三条東高校「例えばジャニスのソウルフルナンバー」

脚本:大島 昭彦
演出:藤石 愛巳
※優秀賞(全国フェスティバル)

あらすじと概要

夢の世界と現実の世界と。夢の世界にいるもう一人の僕。そんな抽象的なイメージの中で現実と夢を行き来しながら描かれるものは。

主観的感想

非常に難しい抽象劇です。夢の中の僕と現実の僕。現実のフラストレーションが夢に昇華され、夢での出来事がまた現実に跳ね返る。主人公(高校生?)の日々の思いのかけらを拾い上げ描いていく作品なんだと思います。夢の中で工事現場監督かと思えば、学校の先生だったり、クラスメイトの(武者小路)祐子と親しくなったと思ったら夢だったり……。

優秀賞(フェスティバル)とのことですが、残念ながらとてもそうは感じられませんでした。全体に早口であり、間が悪く、テンポが一定でメリハリがない。リアクション(動作)もメリハリがない。そういう演技の基本や細かい嘘をきちんと積み上げてこそ、夢とも現実ともおぼつかない独特の空間にリアリティ(というと変ですが説得力とでもいいましょうか)が生まれるのですが、そこがないがしろにされ、劇空間としての成立が失敗したのではないかと思います。

台本を解釈なく(または解釈不足で)演じたという印象が非常に強く、台詞が役者を置いてきぼりにして一人歩きし、テーマを描ききれなかったという印象がぬぐえません。真に迫らないんですよね。主人公の「僕」が最初と最後で変わったんだということを、僕の内面として魅せてほしかったと思います。

細かい点

  • 演技力にかなりの疑問を感じます。間などはそうなのてすが、「うわぁ…、なんで武者小路さんがここにいるわけ」「花火大会の日に街の巡回なんてつまわらいわね」など、説明台詞をやや棒読みした感じがあり、台詞を書き換えたり内面から言葉を発するという努力が不足した印象があります。気持ちで演じてください。その言葉はどういう心の動きから出でいるのか考えることを、もっともっと大切にしてください(詳しくは資料室を参照してください)。
  • 主人公僕と祐子が会話しているシーンを、他のクラスメイトが覗き見するというシーンがあるのですが、主人公と祐子が親しく会話しているという感じにはどうにも見えません。ほとんど動きなく向き合って楽しい会話なんて現実にはあまりありません(向き合うというのは、基本として敵対の関係です)。親しく話すということをなんとなくで演じてませんか? 自分が親しく談笑するときどんな感じですか? あのシーンで実際に心の中で言葉を交わしてみましたか? 言葉を交わしてみてから、その言葉を(舞台上で)省略するというプロセスを取りましたか?
  • 最後の方で主人公僕と祐子のキスシーンがあるんですが、まるきり嘘です。キスに至るということは、本当に好きになった結果でなければならないのです。役作りというのは、役の中で相手を好きになることから始まります。ドラマで共演した男女が現実でも恋愛してしまうのは、ドラマの中で本当に好きになる(という役作りをする)ので、それが現実に影響して恋愛してしまうのです。役をきちんと作るということは、こういう内面を作ることを意味します。厳しいかも知れませんが、少なくとも舞台の上に居るときは本当に好きにならなければいけないのですよ。
  • 工事現場のSEが舞台にマッチしておらず説明的でうるさい印象を受けました。電車のSEもしつこかったように思います。

審査員の講評

【担当】オーハシヨースケ さん
  • ソウルメイキング(河合隼雄の言葉)ドラマだったと思う。魂にまつわる物語を現代人は失っているというが、まさに神話(個人の神話?)についての話(編注:記憶曖昧)。
  • ひとつひとつの言葉を味わうということをよくやっていたと思う。
  • 本音と建て前、現実と非現実をうまく演じ分けていた。
  • ジャニスジャップリンの歌が途中で終わってしまって、もっと聞いていたかった。
  • 舞台装置は左右のバランスを考えて使うともっとよかったと思う。やや右に寄っていた。

作新学院高校「ナユタ」

脚本:大垣ヤスシ(顧問創作)
演出:森本 浩予
※優秀賞、創作脚本賞

あらすじと概要

おじいちゃんとお父さん、姉と弟の4人家族。ある日突然、お父さんが再婚相手(候補)を連れてくるという。なんと現れたのは、ベトナム人のナユタという女の子。大反対する姉だったが……。

主観的感想

講評でも触れられていましたが、おじいちゃんが非常に美味しいキャラであり爆笑を誘っていました。笑いでお客を掴みつつ、再婚とそれに反対する姉、だんだんと家族に受け居られる素直なナユタという存在が非常に丁寧に描かれていました。ベタな話構成ではありますが、大変面白い演劇だったと思います。

幕が開いてざっと散らかった部屋(居間)がよく作り込まれており、それを暗転せず、片づけるシーンとして黒子を登場させコメディ仕立てに部屋を綺麗にさせたあたりの処理はすばらしかった。途中、ナユタとおじいちゃん、姉「みか」とナユタが将棋で戦うシーンがあるのですが、いい加減に動かすのではなく棋譜を覚えた上できちんとコマを動かし会話を重ねていました。こういう細かい細かい演劇的な嘘の積み重ねがあってこその、非常にアットホームで完成度の高い芝居を成立させていたと思います。

しかし、難点をあげるとすればやはりラストに係る処理です。結局物語りの争点はナユタを拒否する姉と他大勢という構図に落ち着くわけですが、姉「みか」が終盤に向けて早々にナユタを受け入れに傾くため、物語の軸が飛んでしまいます。そこに突然登場するおばさんによるナユタの過去の暴露という状況になるわけですが、(オバさんが初登場であることもあり)取って付けた感は否めません。

またこのシーンになると、ベトナム戦争の話、娼婦だった話などが出てくるのですが、ナユタというこの劇には大きすぎる要素だった気もします。話を展開させるために、やや安易に使った感じがあり、このシーン付近でのお父さんの「ナユタを愛してる」という台詞も実感がまるでこもっていません(それは演技もありますが、それ以前に台本内で描写され演出されてないからです)。同様に、その後の夜の公園(?)シーンでの父の独白が説得力をあまり感じられず、全体として面白かったけど結局なんの話だったの? という印象は拭えないと思います。あくまでナユタを含めた家族の物語として、ベトナム戦争ほど大層な言葉を安易に使わず処理されたなら、また違った印象を受けたかもしれません。

ナユタの外国人っぽさ(演技もメイクも上手かった)を含め、そのキャラクターが強く印象に残った演劇であり、色々書きましたが十分に面白かったと思います。

細かい点

  • 劇中で隣の部屋のテレビの音が鳴るシーンがあり、この音がまたよくリアルに作ってある(実際にとなりの部屋=袖でならしている)。
  • 暗転時は健太(弟)のナレーションで劇が進行するのだけど、もう少し語り口調に味(おちつきとか)があってよかったと思う。
  • ナユタの過去の出来事回想シーンのとき、(その前のシーンで勝負に使った)将棋盤が出っぱなしというのは気になった。欲を言えば小道具なども回想ごとに少しずらしていたらよかったかな。

審査員の講評

【担当】安田 夏望 さん
  • とても良かった。
  • 書く登場人物の個性がよく出ていて、特におじいちゃんが良かった。
  • 動きとか間とか早回しとかとてもよく出来ていていた。
  • ナユタによって空いた心の穴を埋めていった物語だと思う。
  • 見せ転換で将棋を真っ先に片づけていたけど、あれはあえて最後に残すことで余韻を出してもよかったのでは。
  • 最後の襲われるシーンでナユタが姉を助けるのだけど、ナユタが切られた方が衝撃的でよかったのでは。
  • 部員みんながよく協力し舞台を作っていたと思う。

新潟中央高校「全校ワックス」

脚本:中村 勉
演出:斉藤志穂美

あらすじと概要

校内をワックスがけすると集められた5人の生徒。互いに会話をしながら……。

主観的感想

2006年に甲府昭和高校が全国大会で上演した台本みたいです(昨年度南関東突破作品ということ)。

大変申し訳ありませんが、旅の疲れが出たこともあり途中で寝てしまい、全体について何か述べることはできません。細かい点のみ記述したいと思います。

細かい点

  • 最初のチャイムがフルサイズで流れるのだけども、長いので半分サイズでよいと思う。
  • 全体に間延びしたムードの劇で、オーバーなシーン、例えばブリっ子キャラがおちゃらけるシーンとか、そういうところはオーバーに演じていいと思う。若干恥ずかしさが感じられた。
  • ほうきがけ、雑巾がけがいい加減で、もちろんリアルな高校生という意味ではやる気なく掃除というのもあるのだとおもうけど、やる気ない演技なのかはっきりせず、やる気ある演技だけど動きがいい加減という印象を受けた。
  • 個性付けしようとして失敗している感じがあり、上辺だけの演技になってしまっているように感じた。掃除への熱の入れ方、例えば、ほうきがけ一つとっても個性を出せたのではないか? みんな画一的な動作をしていたように感じる。
  • 洗剤やワックスを小道具として(あたかも中身が入っているかのように)持ってくるのだけど、その持ち方がいい加減。きちんと中身が入っているように持ちましょう。
  • 掃除道具の扱い方が全体に雑な印象をうけた。キリっと(必要な)メリハリは付けてほしかった(おそらくある程度抜けたムードを狙ったものだと思うので)。
  • 全体に(というか前半を通して)演じるところは演じる、バカをやるところは照れずにバカをやる、真面目なところはくそまじめにという区切りみたいのを意識できたら印象は随分変わったんじゃないかと思います。

審査員の講評

【担当】森脇 清治 さん
  • 舞台全体にベタっとした照明が当たっていて、廊下に緊張感がなかった。廊下を明かりの中心にしたら随分変わったのでは。
  • お掃除やワックスがけがいい加減で、その嘘が気になって台詞に集中できなかった。
  • 顔を見るとき視線が下がっていたので、上げるようにした方がいいと思う。

長野西高校「めぐるめぐる梶の葉たち」

原案:宮端 優子
脚本:演劇部(生徒創作)
演出:大谷 万悠

あらすじと概要

戦時中の高校で女子3人の青春を描く。

主観的感想

学校の昔の文集(でみつけたいい話)を元とした、戦時中の劇です。舞台写真は高校のページ参照

パンフレット等によると昭和20年の設定とのことですが、それにしては元気で陽気すぎたように思います。お話としては、戦争へ将校への千人針と学校が軍人たちに使われてしまうことに対する「綺麗に使ってください」という女子たちの必死の嘆願という2本柱になっています。

舞台装置ですが、斜めに置かれた6面体の手前2面と上1面をハズした形の空間を教室と見立ています(上記写真参照)。舞台では、役者たちが袖ではなく装置の裏に引っ込みます。この意味が全く分かりませんでした。装置の近くまで内幕を引いてしまい、袖に引っ込めばよかったと思います。そのせいで袖から装置裏手まで移動する人物が見えるなど無理が生じていました。

戦時中という設定にしては、床が綺麗すぎ、ほうきも上履きも、まして制服も何もかも綺麗すぎました。役者の切迫感、装置、ストーリーの中の「弁当」の中身、どれ1つとっても戦中ということを台詞の文章以外で説明できなかった、演出できなかったことが最大の問題でしょう。そのため、戦時下のしかも終戦間際の切迫したムードというものがどこからも感じ取れず、この演劇をリアルに見せることに失敗しました。もっと必死に戦中のことを調べないとダメです。また、ラストシーンで現代の演劇部部室へ戻り、この物語の成り立ちに関する話を述べるのですが、この部分ははっきり言って蛇足という印象を受けました。

あくまで印象ですが、いっそ、現代の「私たち」が戦中にワープしてその視点を通して戦中を描くぐらいの方が話として伝わりやすかったのではないでしょうか。いいエピソードの文集をみつけて、それを翻訳し必死に伝えようとした気持ちはとてもよく分かりますし、その努力も大変だったと思うのですが、では実際それがどの程度伝わったのかというと「ああいいお話を見つけたんだね」以上の感想を持つには難しいかと思います。

細かい点

  • この高校も演技のテンポが一定で、メリハリがなく、間もイマイチな印象を受けました。資料室を参考にしてください。
  • 登場人物も顔をメイクしていたように感じます。メイクで血色悪く見せるなら分かるんですが綺麗にしていたのでは、メイクするほど余裕があったの? 戦中なのにそんなに血色がよいの? と感じました。

審査員の講評

【担当】勝島 譲吉 さん
  • 学校史をドラマを作るというのはよくあるのだけど、自分たちのドラマにしようという熱気は伝わってきた。
  • 現代の部分をふくらますことでもっと良くなったのではないか。
  • 声がよく出ていて、姿勢も良かった。
  • 話の筋として、校舎の存続と千人針があったんだけど、最終的には「校舎の存続」に傾いて、千人針の方がおざなりになってしまった。
  • 校舎を綺麗に使ってくださいとお願いにいくとき、千人針を握りしめていてもよかったのでは。
  • セットに窓があるんだけど、夕陽が映り混んでいるとき先生が歩いてきて、窓の向こうが廊下なのか外なのか分からなくなった。
  • 建物のセットが周りの明るさで浮いてしまった感じがする。建物だけを中心とした照明でも良かったのでは。

新潟商業高校「父さんといっしょの地中海」

脚本:赤間 幸人
演出:福嶋ちひろ

あらすじと概要

主人公美咲と母と、アルツハイマーになってしまった父の物語。

主観的感想

この高校も演技にメリハリがないなという印象でした(資料室参照)。リアル志向で演じていたと思うんですが、演劇のリアルと実際日常生活とはわざすに差があって、わずかとは言っても越えられない壁です。役がいまいち読みこなせてないなという印象で、オーバーなところはもっとオーバーにしてよかったのではないかと思います(やり過ぎるとマズいのは確かですが)。

役が読みこなせてない最大の原因ですが、アルツハイマーに対する下調べが大変不足しています(または調べていない)。アルツハイマーの家族に取材したり、老人ホームなどに取材するなどしてほしかった。それが困難であるならせめて、アルツハイマーなどについて取り上げたビデオ映像(や映画)などを借りたり、関連する本を10冊ぐらい読むとかじっくり研究して欲しかったです。アルツハイマーとはどういう病気であるか、それに振り回される家族とは一体どんな心境であるか。この劇の根幹に関わる最も重要な点を「おざなり」にしたことが、リアリティを生み出せなかった原因です。

厳しいようですが、何かについて語ろうと思ったら(人に伝えよう、教えようと思ったら)、まず最初に下調べに相当の時間をかけるものです。下調べに下調べを重ね、完全に自分の中に核としたゆるがないイメージができあがったとき、初めてやっと演技について考えることができます。アルツハイマーってどんな感じなんだろう? と、少しでも不安があったら再度納得するまで調べなきゃいけないのです。そういう追求心が表現にはとても大切です。

また演出面ですが、何を狙ったのか全体によく分かりませんでした。この劇で最も大切なことは、アルツハイマーという病気に振り回される家族と、無自覚(?)な父親という悲壮感をいかにして演出するかだと思うのですが、ともすればお父さんのボケが単なるボケキャラにしか映りかねない状況となっていました。この「悲壮感」がうまく成立しなかったために、ラストシーンでの希望があまり印象的にならなかったのだと思います。

細かい点

  • 部屋がやけにだだっ広くなってしまったので、照明で範囲をしぼるなどしてほしかったところです。こぢんまりと寄り添ったムードがでると、家族の結びつきみたいのが見えてよかったと思います。
  • 部屋に置かれている時計を、電池が入った状態で置いてしまったことは問題でした。実時間(+20分ぐらい)で動く本物の時計(場面転換しても変わらない)を見るたびに現実に引き戻されてしまいます。手動で時計の時刻を変えるか、それができないならば時計を置いてはいけません。
  • (前半の)電話でのやりとりと、その裏での家族の会話というシーンで、どちらも同じ声量で話すためどっちを(観客に)聞かせたいのかよく分かりませんでした(どっちも聞き取りにくかった)。
  • 装置のパネルが低いです。あと少し高くした方がいいと思います。

審査員の講評

【担当】土屋 智宏 さん
  • このお話は心で伝わってきたと思います。
  • 父も母もいい役でよかった。娘役をよかったと思う。
  • この劇をどうやって見せていくかと考えたとき大切なことですが、小さな積み重ねが全体としてリアルを出します。ですが、この劇の装置は居間にしては広すぎて奥行きがありすぎたし、壁に掛かっている時計が劇進行とは無関係に時を刻んでいるのが気になりました。小道具とか、メイクというのは、小さいリアルを積み重ねていく道具なのだから、きちんと気を遣ってほしい。
  • 劇というのはあらゆるものから自由である。
  • アルツハイマーの人の想いを描くとき、どうやって作っていくんだとなって、やっぱり実際に見に行って話を聞いてくるということをしなきゃならない。