富岡東高校「全校ワックス」

作:中村 勉(既成)
潤色:富岡東高校演劇部
演出:橳島 唯

あらすじ・概要

学校全体を生徒で分担してワックスがけする全校ワックス。そこでたまたま同じグループになった5人が廊下のワックスがけをしながら織りなす物語。

感想

これまた有名な台本で、去年の新田暁の上演が強烈に印象に残っているのですが、それと比べると劣る印象は拭えませんでした。

去年の感想と多少共通するのですが「掃除が適当すぎ」「廊下の構造が適当すぎ」の2つに尽きると思います。バケツに水を汲んでくるシーンがあるのですが、汲んできた水は一度も使うことなく片付けられます。なんのために汲んできたの? 適当に掃除をすることはそれは高校生だからあるでしょうが、それにしたって「ここまで掃除した」ってものがわからないし、人物によってまじめに掃除する人も適当に掃除する人もいるでしょう。序盤で大家が廊下の窓を開けるジェスチャーがあるのですが、その後で窓より外側を掃除しているのはどうなんでしょう。

この台本は綺麗にワックスがけしたところを汚すことに最大の見せ場があるのです。そのシーンを際立たせるには「綺麗にワックスがけ」する必要があるし、嫌々でもなんでも広い廊下を一生懸命ワックスがけするからこそ「あぁー」というラストシーンにつながるのです。

それと同時並行で人物間の心の距離がだんだんと縮んでいく必要もあります。頑張って上演してはいましたが、台本を活かしきれなかったと言わざる得ないでしょう。

明和県央高校「アネモネ」

作:小笠原 梢(既成)
潤色:明和県央高校演劇部
演出:橋川 結衣

あらすじ・概要

盲腸で入院している奈美と、見舞いに行く友人達の織りなす物語。

感想

最初ちょっと台詞が聞き取りにくいかなと思いましたが、後半は乗ってきたようでよくなってきました。ただセリフ回しが全体的に早めでリアクションが取れてない印象です。他校にも言えますが、人物がややステレオタイプかなと感じました。声を作りすぎに感じた人物も複数居ました。

声のテンションがほぼ一定で、立板に水のようにさらさらと流れるのであれあれあれ?と置いて行かれそうになります。全体的にセリフ量が多いかもしれません。ラストシーンの花ですが、退院を知らないのになんで持ってきてたんだろう?と思ってしまいました。

県大会初出場ということで、これからも頑張ってほしいなと思います。

前橋育英高校「ぐらすとれ ~Graduation×Frustration~」

作:南雲 慶祐(既成/OB創作)
演出:安原実果子

あらすじ・概要

高校式一週間後、教室に集まった「ちか」と「らく」と「梅子」。卒業旅行の打ち合わせの中、在学中に彼女たちが抱えていた想いが出てきて……。高校生活は本当に楽しかったんだろうか。

感想

最初3本のサスで卒業式の呼びかけシーンから始まります。「楽しかった、高校生活」というフレーズを強調して暗転。机が一つ置かれたステージ。教室のイメージのようです。

冒頭でリュックの中からお茶を探すシーンがあり「お茶しかないや」とお茶を取り出すのですが、探して見つけるという様子がまったくない。探すフリをして、予め用意されたお茶を中から取り出しつつ「お茶しかないや」と台詞を述べてるようにしか見えない。このシーンだけではなく、全体的に「ここはこういう演技」に終始してて、台本の人物像も結構ステレオタイプ。演じ方もステレオタイプ。

ステレオタイプで人物の違いがハッキリと分かるので見やすくはありますが、逆に言うと深みがない。そして、全体を通しての演技・演出が「コメディ」のノリになっているなという印象も強くありました。この台本はそこだけじゃないですよね。

雑巾野球のシーンはくだらなくて面白かったです。演じてる人たちがちゃんと楽しんでる様子も伝わってきました。あと、どちらでもいいことですが、ちかと梅子かなの服装が遠目に似てたので、1人本当に制服でもよかったんじゃないかなとも感じました。あと雑巾も白い使ってないものだらけだったのが気になりました。

全体的に

ものすごく頑張って演じているのは伝わってくるんだけど、台本が少し問題かなという印象があります。表現したいことはわかりますが、それにしては台詞がストレートすぎて巧くない。台本が全部悪いとは言いませんし、本を芝居にする過程でも巧く処理できてないなと感じた部分はあります。しかし、共感を覚える人にはえぐるような話かもしれません。

途中で挟むサスのシーンやブルーライトで処理する現実進行ではないシーンは、とても抽象的で比喩的な表現を使っていてうまかったので、余計に地の台詞との乖離を感じて勿体無く感じました。これだけ抽象的な表現をする実力があるのに、台詞が直接的なのでここも少し直してよかったんじゃないかな。あと詰め込みすぎな感じもあります。

演技や芝居を作る実力はあるのになという印象が強い上演でした。

富岡東高校「女や~めた!」

作:安倍いさむ(既成)
脚色:富岡東高校演劇部
※優秀賞

あらすじ・概要

女子校に入学した生徒が、ある時「男になりたい」と宣言。それが発端となって共学化検討委員会が発足し、議論が行われる。

「高校演劇Selection 2002下」収録作品。

感想

舞台中央と左右に1枚ずつ、計3枚のパネルが置かれ、それぞれに隙間があり出入りできるようになっています。中央には教壇ぐらいの段があり、その上に机と椅子、左右にも学校の生徒用の机と椅子が1セットずつ置かれ、そのまわりに椅子がバラバラと起これています。このバラバラと置かれた椅子の大半は使われることはなく、何の意味があって置いたのかよく分かりません。教室を示したかったのなら余り効果的ではありませんし……。あっても構わないといえば構わないのですが。

過去の男女教育などを、劇中劇を使って振り返るシーンで「木役」が非常に見事に機能していて笑わせてもらいました。コメディの部分は非常によく作られていて、特に演劇部部長だかの女役だった人が美味しいところを全部持っていった印象。人物づくりからして成功していたと思います。

講評で指摘があったように、劇背景を絵でめくってしまうのはチープだなというのは感じました。たしかに、この舞台ならこれはアリだとは思いますけど。ただし、舞台下手側の「演劇部」「上演中」という垂れ幕は必要だったのでしょうか? 途中「着替え中」などにめくって切り替えるのですが必ずしも正確ではない上、いちいちめくる音がするので気をそがれる。最後に「反省中」という笑いを取りたいだけだったのなら、余計ですので無いほうが良いと思います。

全体的に

以前、同台本を吾妻高校の公演で観たときも指摘したのですが、この台本には致命的な欠陥があって性同一性障害を扱うにはあまりにも考えが浅すぎます。人物像の問題はあまり感じなかったので演じ手でここまで変わるのだなあと感心する一方(潤色で全体的に直したのかも知れません)、ジェンダーの問題や男と女についての思慮は浅く、歴史観とか、振り返るフリ、議論してるフリをしてるだけで実際は何も議論していません。性同一性障害を発端にしながら、オチは共学化するかしないか。それなら性同一性障害なんて大層なものを持ってくることなく、共学化に焦点を当てれば済んだ話で、それを軸にして「共学化に対する登場人物たちそれぞれの思い」をきちんと描けば済んだ話でしょう。

つまり、男女のジェンダー論やその延長にある共学化に対して「単に反対」している以上の何かがまったく感じられず、その主題に関する人物たちの立場が「ただ反対」以上に何も感じられない。そのような台本上の欠陥を特に克服すること無く演じてしまった。ジェンダーや共学化に対する深い思慮は演技からも感じられなかったし、「男になりたい」に何の深みも想いも感じられない。結局それが問題になってしまった印象はあります。

しかしながら、コメディとして見ればこれほどの完成度で観客を沸かせたのは見事で、人物それぞれの演じ分けもきちんとされていました。とても面白かったと思います。

太田高校「どん底」

作:坂本幸基・吉田俊宏(生徒・顧問創作)

あらすじ・概要

部員1人で演じた一人舞台。中央部のサスに大きめのリュックを起きヘルメットをかぶった男が1人。「おーい、誰かー。俺はここに居るぞー」。一体どうしたんだろうか……。

感想

講評でのやりとりを見ると「1人ではこれしかできない」ということで逆説的に作られた台本であり演劇とのことです。1人の演劇部で県大会まで来たことは立派で40分の演劇を上演したことはたしかに評価されるべきですが、しかし。

「しりとり」「落語」「燃えよドラゴンの真似」「ルービックキューブ」とか遭難した男の暇つぶしなのでしょうが、最後ルービックキューブを置いてただ去るとか……結局何だったんだろう。何がしたかったの? というのが正直な感想でした。上記の事情は分からなくはないし、とにかく演じたかったというのも気持ちも分かるのですが、それと上演内容はまた別の話です。

それと途中出てくる落語。頑張っているのは分かりますが、トーンの使い分けがいまいちです。間もありません。本物の落語はもっと「間」や「止め」を効果的かつ贅沢につかいますし、人物の差はもっとオーバーにハッキリと演じ分けられます。落語の真似事のシーンだからこれで良いのだと言われればそれも成り立つでしょうが、もっとうまく落語すればそのシーンが面白くなったでしょう。

全体的に

演劇の醍醐味である人物の関係性が作れないので一人芝居はたしかに大変なのですが、もうすこし他の方法もあったように思います。例えば、相手が居るように片方の台詞だけで物語を紡ぐとか、それこそ落語のように一人で相手役も演じるとか。講評であったように、単にオチを付けることもできたでしょうし、それぐらいしても良かったのではないでしょうか。変化球なら1人の演劇部が頑張って地区大会に参加するまでを皮肉を交え演じるという手もあったかも知れないし、もしくはもっとリアルから遠ざかり良い意味で意味不明にしてしまって煙に巻く手もあったでしょう。

もう一工夫欲しかった印象です……。でも演技力はそれなりに高かったとは思います。

追記 評価が分かれる上演で高く評価する声もありますが、率直な感想を重視し書いてあります。