新島学園高校「女将さんのバラード」

原案:安藤里紗(生徒)
作:大嶋昭彦(顧問創作)
※優秀賞(次点校)

あらすじ・概要

卒業式の夜。けいおん部の3人は居酒屋をやっている純子の家に謝恩会後の2次会として集まった。遅れてやってきたエリカは彼氏と別れるという。エリカは女将さん(純子の母)に元旦那(早川)とのなれそめや別れた理由を尋ね始めた。

感想

高さ8尺(6尺ではない)のパネルで囲まれた居酒屋。左手にカウンター中央左にテーブル、中央に入り口、右手にこたつ席。一番右にトイレ。壁にはビールのポスターやらメニューやらがあり、テーブルには箸やら小さいメニューやらが置かれ、ちょうちん、神棚、カレンダー等などすばらしく作り込まれた居酒屋の舞台装置。新島は部屋を作らせたら本当にうまい。

今年も生徒原案、顧問創作という好感の持てる構成。けいおん部とかの設定は生徒でしょうか。いつもながらに非常に完成度の高い台本で、創作脚本賞あげてもいいんじゃないかといつも思うのですが、完成度より着想の方が評価されるためたまにしか脚本賞にならない。

と脱線しましたが、話自体が面白いところに演技がまたすばらしく、とても面白く楽しめました。具体的には台詞に対するリアクションがきちんとできていて、そのリアクション自体に相手に対する気持ちや人物個々の性格がよく表れていました。3人のうち1人が早川を好いてない態度や距離をきちんと演じてたり。全体的によかったのですが、特にうまかったなあと思うのは最後の女将さんと早川(元夫)がぎこちなく会話するシーンで、言葉以上に視線や態度で会話してるんですよね。二人の距離も近すぎず遠すぎずちゃんと意味を持っている。人物距離感と心の距離感もよく考えられていて、静と動をきちんと明確に使い分けている。1行の台詞の中ですらも、トーンの変化、声の強弱、メリハリがきちんとなされていて、ゆるみの演技もきちんとできている。本当に隙がない。

演出面でよかったなと思ったのは女将さんが若い頃を回想するシーンでは声のトーンを変え、早川の髪型や髪の量をも年代を追うに連れ相応に変化させている。見落としがちな細かいところをきちんと配慮することで、大人や時間の流れを的確に表現していて、講評では否定的に言われていたけど若女将と考えれば別段不自然じゃなかったし、むしろとても自然に演じられていたと思います。光の明るさと心情をリンクさせていたところもうまい処理だと感じました。

非常に細かいことですが、缶ビールは底に穴を空けることで中身を空にしておくという処理がされていたため、序盤のシーンでは「空っぽな音」がしてしまったのが残念でした。ラストシーンではそれがなかったので、多分演者も気付いてると思いますが一応指摘。サイダーも空っぽさが少し出てしまったかな。ステージの制約でなければ水入れておいてもよかったように思います(そういう演出を好まないのは知ってますが(苦笑))。

これも細かいことですが、回想シーンでバーのマスターに麻生首相のかぶりものを被せたところはもう出オチで凄まじかったけど、その声を卒業生3人の中で当ててしまうという発想はうまかった。

上演時間が4分ぐらい余っていたので「笑い待ち」してもよかったんじゃないかと。ドッとうけているときに流してしまうと台詞は聞こえなくなってしまうし勿体ない。

全体的に

見事でした。「小難しい劇さえしなければ、新島敵なしか」と思ったものの、この上演で関東いけないのかと結果をきいて恐ろしくも感じました(詳しくは全体感想にて)。

面白かったし、ラストに至る流れも不自然なところはない(ラストを取って付けた感もない)。細部まで演出されていて、何が足りなかったかという逆思考を敢えてするなら、早川と女将さんの関係にエリカが尋ね始めるより前からスポットがあたって、「女将さんと早川の関係」が「エリカとその彼」の関係と対比され、もう少し目立って表現されていればなあというところか。大人と高校生のコントラストとか、近くて遠い存在という距離感とか、純子の父や母に対する気持ちの表現とか。

とはいえ、別に現状の流れでも(個人的には)不満ないんだよなあ。とても面白かった。

伊勢崎清明高校「くまむしくらぶ」

作:小野里康則(顧問/既成)
演出:入山あやめ
※優秀賞(関東大会へ)

あらすじ・概要

くまむし。絶対0度に耐え、放射能にも耐え、宇宙でも死なない史上最強の生物くまむし。そんな「くまむし」になりたいという啓太はなぜくまむしになりたいのだろうか。

2年前の県大会リベンジ上演と言えるかも。

感想

舞台中央暗幕で仕切られた隙間に置かれた装置。今回は風呂場と分かりました。手前が部屋でパントマイムでガラスがあることをちゃんと表現されている。この辺からして2年前とは見違える演劇。ただ細かいところだけど風呂場の装置の台座たるベニア台が向きだしで見えたのだけはマイナス。あれぐらい簡単に隠せるんだから隠してください(苦笑)

さて、本当に2年前とは見違える演劇で、仁兄貴をはじめとして動きによる演技オーバーリアクション(台詞のメリハリ)がものすごく意識されている。その一貫としてクマムシダンサーズ(パンフ表記)によるクマムシの体による表現。長年意味もなく踊る学校を多数観ていて辟易していますが、踊り動くことでクマムシを表現するというとても重要な役割を担当し、暗転回数が多めという台本の欠点をおなじくダンサーズをうまく使って「場転自体を見せる(見せ物にする)」ことで、劇が散漫になることを防いでいる。シナリオ上避けられない「くまむし」に対する説明セリフすらもクマムシダンサーズによる体表現で見せることに成功している。非常に秀逸な演出プランで、去年の上演と比べても見違える進化をしたと言えます。見事。

他にも、教室のシーンを椅子だけで表現し椅子の下にランドセルを置くという割り切った演出もうまかったし、ラストシーンで「くまむしが顕微鏡に寄った状態で啓太に手を振った場面」が大きな意味のある見事な演出だった。全体的に演出が非常によく仕事をしており、ひとつひとつ書ききれないぐらいです。それに応えた演者も見事。

褒めてばかりも何なので。動作やオーバーな演技をうまく活用していた割に、笑いを取るシーンで「止め」をあまり使ってなかったのが少し勿体なく感じました。ここ止めれば面白いのになあってところがいくつか。それと若干オーバーアクションが少々強すぎたかも。アクションを弱くしろと言ってるのではなく、シリアスシーンの仁・母・啓太をもっと弱く演出(ゆるんだ演技)したら全体を通してより印象がよくなったと思います。

全体的に

2年前に指摘したことがほぼクリアされ、姫川が際立たなくなったのは個人的には少々残念だけども劇としてはこれが正解ですし、KYの啓太ではじまりKYの啓太で終わっているし、BGMも適切に使われていて目立ちすぎることなく、困ったなあ。書くことがない(苦笑)

無理矢理突っ込むなら、啓太は姫川さんに振られたぐらいでクマムシ目指すなよってことでその説得力の薄さであり、啓太のKYに対する悩みがさほどリアルに感じられないことであるのだけど、子供の悩みってこんなものだしね。

演出がきちんと仕事していることがよくわかる上演でした。面白かった。関東大会での健闘を祈ります。