとか思いました(時代に合わせてアレンジしたほうがいいよね)。

丁寧に一生懸命作ってはいるんですけど演出不在が致命傷だったかなという印象です。

高崎商科大学附属高校「雰囲気のある死体」

作:別役 実(既成)
※優秀賞(関東大会へ)

あらすじ・概要

入院患者とその両親と、廊下に置かれた死体と、切りたくてしょうがないお医者さまとが織りなすコメディタッチの劇。

感想

ベッドが3つ置かれた舞台。病室ということらしい。力の抜けたきちんとした演技で、台詞のトーンもきちんと配慮されていて、安心して観ることができました。

台本は中身がまったくないバカでくだらない台本です(褒めてます)。よく演じられていたんですけども、もっとコメディに振ってしまってもよかったのではないかと思います。観客の視点だと、演技のトーンが「コメディ」じゃなくて「シリアス」に感じられてしまったので、ちゃんと「コメディ」であることを伝えればもっとウケが取れたと思うんですよね。序盤で「コメディ」と分かる演出をしてまうのも一つの方法だったのではないかと思います。

そして逆に死体の扱い。コメディでもあったので、死体の中から「違う人が出てきたり」「生きてる人が出てきたり」するのではないかという疑念が最後まで拭えませんでした。死体が異質なものという印象を受けることができませんでした。これは出演者の演技からも、扱い方からも感じられました。顔も隠れてますし。

つまり、コメディとシリアスの混在する台本なのに、どの部分がどっちなのかハッキリ見えてこない。どっち付かずの上演だったことが大問題だと思います。演技のトーンもほぼ一定。演技の基礎力は十分あるのですから、シーンごとのメリハリや全体を引いた立場で見せ方を配慮すれば達成できたと思うのです。そう思ってパンフを見るとやはり演出不在。ほかの観客も「ここは笑っていいシーンなのか?」と随分悩んでいたように思います。

ちゃんと演出してください。演出的配慮が皆無なので申し訳ないけど入賞するとは思いませんでした。面白いのは面白かったのですけどね。