前橋南高校「箱式hollow」

作:原澤 毅一(顧問既成・「恐ろしい箱」より改題/細部改変らしい)
演出:須藤 瑞己

あらすじ・概要

突然エレベーターに閉じ込められてしまった5人。助けが来る様子もない。どうやったら外に出られるのだろうか。ざわざわと騒いでいるうちに便意を催した武田は閉じ込められたエレベーター内で……。暗転。するとなぜか木村がいなくなり、変なミュージシャンが2人入ってくる。なぜ? どうして? どうやって???

感想

中央部のみのサスで作られた空間。そこに正方形の敷物が置かれています。どうやら閉じ込められているらしい。ここがエレベーターの中というのは後の台詞で分かります。最初は密閉空間での人物交流なのですが、変なミュージシャンが入ってくる当たりからぐちゃぐちゃにしてしまう。よくこんな変哲な設定の台本を思いつくなと感心しました。

基本的にはこの密閉空間におけるドタバタ劇で、前橋南の実力を遺憾なく発揮し、間を充分に取った笑わせる演劇でした。間やメリハリの使い方がとてもうまく、力が入り過ぎない緩んだ演技がとても良くできている。他校はよく見習ったほうがいいと思います。変なミュージシャンが入るまでは、所々間の少ないところはありましたけど、その後はもうバカみたいなやり取りが繰り返され大ウケしてました。ほんとにバカですねー(褒め言葉)。そんな変な人達が増えてきても1人まともな武田が主人公なのですが、とても良い基準となっていました。変な人しか居ないと少しも面白くなくなりますからね。

終盤の火星移住ナンタラとネタバラシがされたとき、武田以外の人物が今どうしているか見せるシーンがありましたが、客席の位置によっては旅行代理店の人間が邪魔で後ろ(その後の人物たち)が見づらかったのでもう少し工夫してほしいところです。

全体的に

これだけの演技と完成度で入賞すらならなかったわけで何だろうなあと考えていましたが、こちらのブログで「『恐ろしさ』『不気味さ』に欠けていた」との指摘があり納得。講評でも指摘されていたのですが、結局何だかわからないという問題があります。ここ何年かの前橋南は理論的解釈を拒む上演だったわけですが、今年は解釈ができる上演になっています。

主人公の武田は意味もなくひどい目に遭わされて、結局最後までひどい目に遭わされて続けるのですが、解釈してみると結局だからどうしたのと。ラストシーンで武田のみを載せたエレベーターがどこかに到着して終わるのですが(それが何処であるかは示されない)、これを火星と思えば酷い話だし、元々乗っていたエレベーターの本来の行き先だと思うとギャグ話。もしくは夢オチみたいな感じ。投げっぱなしすぎ。

結局のところ投げっぱなし過ぎて、全体としてどこに焦点を当てた演劇であり物語なのかすらもわからなくなってしまっている。かといって解釈を拒むほどの(解釈しなくても良いと思わせるほどの)突き抜けた何かがあるわけでもない。「じゃあ何ですか?」という状態になってしまったということでしょう。ですから徹底的に不気味にするのは1つの戦略として正しい。

やや欠点があるものの完成度はとても高かったので、審査基準が違えば入賞していたと思います。