新潟高校「夏芙蓉」
脚本:越智 優
潤色:新潟高校 演劇部
演出:岸 なつみ
あらすじと概要
卒業式のあと、夜中の教室。千鶴は、みんなを待っていた。やってくる友人達、舞子、サエ、玉井。何か話したいことがあり気なのに、何も言おうとしてない千鶴。そんな千鶴をよそに、わいわいと夜中の教室で騒ぎ始める3人たち。やがて千鶴もそこに加わって……。
検索してみると、中学・高校演劇において比較的よく扱われる脚本のようです。
主観的感想
終始真面目なお話作りなのですが、演技がなあ……という印象でした。友人達が和んで楽しんでるという印象がないんですよね。淡々と台詞を交換しているという感じにしか映りませんでした。特に秩父農工の演技を同じ日にみただけに、その差を歴然と感じてしまうというか。もっとオーバーにやっていいし、声からも楽しんでる様子が出ているとよかったと思うのですが……。例えば、普通に考えて友人同士が集まったら机をくっつけて話とか、椅子を近くに持ってきてとかあると思うんですが、そういう自分が友人達と話しているときに置き換えるとか昼休みの教室を観察するとか、とても単純なことだけど大切なことを見落としているように感じました。
舞台装置ですが、教室を横に見立てた作りで右手側に黒板なのは分かるのですが、向かって正面が一面の白壁。教室として通常は廊下側なら出入り口が、窓側なら窓があると思うのですが。出入りは向かって左側から行っていたのですか、いっそのこと壁すらなく演技で「あたかもあるように」みせてしまっても良いわけでしたし、どうにかならなかったのかと感じました。またラストシーンで白い花が花瓶に挿されていたのですが、そのもっとも象徴的な構図の真後ろに白衣に白セーターを着た先生が立つため花がぼやけるというのは失敗だと思います。そもそも白衣を着せたこと自体が安易だと思います(先生と記号的に見せたかったのでしょうが)。
劇を見ていると、千鶴がずっと何か思い詰めたかのような感じで進み、3人が「実は幽霊でした」という話の展開が起こるまで実に45分。そこに至るまで動きも本当に少なく、正直なところ見ていて飽きてきます。そのシーンに至るまでにいかに楽しそうに、そして観客を引きつけておくかが勝負なのですから、そういう演出的配慮がほしかったところ。あと基本的には、フリのような素振りをみせれば見せるほど、その量だけドンでん返しを観客は期待します。実は幽霊でしたでは納得しないんですよ、あれだけ意味深に振ってしまうとね。
すごく真面目に丁寧に作り込んできているだけに「勿体ないなあ」とひたすら感じた劇でした。次は「全体の演出」を念頭に頑張ってください。
審査員の講評
【担当】若杉- ストーリーをとっても大事に作ってありいい芝居だった。
- 千鶴が最初から何もかも分かりすぎちゃっていて、おきゃにも思わせぶりな態度をみせるからオチが最初から見えてしまっている。みんなが出てきてかられ千鶴が一人何もかも分かっている感じで、みんなが出てきたら一緒になってはしゃぐとか、幽霊だってことを忘れて楽しんじゃうとか、そういう生きた千鶴という姿を見たかった。
- 幽霊である3人の女子も、もっと騒いじゃっていいんじゃないかな。18年の楽しさがスパークして輝いて、それに乗せられ千鶴もはしゃげばもっとラストが劇的になったと思う。
- 千鶴が最初から「人は必ず死ぬんだ」と悟っているのではなく、あの時間を通して千鶴が「人は必ず死ぬんだ」と感じるのではまったく違う。テーマに縛られすぎて逆に足下を掬われたという感じがした。