大泉高校「お部屋探し」
演出:(表記なし)
あらすじ・概要
初夏、場所は大学生協。そこではこの時期になっても下宿部屋が決まらない3人の学生が。一人は大きな和太鼓を置く部屋がほしいという。もう一人コドモオオトカゲ(全長1m~3m)を飼いたいという。そこへ訪れたヨシダは、ほんの出来心で「みんなで一緒に住めばいい」と言うのだが。
感想
幕上がり、左手に扉のある白いパネル(高さ8尺)、水平になり右手までパネル(高さ6尺)。手抜きしないで8尺で統一してほしかった。左手に、壁に2方机にもう2方を囲まれたカウンターがありPCが置かれ、中に職員一人。中央のパネルにグリーンの掲示板、右手にスクール棚があり中に色とりどりのファイル。右手にホワイトボードで手前に机。ムードがよく出ていました。特にファイルが置かれていたのがそれっぽかったと思います。
ハイテンションでわいわいぎゃーぎゃーと部屋についてモメる3人と、それを無理矢理でもまとめようとするヨシダ。それを傍観者として完全に楽しんでいる職員。これらが織りなすハイテンションコメディが楽しくて楽しくて仕方ありませんでした。もう3人は早口で何言ってるか分からないぐらいなのですが(ほとんどの台詞はきちんと聞き取れる)、何言っているかわからないぐらいのテンションというリアルがありました。早回し(早口)と、それにヨシダが口を挟んで「場が止まる」(止め)の行き来かがものすごく上手く演じられていて、とっても面白かった。間(止め)の使い方が秀逸すぎるぐらい秀逸。最初のややポカーンという印象から、だんだんツボにハマリ、観客をグイグイと引き込んでいきます。
登場人物の服の色を意識して変えてあり、また(台詞上の)性格付けもしっかりしていて、やっていることはハチャメチャで。さあどうなるんだとなったところで一緒に住む話がボツになりそうになって、ヨシダが焦り初める。「なぜ、みんなで一緒に住もうと思ったのか」が語られ大団円。コメディーからシリアスへ流れて落ちる典型であり、うまくできていました。シリアスシーンでも「止め」がとても冴えていました。あの会場の静寂感は忘れられません。
気になったところ。ホワイトボードで、ホワイトボードに書くシーンがありますが、ぜんぜん見えません。赤字は特に見えませんでした。極太の水性マジックを使えばまだ見えると思うのですが(もしすでに使っていたらごめんなさい)。
全体的に
非常に面白い公演で入賞しないのが不思議なぐらいでした。同じように感じた人もたくさんいるんじゃないかな。上演時間1分オーバーしたように感じたので(たぶん)、それが入賞しなかった原因でしょうか。また脚本賞をとっても不思議じゃなかったと思います(「放課後~」の方がウケがいいのは分かりますが……)。
楽しんで演じられていることが非常によく伝わってきて、本当に良かったと思います。講評では、ヨシダの「一緒に住もうと思った理由」に前フリがないこと、理由の弱さが指摘されていました。残念ながら指摘は的を射ていて、たしかに納得はできませんし、それもあり上演後に「絶対入賞」とも思えなかった。しかしギャグものと考えれば今の劇は十分アリです。
本作を観て思い出したのは、2003年の県大会で上演された堅ゆでたまごの中へという演劇でした。ハードボイルドという設定で、事件解決(謎追究)をするのですが、全編がギャグでオチまでギャグという会場大爆笑の演劇で、優秀賞を取りました。最優秀賞ではなかった。本作の「お部屋探し」も全編ギャグものです。上演後にまず「とても面白かった」のですが、面白かった(笑った)という印象以上のものを残すことが難しいとも感じました。それが高校演劇関東大会という枠の中ではたまたま評価されなかったと考えると良いと思います。とってもよく出来ていたし、県大会を突破できなかったと落ち込む必要は何一つありません。たまたま評価されなかった、アンラッキーと思えばいい。上演は非常に面白かったし、完成度も完璧に近かった。個人的には最優秀賞です。自信をもっていい。
蛇足
たしかに高校演劇コンクールでは、高校生『らしさ』のある作品が受ける傾向にあります。ギャグでも良いのですが、何かしら主題が描かれたもの。それはたしかに物語構成として重要な要素です。オチに対する伏線の弱さを指摘する講評も理解はできます。ですが、本作は言ってみれば「とにかく面白く」を狙って作られたものであって、そこに最後落とすためのラストを付けたものです。なまじ、そこがシリアスな内容だったために伏線不足や取って付けたという点を指摘されたのだと思いますが、そこすらもギャグとして片付けてしまう(ぶっ飛ばしてしまう)という手はあったと思います。コンクールとして入賞するかは別問題になるでしょうが、少なくともオチが云々と言われることはないと思います。
それにしても、これはやっぱり台本が読みたいな。