前橋南高校「狩野■Kanou県 」

妹の椅子が舞台中央にあり、姉の椅子が舞台よりやや下手にあるので、椅子の中心が舞台中心からずれているのがなんとも気持ち悪く感じてしまいました。サスの関係なのかもしれませんが、県大会はこうではなかったような気が……。全体的に県大会のほうが面白かったなという印象が拭えません。

照明設備の関係はあるのでしょうが、夜な夜な出てくる女がハッキリ認識できるまでの時間が遅くなってしまい、この夜のシーン用のスモークが女まで届いてなかったり、また椅子位置の関係からリサイクル業者の出入りや玄関などの位置が不自然(窮屈)で、リサイクル業者の男が妹に色目を使うシーンの「キラッ」音などのSEがやや小さく、なんとも不恰好に感じられました。

舞台が広くなったのか姉が若干早足になっていたのが気になった以外は演者に問題はなかったと思うのですが、照明、音響、スモークなどのスタッフワークの部分での粗が目立ち、前橋南独特の世界観の構築に失敗しているように感じられました。おそらくシルクホールに不慣れだったためでしょう。たったそれだけのことでこれだけ印象が変わってしまうのだから、普段県大会で見せるあのクオリティは絶妙なバランスの上に成り立っているのだと、あらためて実感しました。

新島学園高校「厄介な紙切れ -バルカン・シンドローム-」

関東大会だから教室のパネルぐらい用意するんだろうなと思ったら、本当に用意してきたあたりは期待を裏切りません。途中黒板の留め具の片方が落下という事故もありましたが、動じず、後半にはネタにする余裕はさすがのものでした。あの傾いた黒板は冷静に考えると笑いそうになってしまいましたが(苦笑)、同時にもう片方も外れて事故にならないことを祈ってました。

県大会と終盤の流れを変えて話を整理したこと、紙切れをちゃんと最後のオチに持ってきたこと、県大会で指摘した先生が先生らしくないのが修正され(ちゃんと先生見えまたよ!)、確実に進化していました。教室もパネルがあることで、オープンスペース(教室の壁がないタイプ)と分かるようになっていました。よかったです。

前橋市立前橋高校「笛男 ‐フエオトコ‐」

作:亀尾 佳宏(既成)

あらすじ・概要

帽子をかぶった男、明夫が電話をしている。明夫はどうやら人を待っているようだ。そこで回想する子供の頃の出来事。子供のアキオはこの場所でダイスケ、ユウイチ、ユミの4人で遊んでいた。

感想

まず言わせてください「どうしてこれを入賞にしないのだ」と。それぐらい群を抜く完成度でした。

冒頭の回想で、明夫とアキオ(子供)の台詞を重ねることで同一人物であることを説明している。まずそれが上手い。回想シーンに入り、公園らしき場所。下手に灰色の板を重ねたもの、中央に3段の階段状になった長めブロック、上手に木の棒が何十本も積まれている。おそらくは公園だと思うのですが、このリアルすぎない抽象的な公園イメージがこの演劇にはよく合っています。

特筆すべきは小学生4人の演技でした。男の子二人、ダイスケとユウイチ。二人が好意を寄せるユミ。ユミに気にかけられているアキオ。アキオのことを邪魔に感じているダイスケとユウイチ。この4人の人間関係がきちんと演じられていました。それは表情であり態度、人物たちの距離感(心の距離、物理的な距離)です。登場人物たちの関係性をここまで明確に演じる高校は県大会ではまず見ることはありません。小学生4人は女子4人が演じているのですが、ちゃんと男の子してる。格好とか喋り方だけでなく、動作や人物位置がものすごく洗練されている。少し足を開き気味に、腕を開き気味な男たちと、足を閉じ気味で肘も体に寄せ気味のミキ(女子)。そして過剰ではない。終始、完璧に隙一つなく「本当にこんな小学生居るよな」という感想を通り越して、もうそこに小学生が4人居るとしか思えない。

現在の明夫と回想の中の「(不審な)おじさん」が重なるシーンの見せ方でも「ズレた」感じがきちんと演出されていて見事だったし、小学生の下手なリコーダーとおじさんの上手なリコーダー、それが教えてもらって練習してうまくなる(でも完璧じゃない)という演出も非常にうまくされていました。ラストシーンも綺麗でありながら必要十分だった。

見事すぎて突っ込みどころがないのです。あえて突っ込むとすれば、(現在の)明夫がもう少し大人っぽく演じられればよかったかなと思いますが、発声や背格好などは役者の限界があります。明夫ひとり語りシーンでのサスとの位置関係で顔や下半身が完全に影になっていたのを、多少後ろに下がるとか横から軽く光を当てるとか、ミキサーでミュートにせずただカセットかCDか何かを止めただけだったので、常時スピーカーから「ジー音」がして気になったとか本当にそれぐらいしかありません。

全体的に

講評で1回観ただけでは意味が分からないということを指摘されていましたが、個人的には充分理解できましたしこれで充分だと感じます。講評で別の方から出たこれ以上変にいじらないでほしいという意見に同意です。たしかに、他の観客に全部意味が伝わったかというと、上演後「結局おじさんと明夫の関係は?」みたいな雑談が聞かれたので安易に肯定はできないでしょう。しかし100%分からせる必要があるのかないのか。

改善点を挙げるなら、現在の笛男である明夫の舞台進行に合わせた心理変化をもっと表現する方法がなかったのかという点です。新たに娘を受け入れ、この先の生活や境遇の変化を受け入れようとしている明夫が過去の回想から何を感じとったのか。笛先を入れ替えて吹いてみるまでの心境変化は何だったのか。主役である明夫の、台詞ではない演技でミキちゃんや過去の自分自身、そしてまだ見ぬ娘に対する心理というものが演出されたなら完璧であっただろうとは感じます。

講評でほとんど批判的意見が出なかったことからも分かる通り、ほとんど突っ込みどころがありません。他校にはこの上演をよく研究して見習ってほしい。それぐらいの見事な上演なのにどうしてという感じです。関東大会行って欲しかったし、この学校を関東に行かせるべきだったと個人的には思います。

前橋南高校「箱式hollow」

作:原澤 毅一(顧問既成・「恐ろしい箱」より改題/細部改変らしい)
演出:須藤 瑞己

あらすじ・概要

突然エレベーターに閉じ込められてしまった5人。助けが来る様子もない。どうやったら外に出られるのだろうか。ざわざわと騒いでいるうちに便意を催した武田は閉じ込められたエレベーター内で……。暗転。するとなぜか木村がいなくなり、変なミュージシャンが2人入ってくる。なぜ? どうして? どうやって???

感想

中央部のみのサスで作られた空間。そこに正方形の敷物が置かれています。どうやら閉じ込められているらしい。ここがエレベーターの中というのは後の台詞で分かります。最初は密閉空間での人物交流なのですが、変なミュージシャンが入ってくる当たりからぐちゃぐちゃにしてしまう。よくこんな変哲な設定の台本を思いつくなと感心しました。

基本的にはこの密閉空間におけるドタバタ劇で、前橋南の実力を遺憾なく発揮し、間を充分に取った笑わせる演劇でした。間やメリハリの使い方がとてもうまく、力が入り過ぎない緩んだ演技がとても良くできている。他校はよく見習ったほうがいいと思います。変なミュージシャンが入るまでは、所々間の少ないところはありましたけど、その後はもうバカみたいなやり取りが繰り返され大ウケしてました。ほんとにバカですねー(褒め言葉)。そんな変な人達が増えてきても1人まともな武田が主人公なのですが、とても良い基準となっていました。変な人しか居ないと少しも面白くなくなりますからね。

終盤の火星移住ナンタラとネタバラシがされたとき、武田以外の人物が今どうしているか見せるシーンがありましたが、客席の位置によっては旅行代理店の人間が邪魔で後ろ(その後の人物たち)が見づらかったのでもう少し工夫してほしいところです。

全体的に

これだけの演技と完成度で入賞すらならなかったわけで何だろうなあと考えていましたが、こちらのブログで「『恐ろしさ』『不気味さ』に欠けていた」との指摘があり納得。講評でも指摘されていたのですが、結局何だかわからないという問題があります。ここ何年かの前橋南は理論的解釈を拒む上演だったわけですが、今年は解釈ができる上演になっています。

主人公の武田は意味もなくひどい目に遭わされて、結局最後までひどい目に遭わされて続けるのですが、解釈してみると結局だからどうしたのと。ラストシーンで武田のみを載せたエレベーターがどこかに到着して終わるのですが(それが何処であるかは示されない)、これを火星と思えば酷い話だし、元々乗っていたエレベーターの本来の行き先だと思うとギャグ話。もしくは夢オチみたいな感じ。投げっぱなしすぎ。

結局のところ投げっぱなし過ぎて、全体としてどこに焦点を当てた演劇であり物語なのかすらもわからなくなってしまっている。かといって解釈を拒むほどの(解釈しなくても良いと思わせるほどの)突き抜けた何かがあるわけでもない。「じゃあ何ですか?」という状態になってしまったということでしょう。ですから徹底的に不気味にするのは1つの戦略として正しい。

やや欠点があるものの完成度はとても高かったので、審査基準が違えば入賞していたと思います。

吾妻高校「七人の部長」

作:越智 優(既成)
潤色:吾妻高校演劇部

あらすじ・概要

部活動予算会議のために集められた7人の部長たち。予算が少ないことに疑問を呈した演劇部部長を発端に、話はおかしな方向へ……

感想

女子高を舞台にしたドタバタコメディ。非常によくできた台本で、高校演劇では定番です。

パネルを前面に用意して部屋を作っていたのですが、ステージ全体を使っていたのでやや広い感じがありました。講評でも指摘はありましたが、もう少し狭くても良いと思います。あとはやはりパネルの高さが6尺しかないので、移動式黒板が後ろの壁より高くはみ出していて格好悪かった。長テーブルと椅子がコの字状に配置され中央の生徒会長に対し左右3人ずつ、会議室らしいリアルではありますが、以前観たテーブルを廃してしまった桐生高校の上演と比べると動きにくそうです。

この長テーブルと背もたれのある椅子というが終始気になりました。演じてた本人達は充分わかってたともうのですが、動作による演技をしたくても狭くて動きにくくてできる演技がとても限られてしまう。まして隙間のない「コ」の字状態なので、相手の前に行くのにはコの字を避けて大回りしなくてはならず時間がかかる。カチンとなっても突っかかりに相手の場所まで行けない。せいぜいできるのはテーブルを叩くぐらい。仮にテーブルがなかったらどんな演技ができただろうか?と考えてみたらどうでしょう。別にテーブルが無いほうが良いと言っているのではなく、コの字ではない別の配置にするだけでも、コの字の間に隙間を設けて配置をちょっと工夫し、加えて個々人の左右に多少スペースを設けるだけでも選択肢は格段に増えたはずです。とにかく動きにくくしたことが致命的なミスのようにも映りました。

そして間がない。たしかに上演時間に対して文量が多めですから早口になりがちなのは分かりますが、他の演出を削ってでも「間」や1つの台詞中でのトーンやピッチの変化をもっと大切にしてほしかった。特に前半の台本上も笑いを狙ってる部分では、この間、そして止めをややオーバーに使わないと全く笑いが取れません。逆言うと、それらを効果的に演じれば笑いは取れるし、充分に引き込める台本です。

細かいところですが、冒頭、生徒会長が「じゃあ異議もないようですので……」の部分で、明らかに「異議が来ることを予期した演技」になっていました。これは一例で、全体的に練習しすぎで「慣れ」(次何か来るか分かってるだけに無意識に準備しているの)が透けて見えてしまったのもあるのかも知れません。

あとこれは演者には関係ないことですが、客席でことあるごとに雑談している人が居て気になって困ったし、後半、おそらく照明ブースと思しきところから「ガラガラ」と窓を開け閉めする音が繰り返し聞こえて気になってしょうがなかった。

全体的に

各人物の色付け・性格付けや個々の演技はとても頑張っていましたし、きちんと実力もあります。これは素直に評価したいのですが、動けないようにしたのが致命傷でした。客視点での掛け合いの間や強弱、演技のテンポをもっと丁寧にフォローして欲しかったと思います。特に前半は(ある程度)コメディになるので。