高崎女子高校「1/2」

脚本:松井 美樹(生徒創作)
演出:高崎女子高校演劇部

あらすじ

祖母、母、息子、娘の一見幸せな4人家族。そこへ天使と悪魔が訪れた、この家族を 救うために。家族には天使と悪魔の姿は見えない。この家族は少し前に父を無くし、 また借金が残っていた。死期が近いと自覚した祖母は、 私がもうじぎ死んでその保険金で幸せに暮らすように言うのだが……。

【以下ネタバレ】

祖母の命を奪うことが本当にこの家族を救うことなのか。そう悩む悪魔と天使の二人。 そんな中、祖母は病院することとなる。 天使は過去に似た経験があり、生かすことだけが幸せではないと、言われた記憶。 最後には命を奪い、おばあさんは遺書を残す。 そこに一緒に入っていた片割れの鈴、もう片割れは天使が持っていた。

主観的感想

【脚本について】

台詞回しと人物像が極めてステレオタイプ。今時、子ども向け漫画でも出で来ないよ うな、母、息子、娘、祖母の偶像化された人物像と、あまりにも陳腐な台詞回し。その せいで、このテーマに必要不可欠な人としての想いや深みが全く出ていない。

天使や悪魔といったモチーフや設定が曖昧すぎ。言わば非常に安易な考えに基づく設 定であって、その二つの役割の差すら見てて理解できない。天使が初仕事のときは悪魔 が、悪魔が初仕事のときは天使が一緒に付き合うという意味の台詞があり、ここからも 双方の役割の違いが全く分からない。この天使と悪魔が『命を奪うべきか悩む』ところ にテーマとしての本質があるにも関わらず、悩んでいる様子(描写/シーン/行動)が まるでない。ただ、それらを除けば基本構成(コンセプト)などは悪くない。

【脚本以外】

BGMと被ったとき、または他の台詞と被ったときに、横を向いたりして話すため、 台詞がほとんど聞き取れない。横を向いて声をホール全体に届けられないなら、 必ず前を向いてほしい。

劇が進行しているその時の中心、会話している人たち以外がまるっきり止まっている。 そこの演技が出来ていない。特に、天使と悪魔はそれが目立った。特にさせることがな いなら、何かしら癖やら性格付けをして出すべき。

最大の問題は天使と悪魔。まず格好からして、白い服、黒い服を着ている人間にしか 見えない。マント風の衣装などの工夫が欲しいし、逆に「全く人間と変わらない」こと をネタとしたらどうだろう。悪魔が祖母に向かって何度も問いかけを発し、その度に天 使が「無駄だ、何も聴こえてない」と言う。そう台詞で表さないと、それが演出できな いのは明らかに問題。 また本来影の主役であるべき祖母が、天使と悪魔を完全に喰っていて、 もはや中心軸がボケている。

【全体的に】

笑いの取りかたは上手い。その辺きちんと仕上げてきている。 間の取りかたや繰り返しのパターンなど、基本はきちんと抑えている。 台詞に問題は感じられる物の、劇はほぼ仕上げてきている。 さすが常連と言うべきか。

審査員の講評

【原】
  • 天使悪魔というものは、高校演劇では比較的よく用いられるモチーフ。 その中ではよく出来た作品。
  • お婆さんが極めて丁寧かつ効果的に用いられ、それが劇全体を支えている。
  • 話の進行役ではない手の開いた役者が動いているのだけど、 整理されていないため注意がそちらに行ってしまった。
【掘】
  • 背景にある一千万の借金が深刻そうに映らなかった。
  • これがやりたいという一本が見えない。 焦点が「天使・悪魔」にあるのか? 「家族」にあるのか?
  • 病院のシーンは本当に必要だったのか、一場面で(場面転換なしで)流せなかったのか?
【中】
  • お婆さんが、最初とても元気そうで「もうすぐ死ぬ」感じがしなかった。
  • 台詞面をお互いに検証して、もう少しそれらしくできなかったか?

桐生南高校「本日も大安なり」

脚本:青山 一也(顧問創作)
演出:藍原 宏心

あらすじ

同性愛の父親と、息子二人と娘(一番下)今日子。今日子は、父親のために恋人 大輔(男)を探し紹介する。そんなちょっと変わった、でもどこか温かい家族でのお話。

【以下ネタバレ】

ドタバタの中、家族に受け居られていく大輔と、それを快く思わない今日子。 やがて父と養子縁組をするという話になると、今日子は喧嘩をし、家を飛び出した。 それを追いかける大輔。彼女はファザコンだった。

主観的感想

【脚本について】

もう既に何作も創作脚本を書かれているベテラン(?)。 昨年の桐生南も同顧問の創作脚本でしたが、 シナリオの出来以前に力及ばすといった印象でした。 お話の作りは昨年よりも良い印象です。 上演パンフの紹介欄に(以下引用)、

この台本は非常に出来が良いのですが、とても難しく、 台本のレベルに生徒が付いていけないという状態が長く続いてしまいました。
とある通り、とても完成度の高い脚本です。 笑いの中に何か一つを描き出すという、演劇らしい要素がよく詰まっています。 多分本だけ読んでも面白いと思います。

ただ問題を上げるとすれば、 今日子のラストへのフリがないかな、前半から少し入れた方が良かったよう に感じます。

【脚本以外】

紹介にある通り、演技が頼りない。 一番上の兄貴、大輔に始まり、他も多少演技に不安を感じる。 笑わせるところではもっとオーバーにしていいし、 演技のメリハリ、強弱をもっと付けるといい。 兄貴とかは、もっと性格を出していいと思う。 この学校も、声のトーンがほぼ一本調子なのが残念。 その辺は自覚があるのか、台詞の間を意識的に開けることで 変化を付ける努力は買いたい。 ただ、だからと言ってトーンの変化、 声色の変化をしなくて良いという理由にはならない。 特に気になったのは、ラスト付近で今日子が飛び出していくシーン。 全然飛び出してないのでただ走っている。あれは大問題。

舞台が広すぎた印象。 幕などを使って狭めた方が良かったと思われます。 また、冒頭に内幕を引いてその前に出るシーンがありますが、 舞台を狭めて袖付近をスポットで使うとか、 なんとか一場面で済ませる工夫がほしかった。

【全体的に】

とにかく演技をもっと頑張ってください。 これだけ笑わせつつも、家族というテーマを描いたのは見事です。 演技が多少頼りないながらも、十二分に楽しんで観られる劇でした。

審査員の講評

【原】
  • 台本を読んだとき(同性愛もので)「これはすごいことになっちゃったな」と感じた。 これを高校演劇でやっていいのかとすら感じた。
  • 実際の舞台をみて、さわやかでドロドロしておらず、 ぜんぜんいヤラしさを感じないことがよかった。
  • お父さんが(高校生が演じているのに)お父さんに見えて、 しかもそれっぽく見えたのは上手かった(目つきのおかげか?)。 大輔の方もよかった。
  • 幕をおろして大学のシーンを(前)でやるが、あれは省けるのではないか。
  • お父さんが家族に受け入れられているわけで、 その告白をしたシーンの方が(この劇でフォーカスがあてたものより) よっぽどドラマではないかと考えてしまった。
【中】
  • 本来重たいテーマを軽く扱ってみせる劇という印象を受けた。
  • 家族が(お父さんを)明るく受け入れてしまっている姿が腑(ふ)に落ちない。
  • ラストの養子縁組の話は本当に必要だったのか?  そんなことをしなくても良いように、十分幸せそうに映ってしまった。
  • 一部の台詞が聞き取りにくかった。
【掘】
  • この本は青山先生しか書けないのではないかと感じた。
  • 軽いタッチで演出されていて、楽しめた。
  • リアル志向でやろうとしているのか、 嘘のリアル志向(そんなのあり得ないということの積み重ね)でやろうとしているのか、 どっちつかずの印象を受けた。
  • それが災いして、「嘘リアルな嘘(ばかばかしい嘘)によるリアルさ」ではなく、 単なる嘘っぽさを全体から感じてしまったのが残念。 (補足注釈:おそらく、 例えばお父さんの設定や家族に受け居られているなど無理のある部分を、 バカバカしい嘘によって裏付けすることで逆にお客の意識を取り込めたのではないか、 という意図の評だと思われる)

渋川女子高校「on the edge」

原案:渋川女子高校演劇部
脚本:平石 祥子(生徒創作)
演出:生方 依子

劇の概要

夜、廃病院の屋上。そこへやってきた少女達は、少女ユキに呼び止められる。 ユキは、落ち着きのある性格ながら言う内容や、やることは無茶苦茶。 そんな少女に、見つかってしまった3人の自殺志望の少女達。 ユキは遺書を紙飛行機にしてみたり、感動するように書き直させてみたりとやりたい放題。 しばらくして「あんたたち、本気で自殺するつもりじゃない」と言って、 3人をフェンスの外側、屋上の際に立たせて「飛び降りたとのシミュレーション」を始める……。

主観的感想

「この作品は、設定、構成、台詞など、すべて1から役者の即興をもとに部員全員で創り上げたものです」 と(パンフの)説明にはありますが、 即興劇が下地であることを感じさせない話造りとユーモアは観ているものを引き込んだ……と思います。 というのも、かなり好みのお話で観ながらのめり込みましたので、 (元々客観的なものではありませんが)以下 ひいき目に書かれていることを予め了解ください。

とにかく登場人物が強烈で、また役柄がとても合っています。 ユキを中心とした登場人物達の個性と、それらが織りなす間がとても良かった。 通常、自殺などをテーマとして扱うと重くなりがちで、話は沈み気味。 テンポは低下し、無駄な独白が増え、全体的にクサくなりますが、 そういうことは一切なく、それでいてきちんと伝えたいことを伝えている点は見事。

気になった点ですが、屋上にやってきた少女達のうち2名の個性が弱かった印象が否めません。 印象の強い2人(残り1人とユキ)を「動」とすれば、この2人は「静」にあたるので仕方のない面もありますが、 「静」は「静」なりに人物の魅力は出せるはずです。 ただ静かおとなしい性格というのではなく、 おとなしいならおとなしいなりの個性をきちんと出して欲しかったと感じました。 また、2回ほど登場する「二人組の大学生」。 UFOを呼ぶために屋上に来ちゃうようなギャグキャラなのですが、 この二人の使い方をもっと慎重にして欲しかった。 話の流れから乖離している二人であるため、出てくるとメイン4人が築いた間とムードをぶちこわしてしまう。 途中、照明をまるでストロボ写真のように使い「パッ」「パッ」と 1コマの情景を切り取って数秒映し出す(人物は静止している)のはとても良かった。

中盤の屋上の際に立つシーンまではすばらしかったのに、 その後の展開が惰性任せでもったいなかった。 もしちゃんとラストまでまとめ上げられたならば……と感じました。 それでもラストシーンは印象的で綺麗でした。

審査員の講評(の主観的抜粋)

  • 廃病院の屋上、フェンスとビルの端。 これらの位置関係が掴みにくく、時にはフェンスを越えて人物が移動しているシーンがあった。 ビルの端は(タイトルにもあるぐらい)この作品において最も重要な点であるから、 この線を越えたら……の「この線」がハッキリと観客に分かるようにしてほしかった。
  • 途中、お客さんを参加させているシーンがあったが、 参加させたらちゃんと最後までフォローして欲しい。 手を挙げさせられたまま、ほっとかれ先に進まれてしまうと、どうしていいかわからず困った。
  • シーンやギャグなどをもっと取捨選択・整理して、洗練してもよかったのではないか。

高崎女子高校「ドロボウの街」

脚本:岡田 美恵子(生徒創作)
演出:岡田 美恵子

※優秀賞(次点校)/創作脚本賞

劇の概要

「私は世界一のドロボウです」で始まる物語。 なんとそのドロボウは人生を奪うドロボウだった。ドロボウに人生を奪われ自分が 何者かも分からなくなった主人公は? 一体何者?

前半はギャグをふんだんに遣い、個性的な登場人物による掛け合いを組み合わせながら、 人数が増やし、だんだんとドロボウの街へと近づいていく。 ドロボウでオークションにかけられる主人公の人生。 実は強盗だった。そんな人生本当に取り返したいのか?  そんな中、一緒にドロボウの街までやってきた警官が 「実は人生を買った人間」であることが分かり……。

主観的感想

劇の主題とも言うべきドロボウの街が出てくるまでが長い。 ドロボウの街、人生のドロボウと言われたら、 観る側としては奪われた人生、を中心に期待してしまう。 そして、人生を買った人間を出すのならば、 なぜ「人生をとられた人」と「人生を奪われた人間」の 対比を物語の主軸に添えなかったのか?

ラスト10分。人生について色々な登場人物の台詞がありますが、 そられの言葉に全く重みがない、軽い。 演技の問題よりも、唐突だというのが一番の原因みたいです。 本来そういうことこそ丁寧に綴るべきであって、 時間不足なのだとしたら、前半の時間をもっと圧縮するべきだと感じました。 タイトルにもなっているのに、ドロボウの街に居る時間が短い。 意図はしていないのでしょうが、 引っ張った分だけ期待が大きくなり「なんだ……」という印象を抱いてしまいました。

以上、話の本筋を慎重に追う限り、創作脚本賞には少々疑問が残ります。 とはいえ、各部はバランスよく書けていて、 演技、演出等、常連だけあり非常に高い完成度で終始楽しめます。 BGMの使い方(フェード等)もうまかった印象あります。

審査員の講評(の主観的抜粋)

  • 背景美術のついたての後ろが見えたのが残念。 細かい点だが、劇の中の虚構を崩しかねない重要な点。
  • ラストシーンにおいて、主人公が決断するシーンで「口パク」に なって台詞を言ってくれない、結末をお客任せにしていることが気になった。
  • 人生を奪われた主人公と、人生を買った警官の二人の関係(図式)を もっと描いても良かったのではないか。

沼田高校「二人いる!?」

脚本:磯田 武久(生徒創作)
演出:磯田 武久

主観的感想

高校の美術室を舞台にして「ミステリーに挑戦」がパンフレットのうたい文句。 コンセプトは良いにしても全体的に不足だらけ。 観ただけでは何を目指したのかすら少々分からなかった。 男子3名によって繰り広げられる主人公との関わり合いが主軸なのですが、 そのどれもが中途半端。お約束の独白あり。 劇中、暗転が非常に多く、 おまけに多くの暗転が「時間跳躍」をしているために最後にならないと意味が分からない。 ミステリーには必要ですか、多少演劇には合わない見せ方のような気もしました。 あまりお客さんを引き込めていない様子で、 物語の導入に「つかみ」がないせいかなと感じました。

審査員の講評(の主観的抜粋)

  • 物語の流れに沿っていない一発ギャグが多かった。 その種のギャグは慎重に使わないと、物語の流れを止めてしまう。 芝居に組み込まれた物なのか、芝居の上に取ってつけたものなのか、もう一度慎重に考えて。
  • ラストシーン近くで父の声がスピーカーから聞こえる場面があるが、 二人の人物両方に聞こえてしまったために、物語が現実を超えてしまった。 一人ならば心の声になるが、二人に聞こえると超常現象になってしまう。
  • 説明的な台詞や独白が多く、これは(60分という)時間枠を超えないためだと 思うが、例えば「虐待をうけてたんだ」などの言葉を軽々しく述べたりはしない。 自分がどういうシチュエーションならそんな話を友人とかにするか考えてみてほしい。 そういう言葉の持つ重みを慎重かつ丁寧に描いていくのが、本来の演劇の姿。