桐生南高校「ハムより薄い」
原作:逢坂 みえこ 『ベル・エポック』(YOUNG YOU漫画文庫・集英社刊)
脚色:青山 一也
演出:桐生南高校演劇部
※優秀賞(次点校)
あらすじ
32歳の独身女性5人が雑談をしている。最近あった話、結婚している人も居たり、結婚してない人も居たり。そんな雑談の中で喧嘩をして、やがて……。
脚本について
漫画原作ということで、どの程度原作通りなのかは謎ですが、まあでも青山先生の本だなーという印象でした。
主観的感想
女性5名がテーブルを囲み、雑談という形で劇は進行します。始まってまず、相変わらず聞き取りにくい人が……。紫(ゆかり)役か茜役かなー。声が被ってしまうと(まあ聞かせなくてよい台詞なのかもしれませんが)何だかよく分かりません。ダンスをしながらBGMと共に役者が場転をやってしまう荒業にはちょっくらしてやられました。そしてここも使っていた「2時間後」という台詞による時間経過。流行なのかな。
往年の男子がほとんど抜けて(新入生は居ますが)、女子メインのお芝居。桐南は地区公演を含めると何回見続けてるんだという感じですが、その中では一番の出来だったと思います。一歩間違えば危険な「止め」を積極的かつ意欲的に使っていて、間の使い方が非常に慎重でシリアスとギャグの間も使い分けていました。例年の詰め込みすぎから内容を若干少なめにして、その時間を間の処理に回してあり大変よかったです。昔から比べればどんなに進歩したことか、とか感じてしまってはダメなのかもしれませんが(苦笑)。
一部声質が似通って聞き取れないのは健在だったものの(これでも前から比べればずいぶん良くなった)、緑(みどり)の間延びした感じとか、去年から定着感のある葵役の勝ち気な性格とかよく出てました。逆に言えば、桃子はお嬢様キャラなんですがもっとお嬢様お嬢様していた方がよかったと思うし、紫役と茜役は人物像がかなり弱かったですね。音のつけかたや照明の処理はほぼ適切で(良くも悪くも普通)今年の桐南はやけに(装置が)簡素だなーと油断していたら、ラストシーンの夜の公園はなかなか凝っていました。
とまあ結構褒めましたが、じゃあいいとこだらけかと言うとそうでもなく。まず、間(止めを含む)の処理がまだ甘い。例年に比べたら大分良くなったし大体正しい間なんですが、いまいち微妙にずれてるんですよね。具体的にどれというのは難しいのですが。ここまで来ると、演じ手だけでは詰めるのは難しく演出が仕事(見て判断して指示を出すこと)しなきゃならないのですが。ここで大体いいやで終わらせるか、完璧に合うまで調整するかが最終的な質を大きく左右します。関東大会やその上を狙うなら必ずやってほしいと思います(他校にも言えることです)。
あと前半の回想シーンにおいて、女性5人中1名が席を離れ中央で男1名と共に回想の様子を上演するのですが、回想シーンの前に言葉で説明しているので何で回想しているのかよく分かりません。おまけに回想中に他の4人が、思い思いの行動をとっています。ここの処理が全く意味が分かりません。まず、前後の繋がりから想像するに言葉で話す代わりに回想シーンを挟んだものと思われますが、非常に伝わりにくい。「それがさ…」などの台詞と共に回想に入ればわかるのですが、それがない。しかも予め何があったか説明してから回想シーンに入るので、それだったら最初から全部説明してしまえばよかったのではないかと感じてしまいます。(事前に起こったことを大体説明しているので)あそこで回想シーンを構成する必然性が分からないのです(画面に変化を付けるという演出上の必然性はわかるのですが、それはお客には関係のないことです)。
また回想中に、残りの4人が思い思いの動作をしている点もかなり疑問が残ります。話の主軸の外で性格付けされた人物がそれぞれの行動をするのは大切です。大切ですが、ここのシーンは回想です。しかも言葉で説明しているシーンに代えた回想です。回想シーンに入る寸前まで仲良く話を聞いていた4人が、回想シーンに入った途端に話も聞かず思い思いの行動を始め、回想シーンから戻るとすぐに回想シーン内の出来事に言及し興味深そうにわいわいと会話を続けることの不自然さが分かりますか? 結局残り4人は話を聞いてたのですか、聞いてなかったのですか? こんなことは演出がきちんと居ればすぐに気づけたはずです。
さて話の方ですが、茜と紫かな(記憶曖昧)が喧嘩して紫が出て行ってしまうのですが、そのあとで紫とその家族の回想シーンを挟みます。このシーンは、紫が実は結婚できないことを家族から言われ抑圧されていたという腹を立てた理由付けに相当するものなんですが、それがまた観客に対して真に伝わって来ません。むしろシーン自体が取って付けた感じがして、そこを端折って公園シーンに飛ばすか(そこで出せば済むでしょう)、それより前の雑談の中に伏線として折り込んだ方がいいように感じました(むしろ両方ですね)。
その他、5人がずっと出ずっぱりなので変化が乏しいのが気になりました。演劇という特性上、人の出入りはどうしても必要てす。お茶を汲みに行くのでも、トイレでも、遅刻しているでも、人の出入りがないのは寂しかったと思います。ラストのオチは、女の友情はハムより薄いということなんですが、その辺も押しがいまいち甘い。少し投げっぱなし感があり、オチとして完全に締めるか、この先を想像させるか、そういう含みがほしいと感じました。
【全体的に】
桐生南は何回も見ているだけに長文になってしまいましたが(しかもかなり辛口になってしまいましたが)、観てきた中では一番出来が良かったと思うし、面白かったには面白かったです(だから優秀賞をもらったのでしょう)。実際会場も結構笑っていましたし、あっというまに60分過ぎ去って魅入ってしまいました。でもさらに上を目指すならば、やっぱりこの辺はクリアしていかないとなあとも思います。
審査員の講評
【担当】小堀 重彦 先生- 32歳の独身女性5人。高校生には難しい役で、よく頑張っていたけどもう一歩というところ。32歳にしては少し元気すぎる感じがして、リアルな32歳というのはもっとけだるさみたいのがあると思う。あのテンションの高さで話す32歳は居ないよなーと感じて惜しかった。
- 酔っぱらったり、見合いした経験はないはずなのにがんばって演じていた。
- 全体的にはよく作ってあって、ダンスを使った暗転やブルー暗転など考えられていた。
- 音響は少しうるさすぎた。ちょっと耳障りかなと思った。
- 女の友情はハムより薄いという漫画ベースで脚色してある台本だけど、台本をよく読んで研究して演じていた。おつかれさまでした。