前橋南高校「コックと窓ふきとねこのいない時間」
脚本:佃 典彦
演出:(表記なし)
あらすじと概要
猫のビッシースミスお抱えのコックと、もともと部屋の所有者である女と、その様子を眺める窓ふき。そんな3人が繰り広げるやりとりの中で……
主観的感想
県大会のときは間が若干早かったのですが、それが修正させ絶妙の台詞の掛け合いがなされていました。台詞のかぶせもよかったです。もう見事という感じで、ちょっとしたことでも場内に爆笑が起きる。そんな「変なムード」が会場中を支配した、本当に面白い上演でした。
みんな口を揃えてコックがうまいなーと言ってましたけど、女も良かったですよ。窓ふきはやはりちょっと弱いですけど。もっとズルく演じていいと思います。女ですけどやっぱり着替えるのですね……部屋着に。どうでもいいといえばいいのかもしれませんけど、若干なんだかなーと。女役はやっぱり登場時、それは女装ですからクスクスと笑いが起こりそうになったりして(真面目な役なので笑いが起こってはマズい)、南関東大会の桐蔭学園のそれは笑いひとつ起きませんでしたからね。無理な話ですが逆ならどうだったろうとか考えてしまったり(脱線)。
さて本当に見事としか言えない上演だったのですが、入賞ならず。曰く「ヤマがない」という意見もありまして、ネットで調べてみたらこんな意見を見かけました(以下リンク先より引用)。
ただ佃典彦の戯曲はよほどうまくやってようやくそこはかとない感動を浮かばせる、難しい芝居で、正直高校生(や大学生)の上演で面白いと思ったことがあまりない。別役実にも通じるシュールさは年輪を重ねるともっとよく描けるものだろう。
この劇は何が足りなかったのでしょうか。今回見ていて1つだけ気になったことがありまして。ラストシーンでビッシースミスさまがあたかも居るように振る舞うコックの姿を見て「そこにビッシースミスが居る」とは感じなかったんですよね。県大会のときは猫の姿が見えた(居るように感じられた)気がしたんですが、それがない。講評も踏まえよくよく考えてみると、コックのビッシースミスに対する「愛」みたいなものが、関東大会の上演ではさほど感じられなかった。女のコックに対する「愛」も描かれていない。
この作品はおそらく「女が猫に負ける物語」(コックに振られる物語)なのです。台詞の裏に潜む心、この愛というものが表現出来なかった、または(演者・演出に)理解されてなかったことにより、面白いんだけどそれだけとなってしまったのだと思います。非常に残念ですが、やはりそこが致命的だったのでしょう。
細かい点
- 暗転時、ブライドの奥の青ライトが尽きっぱなしのことがあり、非常に気になりました。
- 電話の音は、できれば電話の近くで鳴らしてほしいです。
審査員の講評
【担当】土屋 智宏 さん- この学校は、部員がいなかったところから3人集めて関東大会に来たところがすでに物語。
- コックはいい声をしていた。天性のものだと思う。
- 高校演劇では脚本選びで80%決まってしまう(編注:それ以上は述べなかったけど選択ミス(難しすぎた)と言いたかったのかもしれません)。
- テーマの掘り下げが不足した。愛の想出、そして失われた猫という存在。
- 舞台装置を手前に持ってきて狭い空間を作り、配置もよく考えられていた。
- 猫のトイレはもっとゴージャスなのではないか?
- 役者3人ともとてもステキでした。面白かった。