2009年度 群馬県大会
- 場所:安中市文化センター
- 日時:2009年11月14日(土)、15日(日)
- 審査員(敬称略)
- 村松 晴雄(俳優・日本工学院専門学校講師)
- 江原 慎太郎(群馬県立大泉高等学校 演劇部顧問)
- 奥田 雅子(群馬県立館林女子高等学校 演劇部顧問)
- 最優秀賞
- 【関東】新島学園高校「そうさく!」
- 優秀賞
- 創作脚本賞
舞台の上に箱が5つ。ここはレンタルビデオ店だろうか。中からでてきた人たちが、なぜか観ていたビデオの姿に変身していた。自分の本当の名前が思い出せない。これはどうなってるんだろう。そのうち1つから宇宙人がでてきて、その子のために子供に戻って親を捜そうとする。子供に戻るためのビデオテープを再生しているところに泥棒が入ってきて、子供たちに囲まれる泥棒。
そんなやりとりの中、これはビデオテープが人間に影響を及ぼして人間の心を支配する実験だということがあかされる。この実験はどうなってしまうのか、登場人物達はどうなってしまうのか。
舞台上には灰色の人が入れる大きな箱が5つおいてあります。シンプルですが箱は結構大きく、かなり作るのは大変だったようです。パンフレットによると総合芸術を目指しましたってことなのですが……。
細かいところから見ていくとBGMの音割れがひどかったり、演技があまり緩めてないのでお客さんが引き込めてなかったりとか、最初の伊達政宗やら魔法少女やらに変身したところの格好がいまいちしょぼかったり(特に伊達政宗は刀が。予算の都合もあるとは思いますが、おみやげもの程度のものは用意してほしかった)、ものすごくがんばって作っているんだけども、パンフレットの総合芸術ってところから考えるならばそれぞれに少しずつ難点があるなあという印象でした。
発声と早口が問題で一部の台詞が聞き取れなかったり、コメディ的なかけあいのシーンでは台詞と台詞の「間」の使い方がやや甘くいまいち笑いがとれなかったり(もっと時間をとって演じればちゃんとやる実力はあったように思います)、演技の台詞というより動作にメリハリがなく「ゆるゆる、ぬる~っとした動作」に感じたところがあったりというのも気になりました。メリハリというのは動きを意識的に止めたり、台詞のトーンを意識的に落とすことで生まれます。止めることで動作が目立つ、緩めることで強さが目立つ。参考までに。
これは何の物語なのかなと考えながら観劇していましたが、話はサイコホラーのようでした。昨年同様難解(奇怪?)な台本を丁寧に作り込んではいたのですが、それだけに残念で仕方ない。はっきり言って本が悪い。原案は生徒なのかなどうか分かりませんが、とにかく最初の着想(構想)に対して肉付けの段階で余計な要素が多すぎて作り込みで破綻している印象です。そして登場人物がみんなステレオタイプの薄っぺら。その人物に対して親近感を持ったり、広がりを持ってみさせるためのエピソードが何もない。例えば、挫けたり、頑張ったりというエピソードがない。感情移入しないからサイコホラーなのに怖くないし、面白みが半減してしまう。観客視点でのスポットの当て方、人物の立たせ方が台本としても演出としても考慮されないので、よく分からないものになってしまった。
去年もその傾向がありますが今年は輪をかけてひどく、執筆者の顧問の先生には申しわけないですがここを指摘しない訳にはいきません。もちろんダメダメなのではなくて、ある程度のクオリティは担保された台本であるのですが、着想の面白さを十分に生かせなかったのが勿体ないという印象です。どんな台本だって多かれ少なかれ欠点はあるのですけども、人物像のステレオタイプを演劇に翻訳する仮定で克服せよという課題なのだとしても、これはいくらなんでも難題すぎると思います。
演出の面で例をあげれば、途中で幻想的なBGMを鳴らして箱を動かしているシーンがあります。このシーンはたしかに幻想的で総合芸術っぽい感じです。ですが「そのシーンはこの物語りに必要か?」ということを部員自ら自問してほしかった。観客に対し、物語をより楽しむ上で何の効果を狙っていましたか? そういう配慮がない。よく意味もなく踊る学校がありますが(劇団キャラメルボックスの影響らしいですが)、何にせよそういうぽいものを何も考えず単純のはめ込むことは劇全体をクオリティを下げることはあっても上げることはありません。
以上辛口にはなってしまいましたが、舞台はものすごく真摯に作られていたし演技もがんばっていました。決して取り組み問題があった訳じゃないし、努力が足りなかったわけでもない。演技力が致命的に足りないとかそういうこともない。むしろレベルは高いほうです。箱に入って子供に戻るシーンでキャストを入れ替えてしまうなど(それも自然な形で)よく工夫もされている。そういう数え切れない努力がたくさんあって、舞台をよくしようという情熱が見える。だからそれだけに惜しくてたまらない。
演劇部の人が読んでいたら参考にしてほしいのですが、演劇というのは1に台本・2に演出です。顧問の先生のしかも2年連続創作脚本賞を取るような台本にNoを突きつける選択肢は生徒には存在しないかと思いますが、大渕先生の台本には「人物に深みがない」という高校演劇台本としては致命的欠陥があります。高校演劇と限定したのは、普通の劇団が上演するならば台本解釈と演出という過程を経てこの問題はクリアされるからです。演劇の原案として考えれば魅力的でも台本のとおり演じるとなると問題だらけ。拒否権発動が事実上無理な以上、よく台本を吟味し、アレンジして、どういう料理にするかぜひ検討してみてください。観客の前にどういう「舞台」という名の料理を提供するか、この料理は「観客からみたらどんな味になるか」ということにものすごく拘ってみるといいと思います。細かい舞台の作り込みというのは、まず「どういう料理を提供するか」決まってから考えた方がいいです。それだけで見違えるんじゃないかと思います。
演劇に対する姿勢や努力はとてもよく分かりますので、これからもがんばってください。
舞台は演劇部部室。創立60周年記念祭まで1週間。そこで上演する台本がまだ決まっていない。今日までに書いてくると言った顧問は風邪で失踪。上演内容の提出を求めてくる生徒会長と副会長。どうする、どうなる!? という状況で、大急ぎで台本を作っていく。演劇部員4人ドタバタコメディ。
舞台中央に対して2辺の壁を作り、右側に出入り口、左手側窓(そしてブラインド越しに奥の風景)、その他椅子・机・タンス・はしご・ポスターなどなど整理されつつもものがたくさんあるという部室のイメージを作っていました。新島は、この辺お手のものですね。いい味を出していたのが左手側のブラインドで、去っていく人影ややってくる人影、先に行った先輩を少し駆け足で追いかける後輩の姿などなど非常に効果的に使用していました。さすがです。こういう細かい作り込みのクオリティは毎度ながら感服させられます。
話は台本がない、じゃあ大急ぎで台本を作ろうというドタバタで、大きな伏線も壮大なテーマもありませんが、それがまた新島には合っているような気がします。コメディ的なかけあい(特に部員同士のかけあいの演技)を得意とし複雑な台本解釈が苦手な傾向がありますので、小難しくなくていいのではないかと。それだけに物語的なところがなく、終盤の「もう部活も終わりかあ~」みたいな部長の呟きで無理矢理にオチを付けた印象があり多少の物足りなさはあるかもしれません。
他校と比べると、役者全員の基礎的な演技力が高いことがよく分かります。比較的明るい人物像ならば、すっとそこに存在できる、すっと演じることができるのはさすがです。発声も非常によく(これも基礎訓練でしょう)、それでいて抜き(力を抜いた演技)ができている点は他の追従を許さないところです。そういう基礎的な努力の積み重ねがとても響くのだなあと改めて感じさせてもらいました。舞台や動きなどの作りこみもさすがのものです。
今回は特に「よく出来ていました」以上に感想が難しいです。良くも悪くも「新島ってこういう劇団だよね」という感じですから、あとは好みなんだと思います。4年連続の関東大会出場という県大会突破の常連ですが、だんだん他校の実力もあがっているので他校が骨のある本と演出で勝負してきたときには分からなくなりますね。安定感のある新島か荒削りでも骨のある舞台かとなりますので、基礎的な演技力で現在新島に勝る学校はないものの、物語解釈&演出力勝負となれば分からなくなってくるでしょう(もっとも、隙のない演出という意味では新島は凄まじいものがあります)。仮にそうなった場合、新島は(この路線だと)一昨年のような筋のある台本か爆発力で勝負するしかないはずですが、結局はその爆発力ってのは演出の力なのかなあとは感じます。以上完全に妄想ですが(汗)
とても安心して楽しめる演劇でした。よかった。
姉妹が二人で織り成す家族劇。すねて家の外にいる姉を妹が呼びにいくところからお話は始まります。家族の構成や環境が変化していく中、姉妹の間にも微妙な気持ちの変化が起こります。
キャストが妹と姉の2人だけで構成される舞台です。中村勉氏作ということで他作同様、比較的難しい台本なのですが、それが非常によく演じられていました。舞台上には左手に木製のベンチ、中央に木のオブジェ、右手に家と壁と扉。「家」と「その庭」ということなのですが若干公園ぽかったかなあ。もう少し工夫の余地はあるかもしれません。
最初声が弱々しく基礎的な発声の力は弱いようですが、途中からは役者が乗ってきて少し聞き取りやすくなりました。全体的に抑えた演技となり作品にとてもよくマッチしていました。ただ、そればかりだったのが勿体無かった。発生も演技も。別に元気に騒ぐシーンがあっても作品のムードを壊さず、それどころか元気なところもきちんと見えるとしんみりがより引き立つのです。例えば、中盤の二人がじゃれ合う(おいかける)シーンで手加減が見えたのがもったいなかった。全力で走れという意味ではなくて、わざと空振りしたりする必要はなかったのではないかということです。もっと元気に、力いっぱい追いかけっこをしてほしかった。台詞なら「制服いいよね。聖和」とか元気に言ってよかったと思います。
台詞や動作のメリハリのほかに、もう一つ気を使ってほしかったのは「間」。上演時間約50分というところからも分かると思うのですが、この作品の場合、もっと台詞をゆっくり話していいし、台詞と台詞の「間」はもっともっと気を使って欲しかった。さらに言えば、動きも大切にできたらよかったと思います。ほとんど動かず話をするってのはやっぱり勿体無い。
また2つ勿体なかったところがあります。1つはラストシーン。話が終わってから、一度暗転しエンドシーンとなっていましたが、暗転したせいで気持ちが途切れてしまいました。そこの暗転は絶対やめてほしい。ラストシーンは物語全体の余韻を残す一番重要なところなのですから、暗転しなくてもいくらでも見せようはあるはずです。ラストシーンの選曲も講評で指摘されていましたが、それを工夫してほしかった。もう1つは木のオブジェ。作品全体を貫く大切な大道具なのですから、木の部分をもう少しどうにかしてほしい(申しわけないけどしょぼい)。また青々とした木が本当にこの作品に合っているのかということももう一度考えてみてもいいと思います(考えた結果青々として木であったなら問題はありません)。
あとBGMがうるさくなく、主張しすぎず、また使いすぎることもなく良いムードを引き立てていたと思います。
抑えたトーンでしんみりとしたムードをとてもよく意識して演じ手いたことに大変好感を持ちました。過去県内で観てきた中村勉氏の台本の舞台の中では一番の完成度といっても良いと思います。本当によくここまで台本を読み込みその意図を理解したと感激しました。県内の学校は、そういうこと(台本を読み込み・理解し・解釈し・自分たちのオリジナルとして構成し・演じること)がとても苦手な傾向がありますので、その点を高く評価したい。
あとは、台本自体そういうものだから仕方ない面もありますが、中盤にどしてもたるみがでてしまいます(客席をみていると寝てた人もいた)。変なアレンジをするというよりは、動作を含めた完成度を高め引き込むしかないかもしれません。メリハリ(強弱)を少し意識して出してみるだけでも印象は違うと思う。
個人的に関東行ってほしいなあと思ったのですが、今年はハイレベルな戦いで入賞もなりませんでした。たしかに演技技術等では他校に負けていますから仕方ないのかもしれませんが残念です。しかし、誰がなんと言おうといい演劇でしたよ。
生徒会主催の部活予算会議に集められた6人の部長と生徒会長(かつ手芸部部長)。私たちは、教員たちが決定した削られ続ける部活予算をただ承認するだけなのか。それとも全会一致で拒否権を発動して、部活予算を作り直すことができるのか。各部長たちとのの駆け引きと議論が進み…。
パンフレットにも書かれていますが、高校演劇界では有名な台本です。私は初めてみましたけど。
左手側に移動式の黒板が置かれ、議長席として机と椅子、そこに生徒会長。中央から右手にかけて6脚のパイプ椅子がずらっとならび、全部で7人の部長が集まったという舞台風景。元台本は女子7人らしいですが、男子6人+女子1人という非常に勢いと元気のある舞台になっています。
声やテンションは高くてわいわいがやがやすごく良いんだけど、間がないからあんまり笑いにつながらない。特に前半。後半はきちんと間が取れていたので、緊張があったのかなあと思いますが少し勿体なかった。元々の台本が面白いから、もっと笑いがとれるはずなのです。また見ていていまいち分かりにくかったのは会話のがやがやが整理されてなかったからでしょう。ものすごくリアル志向の演技で、よくぞここまで研究したという褒め称えるぐらいワイワイなんだけども、舞台としてみせるには少し問題がありました。がやがやしすぎてよく分からないことです。
台本はコメディなので、そういうリアルよりも少しだけオーバーに演じる必要があります。もちろんリアルを取り去ってはまずいのだけども、リアルでありながらもオーバーな部分を作ってあげて、同時に少し弱める部分を作ってあげるとグッと全体が引き立ちます。何をどうしてと具体的に書くよりは、参考意見を言ってくれる観客か演出を立ててその前で一度演じてみてください。それが早道です。観客の視点からの作り込みが欠けたのが最大の問題で、あの演技の勢いですからそれがあれば会場を大爆笑させることができたでしょう。
観客視点といえばBGMが非常にうざったかった。ほとんど要らない。BGMをあれだけ多用することは「BGMに頼らないとムードが出せません」と敗北宣言しているようなものなのですが、実際の舞台はBGMなんていらないぐらい面白い。だからものすごく邪魔でしょうがなかった。
後半はコメディの止めを使ってうまく笑いをとっていましたが、コメディ以外の台詞と台詞の間も注意してほしかったなと思います。あとは上にも書いたけどゆるむ演技、トーンの弱い演技を所々に入れてあげるとよかったでしょう。意識的に弱めた場所をみせることで、ワイワイはもっと引き立つのです。
元気いっぱいに作っていたのはすごくよかったし面白かったのんだけども、観客視点を忘れずにそれをさらに発展させるような工夫をするとより上を目指せるかと思います。それはともあれ、あそこまで力一杯演じている姿はやっぱり清々しく好感を持ちました。