高崎商科大学附属高校「修学旅行」

作:畑澤 聖悟(既成)
※優秀賞(関東大会へ)

あらすじ・概要

修学旅行で同じ部屋の5人。旅行地は沖縄。旅行も終盤となり、恋話に花を咲かせていると……。

感想

2×5のござのようなもの(固定されてる)が置かれた10畳の部屋に布団が5つ川の字に敷かれている。

女子5人の非常にワイワイとした上演で、服をきちんと分けていたり配慮もされていたなと思います。元気いっぱいでワイワイ感がよくできているなと感じたのですが、全体的に少し早口であるようにも感じました。もう少し力が抜けているといいかも。講評でも指摘がありましたが、キーとなる口癖の「でー」があまり目立たなかったので間をとるとか発音を変えるとか必要だったと思います。最後の「でー」も聞こえなかったし。

最初は少し固かったけど、先生が滑ってコケそうになったあたりから(たまたま?)引きこまれて面白くなってきました。マクラ投げは面白かったです。マクラが大量に出てきたのは本当にひどいですね。とても楽しそうでした。その先生ですが、先生っぽく気を使っていたのに少し動作と発音が速かった印象があります。大人はもう少しゆっくり動きますので注意しましょう。特に、早く捌けなきゃみたいな焦りが見えました。これと関連しますが、舞台全体を部屋とすると広すぎるので左右にパネル立てたり、幕や照明で狭めるぐらいできなかったのかなという印象はあります。別に舞台の外を部屋と廊下の境界にする必然性はないですよね?

全体的に

台本の面白さをよく演じていたとは思います。元気いっぱいなのもよかった。

苦言を呈するなら逆にそれだけだった印象が強いです。5分残りましたし、もっと力を抜いて間を大切にするところを作っても良いと思います。全体的に間が早く、台詞の言い合いになっているシーンが非常に多かった気がします。あと全体的にはコメディだからもっとコメディしても良いですよね。

高崎健康福祉大学高崎高校「マリオネット組曲」

作・演出:森田 涼子(生徒創作)

あらすじ・概要

本番を1週間後に控えた演劇部。舞台で練習をしている泉水は、次々とめまぐるしく舞台が入れ替わる設定に違和感を覚えながらそれを演じていき……。

感想

ホリのみの簡素な舞台。青いホリの雨のシーンから始まります。雨音が少し大きいな、きっかけがずれてるなと思ったら、その劇が演出家(役)によって止められて「雨音大きい」「きっかけおかしい」と指摘される。失敗したように見せてわざとという憎いかつ挑戦的な演出で舞台は始まります。舞台が止まりバラバラと出てくる部員たち。講評でも指摘はありましたが、何の係の人が舞台に出てきたの?という疑問はやはりありました。

音響の場所に、音響役を配置したり、客席から演出がかけて行ったりとか、サスと声を対応させる演出とか色々面白く工夫されて面白かった。そしてラスト怖かったです。入り込み過ぎちゃったらこうなりましたってある意味ホラーですよね。どうオチを付けるのかすごく気になっていたのですが、そうなりましたかと。講評の指摘にもあるとおり投げっぱなしではありますけど、これもありかなとは思います。

女装のキャラがすごくいい味出してたのですが、少し滑舌が悪かったかな。もうちょっと発声を練習してほしいです。しかし、それ以外はほぼ声の通りもよく、分かりやすく演じられていました。

全体的に

作・演出・出演(演出役)の、かなり挑戦的な(意図してかどうかはともかく)上演ということでこちらとしても気合が入ります。

結果どうかというと甘かったなと言わざる得ません。いや、すごく面白い台本なんですよ。生徒創作でこれだけよく書けているとすごいなと思うのですが、それはあくまで生徒創作という目でみたときで高校演劇での創作脚本全体としてはまだまだの部分があります。

主役の泉水がどんな役にも適応していくということを表現するための様々な設定の舞台(エチュード)だったと思うのですが、逆にいうとそれ以上の意味がない。この構成でこの舞台なら、このエチュードにもっと別の意味を持たせて、ラストシーンで何らかのつながり(意味付け)があったらもっと良かったんじゃないかと感じます。

もう1つ。この芝居は微に入り細に入り隙の無い演技・演出をして初めて成り立つと思うのです。全体的にはよくできている上演も、細かく見ていくとゆるい部分が目についた。具体的にというと難しいのですが、例えば前橋南ほどまでには劇空間(ムード)が作れていなかった。主役の泉水が翻弄されている様子も曖昧な部分があり、まだ自分が無いという部分についても演出やエピソードが不足していたと感じます。演じさせる以外の説明の仕方もあったのでは? またやや適応し過ぎで、どうしてあそこまでの狂気に至ったのかなという部分が透けてみかなかった。

面白いし、よく演じられていたんだけど、あと一歩という印象が残りました。

桐生南高校「笠懸野」

作:伊藤 藍(顧問創作)
演出:新井里実、春山奈々
※優秀賞(次点校)

あらすじ・概要

マラソンで3位となってしまって居場所を失った男が河原に。そこに魔女のような女が現れ……。ついで同級生たちが現れるがそのとき男の姿はなく……。

台本の感想

河原での出来事と河原の記憶としての回想。笠懸地方で昔あった出来事の再現。男と同級生たちの関係も、何も説明しないまま進む舞台進行。そして最後に、男が自殺したことが明かされる。着想や構成は面白いなと思いますが、講評でも指摘があったとおり(顧問創作なので言い淀んでましたが)全体の構成から見ると個々の回想エピソードが完全に浮いてしまっていて正直なところ「要らないよね?」としかならなかった。散漫な話という印象が拭えません。

男と魔女の関係(会話)で進めてしまったほうがよっぽどすっきりするし、もっと男の深い部分を描くこともできたんじゃないかなとしか思えませんでした。マラソンで自殺は円谷幸吉がモチーフなんでしょうか。

感想

舞台の端から端まで河原の土手が表現され、奥にホリ。手前への階段が2つ。河原や手前の地面全体に落ち葉が置かれ(河原には落ち葉の絵と落ち葉を貼り付けて)いました。今年大掛かりな装置を用意したところは少なかったので、よく作ったなと感じました。でも土手にしては高さが1mちょっとしかなく傾斜が緩いので低く感じてます。仕方のないところですけど。

女のしわがれた声の演技うまかったですね。あと田中正造とか、そのあたりの回想エピソードも非常によく演じられていました。ただ人物によって滑舌や声に力が入りすぎたり、複数人で同じ台詞のところは声がずれたりして聞き取りにくかった気はします。これが現代の言葉なら問題なかったのでしょうが、古い言葉なので通常以上にきっちり聞こえないと分からないのですよね。

土手が紅葉色でホリも紅葉色にしているシーンがあるのですが、綺麗と言うよりも色が一緒で混ざっちゃってる印象が強かったので、もう少しホリの色味を変えるとかできなかったのでしょう。雷の演出は上手かったと思います。あと舞台下手の巨大なブランコとその音は非常に良く効果的に使われていました。

他方、水音のSEがループの繋ぎ目がハッキリ分かってしまい、しかもループの間隔が短いので気になってしょうがなかった。PCでフリーのWave編集ソフトを使えばこの手のループは簡単に処理できますし、別の音源を探してくることもできたと思うので(川音にしては土手の大きさと乖離している)絶対的にどうにかすべきだったでしょう。

全体的に

演技や芝居の実力はあるし、よく演じられていたのに台本が少しもったいなかったかなという印象はあります。この台本ならこうなるよねという感じです。

ただまあ、台本が散漫なところを散漫にならないように演出する配慮は可能だったかもしれません。スポットを当てるとしたら男なのかな。男とその同級生という関係性でもよかったかもしれない。やっぱり台本を直さないと難しいところがありますけど。

共愛学園高校「見送る夏」

作:越智 優(既成)

あらすじ・概要

夏休みの宿題をするため早枝子の家に集まった友人3人。そこに居候をしている従姉妹の栞莉がやってくる。おばあちゃんのお葬式に行けないという栞莉は……。

感想

後ろに6尺パネルを数枚立ててその手前に段差を作った畳敷きの居間、左右につながる廊下というイメージ。壁の上手側にクーラーが設置されています。今年はセットが簡素な学校が多かったのですが、結構しっかりしたセットでした。段になってる居間から降りるための階段があったのですが、使いましたっけ?

部屋感を出すために照明をある程度制限していてよかったのですが、反面、夏感との両立は難しいなという感じもしました。例えば、壁に窓があって、そこから強い光が差し込む(もしくは強い光が見える)等あれば、夏感が増したような気もします。SEやすいか(すいか本物っぽかったけどよく用意したな)以外の要素でもう少し夏感が出せなかったのかなと思いました。

ラストシーンで評価が高かったクーラーですが、踏み台を使わずに届く位置にあるのは違和感がありました。あの高さにクーラーがついているお部屋はないですよね。大変だとは思いますが、パネルをもう少し高くしてほしかったところです。

宿題をやるために集まった3人。ワイワイガヤガヤとしたリアリティが非常によくできていて、演技も力を抜いて騒ぐところ、スローテンポのところのメリハリができていました。ただ、最初や途中で「聞かせるべきキーとなるセリフ」のいくつかがガヤガヤし過ぎて聞き取れなかったのが大変もったいないところです。

姉(塔子)が訪ねてきたときの塔子とその他4人の対比(動き)は綺麗でおじぎとか面白かったです。その塔子が「茉莉、来なよ」と言うときの間(止め)の使い方は非常に緊迫感あり良かったのですが、座りながら言わなくてもよかったのではと少し感じました。塔子ですが、もう少し「たまたま通りがかったと嘘を言っている」ことの嘘っぽさが出たらよかったかな。大人っぽく見せる(演じる)ところに意識が行って他に回ってない気がしました。

全体的に

夏休みの宿題というワイワイの中に各人が抱えるものが浮かんでは消える詩のような台本なのですが、その主題というべきものに光を当てることが蔑ろにされた印象があります。そこを強調し忘れると、すごく散漫とした演劇になってしまうし、実際そうなってしまった印象もあります。細部にこだわった演出や個別のシーンはよくよく考えられていたしそこは評価したいのですが、その一方で「物語全体としてどう見せようか(どうすれば伝わるか)」という部分が弱かった感じがします。物語全体から考えると、個別のシーンの扱いや演出も変わってくる(変わるべき)だと感じました。引いた立場で全体を見渡す演出がいなかったのかな。

話自体は単純ですし、いっけん難しい台本にも見えない。でも、個々人の抱えるものをどうやって演じるか、どうやって観客に伝えるか、どうやって表面的なセリフには現れない心情を描き出すか、セリフに現れない登場人物たちの心情は一体何であるかを強く強く意識しないと「ただ宿題をした」だけで終わってしまう台本のように感じます。各シーンはよく演じられていたし、大道具なども気合入っていたのですけどね……。惜しい。

吾妻高校「ホット・チョコレート」

作:曽我部マコト(既成)
潤色:吾妻高校演劇部
演出:大塚 茉結、吾妻高校演劇部

あらすじ・概要

学校を休んだキッコ。そこに来る友人ミオ。期末テスト、そしてキッコの引越しまで約1週間。キッコのやっていたバンド活動はどうなるのか。全国大会の優勝校台本。軽妙な掛け合いの中と、友人達の微妙な心理のずれを描いた、定番の青春モノ。

感想

2007年に県大会で見て以来ですが、「ホット・チョコレートってこんなに面白く魅力的な本だったんだ」と感じた上演でした。入選してもおかしくないなと最後まで本気で思ってたんですけどね(苦笑)

パネルはないものの、コの字上に家具が置かれた部屋。上手に電子ピアノ、奥に茶色の革ベッド、中央にテーブル、下手側に衣装ケースが積まれその上に段ボール、部屋の出入り口としての隙間、更に下手に本棚がありだいたい10~12畳ぐらいの部屋になっています。広くないですか? かなりバラバラと置かれた印象があり、また家具がキッコ(女子)の部屋としてはさすがにちょっと不自然に感じました。大変だとは思いますが、置くものをもう少し変えられなかったのでしょうか。そして大事なことなのですが、部屋の出入り口は開きっぱなしなのですか? 風を通すために開けっ放しなのかなと思ったのですが、途中で「エアコンが効いてる」という表現もあり非常に不自然に感じました。

まず始まってみんなのセリフの応酬が上手いなと感じました。セリフがきちんと聞き取れて、全体の流れがよくわかり、それでいてワイワイもしている。メリハリと物語進行がとてもよく配慮されていました。位置取り距離感も配慮されていたし、人物も色付けがきちんとされていたと思います。

途中14分ぐらいで携帯が鳴るシーン(AKB48の着メロ)が鳴るシーンがあるのですが、突然BGMが鳴ったように感じたので違和感がありました。もう一工夫欲しいところです。音を加工する方法は色々ありますが、せめて一度携帯で鳴らしたものを録音しましょう。舞台裏からCDデッキ(ラジカセ)等で鳴らせればなお良いです。あと携帯を通話したときの「ピッ」音もあるとより分かりやすい(説明的なのでなくてもいい)。

音と言えば、テーマ曲のピアノソロは非常によくできていて、歌もピアノもうまく(うますぎず)とても印象的でした。ただこれCDデッキで実際に鳴らしてもよかったんじゃないですか?(以前の違う高校の公演はそうしてました)。部屋のその場所で鳴っている感がしなかったので。それにCDを入れてすぐ再生ボタンを押して再生されるのも不自然でした。CD入れた直後に再生なんてできないですよね? あとループにする必要もなかったように感じます。もう1つ、ラストシーンではバンド版のテーマ曲か流れるのですが、こちらはバックの音が大きすぎてボーカルがぜんぜん聞き取れない(同じ曲だとわかるのに時間がかかりました)。ミキシングのバランスを修正したほうが良いです。

その他、日によって少しずつ服装を変えていたり、日が進むと段ボールが少しずつ増えたり本棚から本が無くなったり、細かい部分がよく配慮されていました。ただ、引越しの進行に関しては本や衣類が床に散らばっているのが衣装ケースや段ボールに入るぐらい分かりやすくしてもよかったし、段ボールも白い段ボールを使うと(床色との兼ね合いで)わかり易かったかと思います。現状だと「引越しがいよいよなんだな」という感じがしないのです。

全体的に

メイキング・オブ・ホット・チョコレート -きいのりこのこと-という台本作者が書いた回想があります。上演された方は読まれたでしょうか? これを読むまでもなく、この台本は「去っていくキッコ」と「去られてしまうミオ」の物語なのです(テーマ曲の詩も異性のことのように見えて、二人を暗喩してるのかもしれないですね)。そう考えると読みこなしや演技が足りなかったのかなと感じてしまいます。この二人の微妙なココロの動きと相手に対する想いまでは透けて見えなかった。もうこれは細かい演技・演出がどうのうこうのではなく、そこまでの気持ちが見えなかった。厳しい言い方ですが、作りこみがまだまだ足りないと言えます。

具体的に1つ、ホットチョコレートを飲むシーンがあっさりし過ぎた気がします。もっともっと間を使って、もっともっとしっとり視線や態度で演技させてよかったんじゃないでしょうか。台詞にはならない二人の気持ちが最も錯綜する一番重要なシーンだと思うのです。今よりずっと大切に扱ってほしい。あと舞台上で火は付けられないとしても、牛乳か何かだけでも入れておくことはできなかったのかな。

上演を見終えて「これ以上どこか良くしようというのは難しい」という感じがしました。たぶん演じて演出してる方々も同じ気持だったと思うんですよね。でも、確実にあと一段上を目指して頑張ってください。ホットチョコレートという台本の素敵さがきちんと伝わる良い上演でした。