吾妻高校「珈琲的休息時間 -コーヒーブレイク-」

作:小澤亜香音(生徒創作)
演出:武井 とし恵

あらすじ・概要

自殺志願者サイトで連絡を取り合い、喫茶店に集まることにした、カラス、むつ、レイの3人は……。

感想

昨年に引き続き創作台本です。昨年の台本作者が、今年は演出をしているということで結構期待して観ました。

劇は、内幕の前で3人が集合場所を打ち合わせる場面から始まります。内幕が開き、喫茶店の舞台。左手と右手のパネルに古びた(汚れた)パネルが置かれ左手手前にカウンター、その中に店員(メイド)、右手にナナメに置かれた長テーブル。舞台右袖の奥がトイレという設定。古びた喫茶店だなーという印象でした。左右のパネルの間に空間があり、疑問を感じました(お店という室内空間らしさがその隙間によって台無しにされている)。どうやら理由があったようで、その隙間を後半で使っていました。ですが喫茶店の店内という「空間」を壊してまで隙間を作るのは気になります。隙間はやめて、舞台上下のどちらかに該当シーンを演じる場所を用意した方がよかったように感じます。どの高校も比較的そうなのですが、空間を作るということにもっと力を入れると装置が映えます。

カラス、むつ、レイの3人の格好を含めよく表現できたと思います。カラスのパンクっぽい尖った感じとか、レイの大人っぽさとか。メインである、カラスもむつも、トーンや台詞の間を意識的に変えて演じていました。緩める演技はまだまだ緩め方(力の抜き方)が弱くは感じましたが、全体的には良かったと思います。

カラスの演技はトゲっぽさに重点が置かれていたのですが、本当にそれだけで良いのかよく考えてほしいなと感じました。カラスはここに来てしまったことをどう感じていたのでしょうか。いよいよ死のうという状況を前に何を感じていたのでしょうか。むつに対してどう思っていたのでしょうか。妹に対してどう思っていたのでしょうか。心の動きを表現するということに気遣えばさらに良くなったと思います。これは、むつ役にも言えます。

前半で死に方について討論するシーン。BGMを付けているのがやや気になりました。コメディのノリだと言いたかったのだと思いますが、それはBGMで説明するものではないような感じます。あとむつが幽霊という伏線は、もう少し分かりやすく見せてよかったようにも感じました。

台本について

カラス役の人が台本作者のようです。単純な自殺志願者の集まりと思わせながら、いくつかトリックがあるという面白い台本だと思います。全般的に台詞も(不自然にならず)よく書けていたと思います。ただ最初の集合場所を決めるシーンはいらなかったんじゃないかな。

気になったのは、後半の独白がやや多めな点でした。講評でも指摘されていましたが、ラストシーンのように遠回しに表現する台詞や態度というのは、独白や直接的な状況説明よりも状況や心情をうまく説明します。非常に優れたものです。ほかの部分でもカラスという人物の心の動きをいかに観客に感じさせるか(説明するかでは決してない)に重点を置いて台詞や出来事を配置したらもっと良くなったんじゃないでしょうか。直接的な言葉は嘘っぽくなりがちですので、間接的表現を多用することを気を付けて。作者には十分その実力があると思います。

全体的に

荒削りな点はありますが、生徒創作で作られた演劇。かなり気合を入れて演じられていて、とても好感が持てました。やりたい劇を演じるというのは(コンクールで入賞することよりも)大切だと思います。

シリアスながら最後に希望が持てる良い演劇だったと思います。独白の多さを感じさせない演技力と見せ方は純粋にすごいと感じました。今後の活躍を期待しています。