作新学院高校「TSUBASA」

脚本:大垣 ヤスシ(顧問創作)
演出:仁科 朋晃

※優秀賞

あらすじと概要

理科準備室の準備室「開かずの部屋」。そこに忍び入った女子3名は、はしゃいでるうちにそのまま中に閉じこめられてしまった。助けを呼ぶためコータローに携帯から電話をする。コータローはサトコの幼なじみで、マナミの好きな人。マナミはスケッチブックにコータローの絵を描いていた。助けに来たコータローに大してカメ(亀田)が気を遣ってくっつけようとするのだけど……。

主観的感想

まず真っ暗な狭い空間。「開いた」という声と共にドアが開きあかりが差し込む。「真っ暗で何も見えないよ」という言葉に応じて部屋の電気を付ける。パッと明るくなる狭い準備室の雑然とした空間。こんな始まりの演劇で、説明台詞の応酬が気になって仕方ありませんでした。ラストシーン近くでも「夕陽きれいー」とかも、台詞で直接説明せずに、比喩的に表現して事実を感じさせるとか、台詞のリアリティをちょっと研究してほしいなと気になって仕方ありません。

さて、演劇の方。「作新で初めての女子高生等身大もの」(パンフより)ということで、3名の主役、サト子という普通キャラ、マナミという恥ずかしがり屋内向キャラ、カメというバカキャラ。実に基本を抑えた人物配置で、それを役者がうまく回して笑いに繋げていました。ノリの良さはよく出ていて、見ていて楽しい演劇でした。

装置の方、何年も使われていない開かずの間という割には、安易ではありますが蜘蛛の巣みたいな演出(別に演技だけでみせてもいいと思いますが)や、ホコリをつもらせるぐらいの装置の演出はできたと思うんですがそれはありませんでした(舞台を汚すとマズいのなら下に敷くとか)。

再び演技ですが細かいツメが甘い印象。電話するときの動作が相手の番号を探している様子がなかったり、冒頭で標本に驚くシーンがあるんですが、その驚きが「予期した驚き」になっていました。本当に驚いてください。感情表現のシーンについてもコータローはそこそこ出来ていたのですが、3名の主役はちょっとなーと感じました。ノリのよい演技、3人のワイワイ騒ぐというリアリティは実によく出ていただけに、反面感情表現の弱さが気になりました。もっと研究が必要でしょう(参考:演劇資料室)。

全体的に。登場人物の配置の配置が基本を抑えてると書きましたが、それは裏を返せばステレオタイプということです。つまり、人物像としての深みがあまり感じられず、そんな仲良し女子3人が開かずの間に迷い込んで幼なじみだったり好きな人だっりする人が助けに来たけど色々あって帰っちゃって最後は先生に見つかって出て行きましたというお話。そういう甘酸っぱいほどではないにしろ何気ない日常のひとコマを切り取って描いている劇。

面白い(笑う)という意味では言うことはありませんが、途中に差し込んだシリアスシーンを初め、いまいちテーマというか描きたい対象を絞り切れてない散漫とした「何気なすぎるひとコマ」という印象を拭えませんでした。いや面白かったしよく出来てたんですけどね、だから余計に…。

審査員の講評

【担当】若杉
  • 大変完成度が高く、総合芸術として全体のレベル高い仕上がりだったと思う。
  • 夢ひとつにも、茶化す人がいて、追いかける人がいて、笑いありドラマありで上手かった。
  • お芝居の作り、特に笑いのセンスなんか見事だった。
  • 気になった点として、日常の会話や告白の言葉とか感情表現、その辺を研究してほしい。叫ぶばかりが台詞じゃないし、呟いたりささやいたり沢山色々な話し方がある。感情と言葉が違ったり、言葉にも色があったりとか。そういう所を研究すればもう一段上にいけるのではないかと思った。
  • それでも、きちんとまとまった完成度の高い作品だと思います。

甲府昭和高校「靴下スケート」

脚本:中村 勉(顧問創作)
演出:山下 僚子、大場 祥子
※優秀賞(全国フェスティバル)

あらすじと概要

ゴミ袋の山の部屋にやってきた家庭教師。ゴミの山と不真面目な生徒と家庭教師、その中で……。

主観的感想

ものすごい肩の力の抜ける、なんとも捕らえどころのないシュールな劇です。なんとも言えない妙な雰囲気で起こるバカバカしさ、ゴミの山のゴミで意味不明に遊ぶというそういう作りで、顧問の先生が出演者二人(演劇部員が二人なんだそうです)のために充て書きした台本とのこと。

間の使い方はとても良いんですが、メリハリがなぁーと感じました(メリハリのなさを狙ったものかも知れませんが……にしてもなぁ)。全体にもう少し声を出していい気はするし、ゆるむところはもっとゆるんでいいと思います。テンポがずーっと変わらないから飽きてくるんですよね。ノリの部分はもう少し乗って(一時的にテンション上げて)いいと思うし、抜け(ゆるみ、ボケ、オチ)の部分はもっと抜けた演技をしたらよかったんじゃないでしょうか。その方が、もっとバカバカしさが出たと思うんですが、あまり演技で笑いを取れているという印象はありませんでした(爆笑には至らないという感じで)。BGM選曲ではかなり受けてましたけど。

二人しかいない演劇部という追いつめられた状況で、シュールでバカバカしいという不思議な舞台作りに懸命に取り組んだ姿には好感を受けました。

細かい点

  • 最後のゴミを投げ合うシーンは、きちんと役者が楽しんで投げ合っていた。
  • (申し訳ないけど)台本の要請に演技力が付いていってないなという印象を受けました。
  • 劇とは関係ないけど、高校演劇でよく見かける「作 中村勉」ってこちらの顧問だったんですねぇ……。

審査員の講評

【担当】青木勇二 さん
  • 幕が上がり、部屋として大きいかなと思った。
  • 進につれ、広大な夢の島が見えてきた。
  • 何もメッセージ性がなく、現代を象徴している。観ている方が常にさめて観ることで、二人の孤独感を想像させた。
  • BGMも何気なくて好き。
  • ゴミ袋から役に立たないものが出てくる楽しさがあった。
  • ゴミを投げ合うラストはいつまでもこのままでという感じが出ていて良かった。

作新学院高校「ナユタ」

脚本:大垣ヤスシ(顧問創作)
演出:森本 浩予
※優秀賞、創作脚本賞

あらすじと概要

おじいちゃんとお父さん、姉と弟の4人家族。ある日突然、お父さんが再婚相手(候補)を連れてくるという。なんと現れたのは、ベトナム人のナユタという女の子。大反対する姉だったが……。

主観的感想

講評でも触れられていましたが、おじいちゃんが非常に美味しいキャラであり爆笑を誘っていました。笑いでお客を掴みつつ、再婚とそれに反対する姉、だんだんと家族に受け居られる素直なナユタという存在が非常に丁寧に描かれていました。ベタな話構成ではありますが、大変面白い演劇だったと思います。

幕が開いてざっと散らかった部屋(居間)がよく作り込まれており、それを暗転せず、片づけるシーンとして黒子を登場させコメディ仕立てに部屋を綺麗にさせたあたりの処理はすばらしかった。途中、ナユタとおじいちゃん、姉「みか」とナユタが将棋で戦うシーンがあるのですが、いい加減に動かすのではなく棋譜を覚えた上できちんとコマを動かし会話を重ねていました。こういう細かい細かい演劇的な嘘の積み重ねがあってこその、非常にアットホームで完成度の高い芝居を成立させていたと思います。

しかし、難点をあげるとすればやはりラストに係る処理です。結局物語りの争点はナユタを拒否する姉と他大勢という構図に落ち着くわけですが、姉「みか」が終盤に向けて早々にナユタを受け入れに傾くため、物語の軸が飛んでしまいます。そこに突然登場するおばさんによるナユタの過去の暴露という状況になるわけですが、(オバさんが初登場であることもあり)取って付けた感は否めません。

またこのシーンになると、ベトナム戦争の話、娼婦だった話などが出てくるのですが、ナユタというこの劇には大きすぎる要素だった気もします。話を展開させるために、やや安易に使った感じがあり、このシーン付近でのお父さんの「ナユタを愛してる」という台詞も実感がまるでこもっていません(それは演技もありますが、それ以前に台本内で描写され演出されてないからです)。同様に、その後の夜の公園(?)シーンでの父の独白が説得力をあまり感じられず、全体として面白かったけど結局なんの話だったの? という印象は拭えないと思います。あくまでナユタを含めた家族の物語として、ベトナム戦争ほど大層な言葉を安易に使わず処理されたなら、また違った印象を受けたかもしれません。

ナユタの外国人っぽさ(演技もメイクも上手かった)を含め、そのキャラクターが強く印象に残った演劇であり、色々書きましたが十分に面白かったと思います。

細かい点

  • 劇中で隣の部屋のテレビの音が鳴るシーンがあり、この音がまたよくリアルに作ってある(実際にとなりの部屋=袖でならしている)。
  • 暗転時は健太(弟)のナレーションで劇が進行するのだけど、もう少し語り口調に味(おちつきとか)があってよかったと思う。
  • ナユタの過去の出来事回想シーンのとき、(その前のシーンで勝負に使った)将棋盤が出っぱなしというのは気になった。欲を言えば小道具なども回想ごとに少しずらしていたらよかったかな。

審査員の講評

【担当】安田 夏望 さん
  • とても良かった。
  • 書く登場人物の個性がよく出ていて、特におじいちゃんが良かった。
  • 動きとか間とか早回しとかとてもよく出来ていていた。
  • ナユタによって空いた心の穴を埋めていった物語だと思う。
  • 見せ転換で将棋を真っ先に片づけていたけど、あれはあえて最後に残すことで余韻を出してもよかったのでは。
  • 最後の襲われるシーンでナユタが姉を助けるのだけど、ナユタが切られた方が衝撃的でよかったのでは。
  • 部員みんながよく協力し舞台を作っていたと思う。

沼田高校「リオ・デジャネイロに乾杯!!」

脚本:小野 知明(生徒創作)
演出:小野 知明(兼 主演)

※優秀賞(次点校)

あらすじ

「今年はホームステイは断ったよ」と勇気(ユウキ)は兄の元気(ゲンキ)に伝えた。毎年、勇気たち山本家ではニュージーランドの酪農家をホームスティに迎えていた。そこにやってきたホームスティの(自称)ブラジル人の「リオ・デジャネイロ」。また、山本家では母親が居らず、父親と喧嘩して出て行った様子だった。

そんな感じではじまるホームスティだが、TVのニュースでブラジル人が起こした一家惨殺事件が報じられる。もしかしてリオは犯人では……という疑心暗鬼。結局ラストは、勘違いでしたということで、リオも奥さんに連絡を取る、父親さんも母親に連絡をといういい話で終わります。

主観的感想

【脚本について】

創作脚本としては基本を抑えていて、大した破綻もなくよくできています。笑いの部分を引いた、ドラマとしての仕立てはまだまだ不足するかな……というところ。リオの奥さんと、山本家の母親という2つの構造を並列に並べ切れていない、深めようという配慮が不足しているかなと感じました。

例えば、家族における母親の位置や立場、それについての個々人の想いというものを(それとなく)描き出しておくと、全体として筋立てができて話が引き締まると思います。(参考:創作脚本を書かれる方へ

【脚本以外】

中央に部屋のセットを置いて、ステージ全体を部屋に見立てていたわけですが、中幕を引いたり(共愛のように)ライトを中央部のみ当てるなどして部屋としての狭さを出すべきだったように思います。そのせいで無駄なだだ広さを感じてしまいました。特にTVを点けるシーンにおいてそれは顕著だったと思います。

つづいてBGMの使い方。うるさいと感じました。もう少しボリュームを下げて、安易にBGMに頼らないように(特に回想シーンでの使い方は長すぎる)しましょう。暗転のとき(作業のためだと思いますが)明かりを残すとやはり気になります。他校は消した状態でもできているのですから、そこもきちんとしましょう。

山本家の父親役は見事に役にあっていましたが、背広を着ていたので酪農家っぽくなかったのがやや気になりました。その父親、上着を冒頭のシーンで部屋にかけたまま外に出て行ったのですが、それは意図したものだったのか若干疑問です。

【全体的に】

一昨年、昨年と県大会で沼田高校を見てきたので正直なところまったく期待していませんでしたが、それはよい意味で裏切られました。今年は、方向性を絞ってきちんと作りこんできており「ああ、すごい成長したなぁ」というのが正直な感想です。例えば、TVのシーンでTVによる明るさの変化をライトを物でさえぎることで行っていまして、実に細かいところまで気を回しているのがこのことからも分かります(ただまあ、せっかくの細かい芸もあれでは分かりにくかったので、色の変化を付けるとか、もっと遮る物の大きくオーバーにしてもよかったかと思います)。

全体としてもう少しコメディ色を強めてもよかったかなとは感じました。

審査員の講評

【担当】原澤
  • まず幕が上がってブツクサ言っている男がコンロの前でバタンと崩れて。正直なところ、そのシーンですごく期待した。(あまり昨年のことは言いたくないが)昨年と比べるとすごい進歩で、1年間部活として頑張った成果が現れていると思う。
  • ただ(もしかすると致命的な)問題点があって、終盤に行くに従ってお話が小さく小さくまとまっていった。中盤でリオが殺人犯ではないか、という報道があったのに実際には違ったし、山本家の母親もなんだかんだでいつでも帰ってきそうなムードで。(終盤では)問題らしい問題は見あたらず、「みんないい人だったなー」で終わってしまい(演劇としての)ドラマはどこへ行ったのかという感じになってしまった。
  • ドラマといっても、別に殺人や地球滅亡といった大それたものではなくて、先ほど(桐生南など講評で)光瀬先生からあったように、人と人の間のドラマをもっと描いてほしいかった。
  • お父さんの衣装が「酪農家?」に見えなかった。
  • (例年)男子校の演劇は、勢いはあるものの完成度は……だったが、(男子校でも)きちんと演劇を作りうまくまとまっていた。その点、良かったと思う。

高崎女子高校「ドロボウの街」

脚本:岡田 美恵子(生徒創作)
演出:岡田 美恵子

※優秀賞(次点校)/創作脚本賞

劇の概要

「私は世界一のドロボウです」で始まる物語。 なんとそのドロボウは人生を奪うドロボウだった。ドロボウに人生を奪われ自分が 何者かも分からなくなった主人公は? 一体何者?

前半はギャグをふんだんに遣い、個性的な登場人物による掛け合いを組み合わせながら、 人数が増やし、だんだんとドロボウの街へと近づいていく。 ドロボウでオークションにかけられる主人公の人生。 実は強盗だった。そんな人生本当に取り返したいのか?  そんな中、一緒にドロボウの街までやってきた警官が 「実は人生を買った人間」であることが分かり……。

主観的感想

劇の主題とも言うべきドロボウの街が出てくるまでが長い。 ドロボウの街、人生のドロボウと言われたら、 観る側としては奪われた人生、を中心に期待してしまう。 そして、人生を買った人間を出すのならば、 なぜ「人生をとられた人」と「人生を奪われた人間」の 対比を物語の主軸に添えなかったのか?

ラスト10分。人生について色々な登場人物の台詞がありますが、 そられの言葉に全く重みがない、軽い。 演技の問題よりも、唐突だというのが一番の原因みたいです。 本来そういうことこそ丁寧に綴るべきであって、 時間不足なのだとしたら、前半の時間をもっと圧縮するべきだと感じました。 タイトルにもなっているのに、ドロボウの街に居る時間が短い。 意図はしていないのでしょうが、 引っ張った分だけ期待が大きくなり「なんだ……」という印象を抱いてしまいました。

以上、話の本筋を慎重に追う限り、創作脚本賞には少々疑問が残ります。 とはいえ、各部はバランスよく書けていて、 演技、演出等、常連だけあり非常に高い完成度で終始楽しめます。 BGMの使い方(フェード等)もうまかった印象あります。

審査員の講評(の主観的抜粋)

  • 背景美術のついたての後ろが見えたのが残念。 細かい点だが、劇の中の虚構を崩しかねない重要な点。
  • ラストシーンにおいて、主人公が決断するシーンで「口パク」に なって台詞を言ってくれない、結末をお客任せにしていることが気になった。
  • 人生を奪われた主人公と、人生を買った警官の二人の関係(図式)を もっと描いても良かったのではないか。