前橋市立前橋高校「夏芙蓉」

作:越智 優

あらすじ・概要

卒業式の日、深夜の教室。千鶴のもとへやってくる友人3人。何か言いたげで、それでも賑やかに4人で楽しむ千鶴たち。おかしを食べて談笑も盛り上がったところで、友人達が帰ろうとする。それを引き留めた千鶴は……。

高校演劇では非常に有名な台本です。

感想

左手に教壇、机がまばらに4つ。右手にも壁、そして黒板。教室をがんばって再現しているのだけど、致命的に机が足りない。演者に必要な机しか置かないという配慮は分かりますが、それに対する説得力が不足しています。最低でも10セットぐらい用意してらよかったのではないかと。加えて照明が明るすぎ。深夜の教室なのだから、もう少し明るさを控えて、教室以外の部分に照明が当てないようにすべきだったと思います。さらに言えば教室を舞台いっぱいに広げる必要も、教室全体を照明の中に収める必要もないわけで(全体感想も参考に)。

以前観た新潟高校の劇はもうおぼろげにしか覚えてませんが、それに比べるととてもよく出来ていたと思います。例えば、教室で友人達とちゃんと「にぎやか」にしているところなどは評価高いです。

台詞のかけあいはよく研究されていて、人物も服装を含めよく性格付けされ元気があってよかったのですが、笑いを狙ってところで台詞の間やアクション(体)をうまく使うともっと笑いが取れたと思います。台詞はとてもよく聞こえて、分かりやすいのだけども、これだけのレベルで演技できるならさらに上を目指してゆるみの演技もできたらいいかなと。力の入ってない台詞の発声。

そんな感じで、若干物足りなさはありましたが、ラストにかけての流れは見事でぐいぐいと引き込まれてしまいました。ラストシーンで「ちぃ、私たち一緒に卒業したよ」という台詞をいうシーンは特に秀逸だったと思います。それだけに、なぜそこで幕を降ろさないとずっこけてしまいました(笑)。客席でも拍手の準備してた人がいて、拍子抜けてしましたよ(苦笑)

全体的に

劇全体に対してうまく間を配分し1時間ぴったりに収めたのはうまい配慮だったと思います。

さらに上を目指すにはと考えるとやはり演出。この台本は、前半のシーンにおける「微妙なズレ(違和感)」を目立たさせずにそれでいて観客が認識できるように提示するという非常に難しいことを要求されます。その「ずれたパズルのピース」のような違和感を、劇全体のムードに反映することができていたかというと難しい。日常として観客に認識させながら、それでいてどこか非日常的な一コマと観客に認識させる必要があったのではないかと。

「幽霊である」ということをこれ以上前フリし過ぎるとあからさまになり過ぎてそれはそれで興ざめしてしまうので、それ以外のことで非日常性を表現することはできなかったのかな。それはちょっとした舞台装置かも知れないし、登場人物の格好や小道具に対する微妙な違和感かもしれないし、はたまた照明の処理かもしれない。具体的にどう改善するべきかは難しいのだけど、現状だとあまりにも日常過ぎた。

加えて全体の流れを通してのシーンの緩急をきちんと演出していたなら(個別のシーンの演出に目が行きがちですが、それと同じぐらい大切なことです)もっと良くなったのかも知れないなあと感じました。演出の仕事です。

高崎女子高校「夢追い便所2010」

作:田村 団

あらすじ・概要

トイレでありながら、鬱積した感情を発散することができるシステム「ベンキング ジャスミン」。ストレスを夢の中で発散するための便器。夢見るトイレで夢の中へ自由に羽ばたこう!

2002年県大会にて高女上演作品。演劇部潤色(脚色)の模様。

感想

もう変すきる台本(笑)。最初のシーンでベンキングをTVショッピング風に進める番長と二人のアシスタント。とにかく変すぎる。台詞回しやかけあいも変すぎる。もうおもいっきり楽しんでるなあってのはよう分かるんだけど、残念ながら変すぎて笑えない。本当にもったいない。人物(や状況)として基準となる「普通」が配置されてないから「変」が際立たないし面白くない。これは台本の欠陥だなあ。

女子校なので女子しかいないのですが、番長が男のセールスマン役を自然に演じてたなあと関心しました。動きの大きさも配慮された演技でとてもうまく男してた。入澤という少年(大学生)もちゃんと少年してたと思います。

反面アシスタントの一人が、いわゆるおかまキャラ(KABAちゃん辺りを想定したおねえキャラ)なんですが、どうみても女子にしか見えない。ここが成り立たないからギャグや話の流れが最初から半分成立しない。これ男が演じてれば相当面白かったろうに勿体ない。そもそも女子に女装男子を演じさせることに無理がありすぎることは最初から分かりきっていて、どうして再現できない配役を持ってきたのかが不明。それなら再現可能な男装女子キャラを同じニュアンスで使えばよかったのではないかと思います。申し訳ないけど明らかな(そして致命的な)ミスと言わざるえない。

(井上陽水の)夢の中へを何度も使ったり、説明的なBGMを使うのは明らかにネタ演出だと理解はできても、これまた全体が変すぎるところに変な要素をさらに追加してため面白さにはつながらない。狙ってやっているという気持ちは分かるんだけど成立していないので悪ふざけの域を出ない。

それとは別に、ラストシーンで入澤が立ち上がるところがスポットの外に出ているのがもったいなかった。一番大切な「入澤が立った」という大切なシーンなのにスポット外で幕落ちていくのは非常にもっないないミスでした。まさか狙ってやった……とは思えないけども。

全体的に

毎年どこかしらに書いてる気がしますが(こちらのブログの先生頻繁に書かれています)、変なものを変にみせても面白くありません。普通な人が少し変なことをしたり、変な人がひょいと普通のことすると面白い。意表を付かれて裏切られるから面白いのであって、多くの場合はその行為自体が面白いわけではないのです。その重大な勘違いが引き起こした結果の上演という感じで、ものすごくよく作ってきているだけに勿体なかったなあ。あとおねえキャラの失敗か。

やりたいことや気持ちは分かるんですけどね。(観客の反応という)現実は現実です。それは誰かが説明しないといけない。(本来なら講評で言ってほしかったなあ……)

太田市立商業高校「お葬式」

作:亀尾 佳宏

あらすじ・概要

おじいちゃんのお葬式。実感の湧かないトモコは友人2人と公園へ遊びに行く。やがて公園で、メダカのお葬式をしようということになり……。

感想

おさげの少女トモコと、格好いい少年のユウタ、ランニング姿の恰幅のいいヒロシ。この3人が織りなすドタバタ劇で、台詞のかけあいすごく楽しむことができました。素直に面白かった。公園でお葬式を始めるあたりから「次は何をしてくれるだろう」というワクワクで支配され、それを裏切らない笑いが楽しかった。どれもがとても秀逸。

台本の台詞が面白いこともありますが、かけあいが秀逸で台詞に対する反応(リアクション)がきちんと出来ていたこと、3人の人物の性格付けがきちんとされていたこと(演じられていたこと)、間を意識的かつ積極的に活用していたことが面白さを増大させたと思います。台本のダブルミーニング(1つの言葉で2つの意味をもつ言葉)を積極的にギャグ利用していたのは面白かったけど、それをちゃんと活用できてたのもうまかった。

そしてランニング姿のヒロシの圧倒的存在感が(笑)。もともとの体格もありますが、それに加えて演技とかも非常にうまい。ギャグキャラなのでヒロシの素朴さ(至って真面目であるという演技)が出ないとまったく笑えなくなります。この学校はそれをちゃんと演じていた。きわだって一人の演技がうまかったわけではなく、みんな演技がうまかったのだけど、おいしいところは全部ヒロシが持って行ってたなあ。

演技でいえば、ユウタの声が聞き取りにくいシーンが多かったのが残念でした。少年役ってことで難しいところはあるのでしょうが、テンション高く発声するシーンで(聞こえることが必要な台詞では)少しだけトーンを抑えてでも聞き取りやすくしてほしかった。

問題といえば、公演の装置がちょっと殺風景だったなあ。ゴミ箱、砂場、ちっぽけなベンチ、水道が広い舞台に散漫に置かれていたため公園らしく映らなかった。トイレ、街灯、フェンス、噴水などなど方法は色々ですが、もう少し公園らしく見せる工夫があったらもっと良くなったと思います。

全体的に

メダカがザリガニに食われて、弱肉強食からメダカのお葬式になり、色々なもののお葬式になり、子供達のギャグの流れでおじいさんのお葬式の式を挟み(このときトモコは止まっている)、夕方の公園でおじいちゃんのことを考えるトモコたち。「おじいちゃん焼かないで」というのは強く気持ちが出ているシーンで印象深かった。陽の落ち方と心情変化がリンクしていくのも良い演出です。

けれども、トモコの「おじいちゃん」や「おそうしき」に対する気持ちの変化がみえてこなかったのが残念な点です。最初と最後だけで、中盤が飛んじゃってるんだよね。最初と最後だって、本当のところどう思っているのかまではみえてこない。トモコの心情は最初と最後でどう変化したの? 最初のトモコの心情は? 最後に至るまでに何があったの? ここがうまく演出されたなら、言うこと無しだったなあ。

本の良さはともかく、演技の上手さが際立った上演でした。面白かった。

伊勢崎清明高校「くまむしくらぶ」

作:小野里康則(顧問/既成)
演出:入山あやめ
※優秀賞(関東大会へ)

あらすじ・概要

くまむし。絶対0度に耐え、放射能にも耐え、宇宙でも死なない史上最強の生物くまむし。そんな「くまむし」になりたいという啓太はなぜくまむしになりたいのだろうか。

2年前の県大会リベンジ上演と言えるかも。

感想

舞台中央暗幕で仕切られた隙間に置かれた装置。今回は風呂場と分かりました。手前が部屋でパントマイムでガラスがあることをちゃんと表現されている。この辺からして2年前とは見違える演劇。ただ細かいところだけど風呂場の装置の台座たるベニア台が向きだしで見えたのだけはマイナス。あれぐらい簡単に隠せるんだから隠してください(苦笑)

さて、本当に2年前とは見違える演劇で、仁兄貴をはじめとして動きによる演技オーバーリアクション(台詞のメリハリ)がものすごく意識されている。その一貫としてクマムシダンサーズ(パンフ表記)によるクマムシの体による表現。長年意味もなく踊る学校を多数観ていて辟易していますが、踊り動くことでクマムシを表現するというとても重要な役割を担当し、暗転回数が多めという台本の欠点をおなじくダンサーズをうまく使って「場転自体を見せる(見せ物にする)」ことで、劇が散漫になることを防いでいる。シナリオ上避けられない「くまむし」に対する説明セリフすらもクマムシダンサーズによる体表現で見せることに成功している。非常に秀逸な演出プランで、去年の上演と比べても見違える進化をしたと言えます。見事。

他にも、教室のシーンを椅子だけで表現し椅子の下にランドセルを置くという割り切った演出もうまかったし、ラストシーンで「くまむしが顕微鏡に寄った状態で啓太に手を振った場面」が大きな意味のある見事な演出だった。全体的に演出が非常によく仕事をしており、ひとつひとつ書ききれないぐらいです。それに応えた演者も見事。

褒めてばかりも何なので。動作やオーバーな演技をうまく活用していた割に、笑いを取るシーンで「止め」をあまり使ってなかったのが少し勿体なく感じました。ここ止めれば面白いのになあってところがいくつか。それと若干オーバーアクションが少々強すぎたかも。アクションを弱くしろと言ってるのではなく、シリアスシーンの仁・母・啓太をもっと弱く演出(ゆるんだ演技)したら全体を通してより印象がよくなったと思います。

全体的に

2年前に指摘したことがほぼクリアされ、姫川が際立たなくなったのは個人的には少々残念だけども劇としてはこれが正解ですし、KYの啓太ではじまりKYの啓太で終わっているし、BGMも適切に使われていて目立ちすぎることなく、困ったなあ。書くことがない(苦笑)

無理矢理突っ込むなら、啓太は姫川さんに振られたぐらいでクマムシ目指すなよってことでその説得力の薄さであり、啓太のKYに対する悩みがさほどリアルに感じられないことであるのだけど、子供の悩みってこんなものだしね。

演出がきちんと仕事していることがよくわかる上演でした。面白かった。関東大会での健闘を祈ります。

桐生高校「七人の部長」

作:越智 優(既成)
潤色:桐生高校演劇部
演出:(表記なし)

あらすじ・概要

生徒会主催の部活予算会議に集められた6人の部長と生徒会長(かつ手芸部部長)。私たちは、教員たちが決定した削られ続ける部活予算をただ承認するだけなのか。それとも全会一致で拒否権を発動して、部活予算を作り直すことができるのか。各部長たちとのの駆け引きと議論が進み…。

感想

パンフレットにも書かれていますが、高校演劇界では有名な台本です。私は初めてみましたけど。

左手側に移動式の黒板が置かれ、議長席として机と椅子、そこに生徒会長。中央から右手にかけて6脚のパイプ椅子がずらっとならび、全部で7人の部長が集まったという舞台風景。元台本は女子7人らしいですが、男子6人+女子1人という非常に勢いと元気のある舞台になっています。

声やテンションは高くてわいわいがやがやすごく良いんだけど、間がないからあんまり笑いにつながらない。特に前半。後半はきちんと間が取れていたので、緊張があったのかなあと思いますが少し勿体なかった。元々の台本が面白いから、もっと笑いがとれるはずなのです。また見ていていまいち分かりにくかったのは会話のがやがやが整理されてなかったからでしょう。ものすごくリアル志向の演技で、よくぞここまで研究したという褒め称えるぐらいワイワイなんだけども、舞台としてみせるには少し問題がありました。がやがやしすぎてよく分からないことです。

台本はコメディなので、そういうリアルよりも少しだけオーバーに演じる必要があります。もちろんリアルを取り去ってはまずいのだけども、リアルでありながらもオーバーな部分を作ってあげて、同時に少し弱める部分を作ってあげるとグッと全体が引き立ちます。何をどうしてと具体的に書くよりは、参考意見を言ってくれる観客か演出を立ててその前で一度演じてみてください。それが早道です。観客の視点からの作り込みが欠けたのが最大の問題で、あの演技の勢いですからそれがあれば会場を大爆笑させることができたでしょう。

観客視点といえばBGMが非常にうざったかった。ほとんど要らない。BGMをあれだけ多用することは「BGMに頼らないとムードが出せません」と敗北宣言しているようなものなのですが、実際の舞台はBGMなんていらないぐらい面白い。だからものすごく邪魔でしょうがなかった。

全体的に

後半はコメディの止めを使ってうまく笑いをとっていましたが、コメディ以外の台詞と台詞の間も注意してほしかったなと思います。あとは上にも書いたけどゆるむ演技、トーンの弱い演技を所々に入れてあげるとよかったでしょう。意識的に弱めた場所をみせることで、ワイワイはもっと引き立つのです。

元気いっぱいに作っていたのはすごくよかったし面白かったのんだけども、観客視点を忘れずにそれをさらに発展させるような工夫をするとより上を目指せるかと思います。それはともあれ、あそこまで力一杯演じている姿はやっぱり清々しく好感を持ちました。