松本県ケ丘高校「遠藤周作「深い河」より」

  • 原作:遠藤周作
  • 脚色:日下部英司(顧問創作)

妻の余命宣告を受ける男。妻の死後から3年、妻の生まれ変わりを求めて男はインドへと旅立った。

良かった点

  • 照明を効果的に使い、抽象的でダークな舞台をきちんと作り上げていた。
  • 開幕の動作を合わせるシーンの動きが見事にそろっていた。
  • 小道具としての椅子が効果的に使われていた。
  • おじいさんや病気の妻など、動作による演技がとても良かった。

気になった点

  • 抽象劇ということを差し置いても、病院の個室の出入り口がバラバラなのは気になる。例え抽象的だとしても、病室であるその瞬間はリアルであるわけで、(銀杏の木以外は)きちんと1つの出入り口から出入りすべきでは。
  • 場面転換は一瞬だとしても照明を落としても(多少暗くしても)よかったのではないでしょうか。

いろいろ

この手の劇は苦手なのですが、それでも率直な感想を述べたいと思います。

序盤と河に入るシーンで、「動きを合わせる演出」の動きを合わせる意図がよくわかりません。動きを合わせることを見せたかったのはわかりますが、それでも何がしたいんだろうという疑問が残ってしまいました。

そして不条理劇としての男のむなしさが際立って表現されていたのかなと考えると、やや疑問が残ります。意味ありげな元ボランティアの女性の背景を中途半端に描いていたのですが、それ必要だったのでしょうか。主軸がぶれてしまった印象もあるので、もう少し男のフォーカスしても良かったのではないだろうか……とか色々考えましたが、まあ難しいですね。

基礎演技力が高く、演出も終始安定していて、安心して楽しめました。

twitter等でみかけた感想へのリンク

県立前橋高校「ON AIR」

  • 作:古澤 春一(既成)→台本はこちら
  • 翻案:群馬県立前橋高等学校演劇部
  • 演出:加藤 奏汰
  • 最優秀賞(関東大会へ)

あらすじ・概要

あおぞら高校文化祭にて放送される校内放送「あおぞらラジオ」。しかしその放送にはとある秘密があった。

感想

舞台上にはラジオの放送卓と、卓上の小型ミキサーやペットボトル(水)などが置かれ、ひと目で放送ブースとわかります。その中で進行する一人芝居になります。台本とは高校名とか主人公の名前とか変えて、ラジオドラマやはがきなどかなり脚色されているようです。

この役者さんが発声がよくFMラジオチックな魅力のある男の一人喋りを聞かせてくれます。聞いているだけでも心地よい不思議な時間が流れます。途中のラジオドラマシーンなどでは3人分の登場人物を即座に演じ分け、それでまた違和感なく進行します。とても素晴らしいです。

迷いがなく滞りもなく、立板に流れに水のごとく流暢に喋りと舞台が進行し、この演劇はどこに行くんだろう?と思わせてくれます。途中のラジオドラマでは完全に笑いを取り、観客の心を掴みます。さすがの最優秀賞です……と終われればよかったのですが(苦笑)


文化祭の生放送ラジオという建前で進行しているため、見ていてものすごい違和感を覚えます。

  1. 放送中にサブブース(放送スタッフ)とやり取りしている様子が全くない。
  2. はがきを、淀みなく流暢に読み続ける。
  3. 進行表(タイムテーブル)を確認している様子も、時計を確認している様子もない。

このうち1番目は問題ありません。実際には一人でやっている録音というオチにつながるので、この違和感は正常です。

しかし問題は2番目、3番目です。実際に10分でもいいので、どんなに準備しても良いので「生放送ラジオ」(無編集本番)というものをやってみると分かるのですが、一度も「えーっと」みたいにならず進行することなど不可能です。それは実際のラジオの生放送(一人喋り)を聞いてみればすぐに分かることですが、次のはがきを探したり、次の進行を一瞬考える「間」だったり、時計や進行表を確認して時間配分をどうするかという「迷い」があります。

はがき等は、字のうまい下手もあり簡単に読めないこともありますし、フォーマットが決まっているわけではないので、ラジオネームを書く場所も人によってバラバラです。裏側にラジオネームを書く人も入れば、表側に書く人もいますし、そもそもラジオネームを書かない人も居ます。このようなラジオネームを探す「間」なんて、実際のラジオを聞いていれば飽きるほど見かけるシーンです。

しかもこれらの「間」はプロが行って、サブに数人のスタッフがいる状態でも起きます。放送部員とはいえ素人がサブのスタッフが居ない状態で行って「間」が発生しないことはあり得ません

つまり「本当に放送している」というリアリティがまるでないのです。これがこの演劇の最大の問題点です。*1

リアリティの欠如は以下の点でも見られます。

  • 卓上で操作してないのに、SEやBGMがタイミング良く鳴っている。*2
  • ラジオドラマの効果音が、ラジオドラマの効果音の付け方ではなく演劇の効果音の付け方になっている。*3

上演を見ているだけで、とても練習されて、いっぱいいっぱい努力されているのはよく分かるんです。それは本当によく分かるのですが「練習して練習して練習して、もう全部、台本の最初から最後まで頭に入った状態で、一度それをすべて忘れてリアクションをする(初めて経験したことだと見せる)」という、演劇の基本要素をクリアできていないことも悲しいながらまた事実です。ラジオ生本番というのもは、完全に練習されて流れるように演じてしまってはいけないのです。

「一言一句すべての台本が用意されたラジオ放送であり、主人公は並々ならぬ情熱でそれをすべて頭に入れた」

という反論が成り立つかどうか。それは、その意見を(多数の)観客が「妥当だ」と判断できるかどうかで考えると良いです。個人的意見としては「そんなものはラジオ放送とは言わないし、それを納得させる説得力は舞台になかった」と思います。

関東大会前に本物の生放送ラジオやラジオドラマをよくよく研究されることを切に願います。


色々述べてしまいましたが、一人舞台という難しいものに挑戦し、それを見事に演じきり、ものすごい量の練習を重ね、滞りのない舞台を完成させたことはすばらしいと思います。ちゃんと笑えたり、観客を楽しませたりする劇を上演するというのは簡単なことではありません。上演おつかれさまでした。

*1 : 今年の審査基準は「舞台上で本当に起こっていると感じられたか」だそうですが、その基準でこの高校を最優秀賞に選んだ審査員の感覚は甚だ疑問です。

*2 : 設定上は存在しないサブのスタッフが仮に居るとしても、きっかけ合わせをしている様子がまるでない

*3 : おそらく、まともにラジオドラマを聞いて研究するということを行っていない。

県立前橋高校「マルス・プメラ ~小さな島の不思議な実の物語~」

  • 作:星野 孝雄(既成)*1
  • 潤色:前橋高校演劇部
  • 演出:養田 陸矢
  • 優秀賞(関東大会へ)

*1 : 劇団の人らしいのですが情報捜索中。県内の劇団や現在は高校演劇に関わっていらっしゃる方で、今回の台本は書きおろしだそうです。情報提供ありがとうございます。

あらすじ・概要

隣り合う2つの国、その国境付近にある小さな島です。その島には、南北に国境線が引かれていて、東西をそれぞれの国が治めていました。しかし最近、国境付近の海域から永久に尽きないエネルギー資源が発見されたことにより両国は戦争状態になります。

この物語は、そのエネルギー資源をめぐり、両国からひとりずつこの島に青年兵士が派遣されるところから始まります。

感想

上のあらすじですが、上演の最初に説明されるあらすじの抜粋です。「えっそんな、いきなり説明台詞導入ですか」と少々びっくり。説明役による舞台進行はあんまり良い印象がなかったのですが……。

舞台中央に、一番手前まで黒いテープが貼られ国境線になっています。中央に桟橋があり、奥が海らしくホリで青く表現されています。砂浜という設定らしい。上手と下手に旗があり、箱などちょっとした小道具があるだけです。簡素なんです。SEで波音が少し聞こえてるだけ。でも幕が上がるとそこが砂浜に見えてくるんです

男子校で、しかも7人しか部員の居ない部活の上演です。スタッフも全部含めて7人です。装置にだってお金も時間(人員)もそんなに割けなかったはずで、そんな限られた条件の中で工夫して、きちんと砂浜を(演技による力を含めて)海辺を説得力を持って作ってきた。素晴らしいとしか言いようがない。

銃を持って向かい合う二人の兵士。もうこの二人の演技力がすごい。すごすぎる。

  • リアクションがとても上手い。相手に対する反応がきちんとできていて非の打ち所がない。
  • 動きを合わせるところでは本当に綺麗に動きがあっている。
  • それでいて間の使い方もよくわかっていて、台本の面白さをちゃんと笑いにできている。

その辺の小劇団でもこのレベルの上演は少ない。2日目の上演まだ見てないけど、もうこれが最優秀賞じゃないの?(笑)

国境線は絶対に踏み越えない。踏み越えないのに、その上で手を交わして交流する。銃を向け合うこともありながら互いに交流する。でも国境線は踏み越えない。二人の人物がどんなに気持ちを近づけようとも、どんなに二人の距離が近づこうとも、国境線は踏み越えない。それが、この二人にとって国境線がどんな意味を持つのかってことをこれでもかというほどに観客に訴えるのです。

またこの上演では歌を歌うシーンがあります。数々の無駄に歌い踊る上演を見てきましたが、この舞台ではが本当に素敵に美しく使われていて、しかもみんな歌が上手い。あーもう演技でこれだけのもの見せて、歌シーンもこんなに魅力的なんてずるいよ(苦笑)

主役の2人だけじゃなくて、他の役者も本当に適切で上手かった。


めずらしく絶賛になってしまいましたが、ひとつだけ気になったことがありました。それは銃の扱いです。2人とも同じ機関銃を使っていましたが、機関銃って10kgぐらいあるんです。あんなに軽そうに持ってはいけません。中に重りを入れるといいと思います。

本当に面白い上演でした。楽しかった、もう一度見たい。

明和県央高校「アネモネ」

作:小笠原 梢(既成)
潤色:明和県央高校演劇部
演出:橋川 結衣

あらすじ・概要

盲腸で入院している奈美と、見舞いに行く友人達の織りなす物語。

感想

最初ちょっと台詞が聞き取りにくいかなと思いましたが、後半は乗ってきたようでよくなってきました。ただセリフ回しが全体的に早めでリアクションが取れてない印象です。他校にも言えますが、人物がややステレオタイプかなと感じました。声を作りすぎに感じた人物も複数居ました。

声のテンションがほぼ一定で、立板に水のようにさらさらと流れるのであれあれあれ?と置いて行かれそうになります。全体的にセリフ量が多いかもしれません。ラストシーンの花ですが、退院を知らないのになんで持ってきてたんだろう?と思ってしまいました。

県大会初出場ということで、これからも頑張ってほしいなと思います。