吾妻高校「ホット・チョコレート」

作:曽我部マコト(既成)
潤色:吾妻高校演劇部
演出:大塚 茉結、吾妻高校演劇部

あらすじ・概要

学校を休んだキッコ。そこに来る友人ミオ。期末テスト、そしてキッコの引越しまで約1週間。キッコのやっていたバンド活動はどうなるのか。全国大会の優勝校台本。軽妙な掛け合いの中と、友人達の微妙な心理のずれを描いた、定番の青春モノ。

感想

2007年に県大会で見て以来ですが、「ホット・チョコレートってこんなに面白く魅力的な本だったんだ」と感じた上演でした。入選してもおかしくないなと最後まで本気で思ってたんですけどね(苦笑)

パネルはないものの、コの字上に家具が置かれた部屋。上手に電子ピアノ、奥に茶色の革ベッド、中央にテーブル、下手側に衣装ケースが積まれその上に段ボール、部屋の出入り口としての隙間、更に下手に本棚がありだいたい10~12畳ぐらいの部屋になっています。広くないですか? かなりバラバラと置かれた印象があり、また家具がキッコ(女子)の部屋としてはさすがにちょっと不自然に感じました。大変だとは思いますが、置くものをもう少し変えられなかったのでしょうか。そして大事なことなのですが、部屋の出入り口は開きっぱなしなのですか? 風を通すために開けっ放しなのかなと思ったのですが、途中で「エアコンが効いてる」という表現もあり非常に不自然に感じました。

まず始まってみんなのセリフの応酬が上手いなと感じました。セリフがきちんと聞き取れて、全体の流れがよくわかり、それでいてワイワイもしている。メリハリと物語進行がとてもよく配慮されていました。位置取り距離感も配慮されていたし、人物も色付けがきちんとされていたと思います。

途中14分ぐらいで携帯が鳴るシーン(AKB48の着メロ)が鳴るシーンがあるのですが、突然BGMが鳴ったように感じたので違和感がありました。もう一工夫欲しいところです。音を加工する方法は色々ありますが、せめて一度携帯で鳴らしたものを録音しましょう。舞台裏からCDデッキ(ラジカセ)等で鳴らせればなお良いです。あと携帯を通話したときの「ピッ」音もあるとより分かりやすい(説明的なのでなくてもいい)。

音と言えば、テーマ曲のピアノソロは非常によくできていて、歌もピアノもうまく(うますぎず)とても印象的でした。ただこれCDデッキで実際に鳴らしてもよかったんじゃないですか?(以前の違う高校の公演はそうしてました)。部屋のその場所で鳴っている感がしなかったので。それにCDを入れてすぐ再生ボタンを押して再生されるのも不自然でした。CD入れた直後に再生なんてできないですよね? あとループにする必要もなかったように感じます。もう1つ、ラストシーンではバンド版のテーマ曲か流れるのですが、こちらはバックの音が大きすぎてボーカルがぜんぜん聞き取れない(同じ曲だとわかるのに時間がかかりました)。ミキシングのバランスを修正したほうが良いです。

その他、日によって少しずつ服装を変えていたり、日が進むと段ボールが少しずつ増えたり本棚から本が無くなったり、細かい部分がよく配慮されていました。ただ、引越しの進行に関しては本や衣類が床に散らばっているのが衣装ケースや段ボールに入るぐらい分かりやすくしてもよかったし、段ボールも白い段ボールを使うと(床色との兼ね合いで)わかり易かったかと思います。現状だと「引越しがいよいよなんだな」という感じがしないのです。

全体的に

メイキング・オブ・ホット・チョコレート -きいのりこのこと-という台本作者が書いた回想があります。上演された方は読まれたでしょうか? これを読むまでもなく、この台本は「去っていくキッコ」と「去られてしまうミオ」の物語なのです(テーマ曲の詩も異性のことのように見えて、二人を暗喩してるのかもしれないですね)。そう考えると読みこなしや演技が足りなかったのかなと感じてしまいます。この二人の微妙なココロの動きと相手に対する想いまでは透けて見えなかった。もうこれは細かい演技・演出がどうのうこうのではなく、そこまでの気持ちが見えなかった。厳しい言い方ですが、作りこみがまだまだ足りないと言えます。

具体的に1つ、ホットチョコレートを飲むシーンがあっさりし過ぎた気がします。もっともっと間を使って、もっともっとしっとり視線や態度で演技させてよかったんじゃないでしょうか。台詞にはならない二人の気持ちが最も錯綜する一番重要なシーンだと思うのです。今よりずっと大切に扱ってほしい。あと舞台上で火は付けられないとしても、牛乳か何かだけでも入れておくことはできなかったのかな。

上演を見終えて「これ以上どこか良くしようというのは難しい」という感じがしました。たぶん演じて演出してる方々も同じ気持だったと思うんですよね。でも、確実にあと一段上を目指して頑張ってください。ホットチョコレートという台本の素敵さがきちんと伝わる良い上演でした。

太田市立商業高校「サクラの、その。」

作:高場 光春(既成)

あらすじ・概要

高校入試合格発表の日。教室で、生徒の合格(不合格)報告を待つ担任。親友である「りょうこ」と「ちえり」は同じ学校に行けるのだろうか、はたしてちえりは志望校に合格しているだろうか。

感想

下手を向いた机が4つ×2列で8脚。手前の中2つだけ向きあわせで先生と面談形式。後ろにホリゾントが引かれて、シーンごとに使っていました。講評でも指摘があったけど、飛び降りシーンのホリは余計だったと思います。あまり過剰に説明的な演出というのは、やはり好ましくありません。舞台全域を明るくしていましたが、もう少し狭くしてもいいような気もしました。教室の構造はどうなってるんだろう? という疑問もあり「机をおいたからなんとなく教室」より上を見せてほしかったところです(前橋南は何もなくても舞台上に屋敷を作ってみせたわけで)。

テンションが高くてテンポもいいけど、ちょっと声を張りすぎて聞き取りにくかったかな。気合入ったところでは声を張り上げて大きくアクションするだけになっていたのがもったいないところ。講評でも同じような指摘がありましたが、強く激しく言う以外にもあえて弱く言うことで強い印象を残すこともできるのです。冷めて強烈に怒ることもできます。「怒るときはこんな演技」という演技を型でやりすぎた印象がありました。よく言えば妥当なんですがベタすぎるのですよね。リアルではなく記号化された演技になっている。

シーンによって緩いところは緩めに演技はできていたのですが、もっと緩くてもいいかなという感じもありました。しかし、あまり緩すぎると中学生っぽくなくなるので、これも難しいところです。大森先生はゆっくりとした動きや大人っぽさを気をつけていましたが、もっとゆっくりでも良いと思います。

全体的に

これ、あんまり良くできた台本ではないんですよね……。ラストのお守りのシーンのくだりとかは結構良いんだけど、逆に言うとそこだけで、そこに至るまでの台詞の応酬とか、全体の構成がうまくない。それをそのままやってしまったなという印象があって、それが実力よりも評価を下げてしまったのではないかなと感じました。

あとは演技・演出のツメの甘さ。シーンシーンで分けて考えられてはいたのですが、それでも全体的なメリハリや緊迫シーンの工夫が欲しかったところです。りょうことちえりの関係性がもっともっと見えて来たらよかったかな。台詞以上の関係性が。お互いがお互いのことをどう思っていたのか、そういう部分が(台詞以外から)あまり見えてこなかった気がします。

前橋市立前橋高校「笛男 ‐フエオトコ‐」

作:亀尾 佳宏(既成)

あらすじ・概要

帽子をかぶった男、明夫が電話をしている。明夫はどうやら人を待っているようだ。そこで回想する子供の頃の出来事。子供のアキオはこの場所でダイスケ、ユウイチ、ユミの4人で遊んでいた。

感想

まず言わせてください「どうしてこれを入賞にしないのだ」と。それぐらい群を抜く完成度でした。

冒頭の回想で、明夫とアキオ(子供)の台詞を重ねることで同一人物であることを説明している。まずそれが上手い。回想シーンに入り、公園らしき場所。下手に灰色の板を重ねたもの、中央に3段の階段状になった長めブロック、上手に木の棒が何十本も積まれている。おそらくは公園だと思うのですが、このリアルすぎない抽象的な公園イメージがこの演劇にはよく合っています。

特筆すべきは小学生4人の演技でした。男の子二人、ダイスケとユウイチ。二人が好意を寄せるユミ。ユミに気にかけられているアキオ。アキオのことを邪魔に感じているダイスケとユウイチ。この4人の人間関係がきちんと演じられていました。それは表情であり態度、人物たちの距離感(心の距離、物理的な距離)です。登場人物たちの関係性をここまで明確に演じる高校は県大会ではまず見ることはありません。小学生4人は女子4人が演じているのですが、ちゃんと男の子してる。格好とか喋り方だけでなく、動作や人物位置がものすごく洗練されている。少し足を開き気味に、腕を開き気味な男たちと、足を閉じ気味で肘も体に寄せ気味のミキ(女子)。そして過剰ではない。終始、完璧に隙一つなく「本当にこんな小学生居るよな」という感想を通り越して、もうそこに小学生が4人居るとしか思えない。

現在の明夫と回想の中の「(不審な)おじさん」が重なるシーンの見せ方でも「ズレた」感じがきちんと演出されていて見事だったし、小学生の下手なリコーダーとおじさんの上手なリコーダー、それが教えてもらって練習してうまくなる(でも完璧じゃない)という演出も非常にうまくされていました。ラストシーンも綺麗でありながら必要十分だった。

見事すぎて突っ込みどころがないのです。あえて突っ込むとすれば、(現在の)明夫がもう少し大人っぽく演じられればよかったかなと思いますが、発声や背格好などは役者の限界があります。明夫ひとり語りシーンでのサスとの位置関係で顔や下半身が完全に影になっていたのを、多少後ろに下がるとか横から軽く光を当てるとか、ミキサーでミュートにせずただカセットかCDか何かを止めただけだったので、常時スピーカーから「ジー音」がして気になったとか本当にそれぐらいしかありません。

全体的に

講評で1回観ただけでは意味が分からないということを指摘されていましたが、個人的には充分理解できましたしこれで充分だと感じます。講評で別の方から出たこれ以上変にいじらないでほしいという意見に同意です。たしかに、他の観客に全部意味が伝わったかというと、上演後「結局おじさんと明夫の関係は?」みたいな雑談が聞かれたので安易に肯定はできないでしょう。しかし100%分からせる必要があるのかないのか。

改善点を挙げるなら、現在の笛男である明夫の舞台進行に合わせた心理変化をもっと表現する方法がなかったのかという点です。新たに娘を受け入れ、この先の生活や境遇の変化を受け入れようとしている明夫が過去の回想から何を感じとったのか。笛先を入れ替えて吹いてみるまでの心境変化は何だったのか。主役である明夫の、台詞ではない演技でミキちゃんや過去の自分自身、そしてまだ見ぬ娘に対する心理というものが演出されたなら完璧であっただろうとは感じます。

講評でほとんど批判的意見が出なかったことからも分かる通り、ほとんど突っ込みどころがありません。他校にはこの上演をよく研究して見習ってほしい。それぐらいの見事な上演なのにどうしてという感じです。関東大会行って欲しかったし、この学校を関東に行かせるべきだったと個人的には思います。

前橋南高校「箱式hollow」

作:原澤 毅一(顧問既成・「恐ろしい箱」より改題/細部改変らしい)
演出:須藤 瑞己

あらすじ・概要

突然エレベーターに閉じ込められてしまった5人。助けが来る様子もない。どうやったら外に出られるのだろうか。ざわざわと騒いでいるうちに便意を催した武田は閉じ込められたエレベーター内で……。暗転。するとなぜか木村がいなくなり、変なミュージシャンが2人入ってくる。なぜ? どうして? どうやって???

感想

中央部のみのサスで作られた空間。そこに正方形の敷物が置かれています。どうやら閉じ込められているらしい。ここがエレベーターの中というのは後の台詞で分かります。最初は密閉空間での人物交流なのですが、変なミュージシャンが入ってくる当たりからぐちゃぐちゃにしてしまう。よくこんな変哲な設定の台本を思いつくなと感心しました。

基本的にはこの密閉空間におけるドタバタ劇で、前橋南の実力を遺憾なく発揮し、間を充分に取った笑わせる演劇でした。間やメリハリの使い方がとてもうまく、力が入り過ぎない緩んだ演技がとても良くできている。他校はよく見習ったほうがいいと思います。変なミュージシャンが入るまでは、所々間の少ないところはありましたけど、その後はもうバカみたいなやり取りが繰り返され大ウケしてました。ほんとにバカですねー(褒め言葉)。そんな変な人達が増えてきても1人まともな武田が主人公なのですが、とても良い基準となっていました。変な人しか居ないと少しも面白くなくなりますからね。

終盤の火星移住ナンタラとネタバラシがされたとき、武田以外の人物が今どうしているか見せるシーンがありましたが、客席の位置によっては旅行代理店の人間が邪魔で後ろ(その後の人物たち)が見づらかったのでもう少し工夫してほしいところです。

全体的に

これだけの演技と完成度で入賞すらならなかったわけで何だろうなあと考えていましたが、こちらのブログで「『恐ろしさ』『不気味さ』に欠けていた」との指摘があり納得。講評でも指摘されていたのですが、結局何だかわからないという問題があります。ここ何年かの前橋南は理論的解釈を拒む上演だったわけですが、今年は解釈ができる上演になっています。

主人公の武田は意味もなくひどい目に遭わされて、結局最後までひどい目に遭わされて続けるのですが、解釈してみると結局だからどうしたのと。ラストシーンで武田のみを載せたエレベーターがどこかに到着して終わるのですが(それが何処であるかは示されない)、これを火星と思えば酷い話だし、元々乗っていたエレベーターの本来の行き先だと思うとギャグ話。もしくは夢オチみたいな感じ。投げっぱなしすぎ。

結局のところ投げっぱなし過ぎて、全体としてどこに焦点を当てた演劇であり物語なのかすらもわからなくなってしまっている。かといって解釈を拒むほどの(解釈しなくても良いと思わせるほどの)突き抜けた何かがあるわけでもない。「じゃあ何ですか?」という状態になってしまったということでしょう。ですから徹底的に不気味にするのは1つの戦略として正しい。

やや欠点があるものの完成度はとても高かったので、審査基準が違えば入賞していたと思います。

吾妻高校「七人の部長」

作:越智 優(既成)
潤色:吾妻高校演劇部

あらすじ・概要

部活動予算会議のために集められた7人の部長たち。予算が少ないことに疑問を呈した演劇部部長を発端に、話はおかしな方向へ……

感想

女子高を舞台にしたドタバタコメディ。非常によくできた台本で、高校演劇では定番です。

パネルを前面に用意して部屋を作っていたのですが、ステージ全体を使っていたのでやや広い感じがありました。講評でも指摘はありましたが、もう少し狭くても良いと思います。あとはやはりパネルの高さが6尺しかないので、移動式黒板が後ろの壁より高くはみ出していて格好悪かった。長テーブルと椅子がコの字状に配置され中央の生徒会長に対し左右3人ずつ、会議室らしいリアルではありますが、以前観たテーブルを廃してしまった桐生高校の上演と比べると動きにくそうです。

この長テーブルと背もたれのある椅子というが終始気になりました。演じてた本人達は充分わかってたともうのですが、動作による演技をしたくても狭くて動きにくくてできる演技がとても限られてしまう。まして隙間のない「コ」の字状態なので、相手の前に行くのにはコの字を避けて大回りしなくてはならず時間がかかる。カチンとなっても突っかかりに相手の場所まで行けない。せいぜいできるのはテーブルを叩くぐらい。仮にテーブルがなかったらどんな演技ができただろうか?と考えてみたらどうでしょう。別にテーブルが無いほうが良いと言っているのではなく、コの字ではない別の配置にするだけでも、コの字の間に隙間を設けて配置をちょっと工夫し、加えて個々人の左右に多少スペースを設けるだけでも選択肢は格段に増えたはずです。とにかく動きにくくしたことが致命的なミスのようにも映りました。

そして間がない。たしかに上演時間に対して文量が多めですから早口になりがちなのは分かりますが、他の演出を削ってでも「間」や1つの台詞中でのトーンやピッチの変化をもっと大切にしてほしかった。特に前半の台本上も笑いを狙ってる部分では、この間、そして止めをややオーバーに使わないと全く笑いが取れません。逆言うと、それらを効果的に演じれば笑いは取れるし、充分に引き込める台本です。

細かいところですが、冒頭、生徒会長が「じゃあ異議もないようですので……」の部分で、明らかに「異議が来ることを予期した演技」になっていました。これは一例で、全体的に練習しすぎで「慣れ」(次何か来るか分かってるだけに無意識に準備しているの)が透けて見えてしまったのもあるのかも知れません。

あとこれは演者には関係ないことですが、客席でことあるごとに雑談している人が居て気になって困ったし、後半、おそらく照明ブースと思しきところから「ガラガラ」と窓を開け閉めする音が繰り返し聞こえて気になってしょうがなかった。

全体的に

各人物の色付け・性格付けや個々の演技はとても頑張っていましたし、きちんと実力もあります。これは素直に評価したいのですが、動けないようにしたのが致命傷でした。客視点での掛け合いの間や強弱、演技のテンポをもっと丁寧にフォローして欲しかったと思います。特に前半は(ある程度)コメディになるので。