秩父農工科学高校「千年ロッカー」

こちらも久しぶりに見る、劇団秩農です。一応説明しておくと、埼玉県での関東常連校であると同時にオリジナル台本で有料の自主公演を定期的に行なっている、それだけの実力を兼ね備えた学校になります。有料の場合に問題になる音楽ですが、関係者に作曲をされる方がいてそのBGMを使っているなんてお話を聞いたことがあります。

さて上演ですが、さすがの実力校で、題材となるロッカーは見せ方もギュックも凝ってるし、上演自体の完成度も高いし、演技力も申し分ない。以前見た印象だともっとギャクに振ってるような(かすかな)記憶があるのですが、意外とちゃんと話立てていて、そこも感心しました。下手に使うと大失敗しやすいプロジェクターを非常に効果的に使っていたのも印象的でした。

入間向陽高校「ポリエンヌ」

装置のない素舞台で繰り広げられる、魔法少女モノ(笑)。ばかにしてるわけじゃなくて面白かったんです。登場人物の男キャラがひょんなことから「愛と光の戦士、ピンキーポリエンヌ」となって、街を脅かす悪者たちと戦う。写真こんな感じ(部活の公式ブログへリンク。県大会)。

最初のシーンで、SSとかサスとかで切り替えながら話を進めていって「テンポが悪いな」「分かりにくいな」と思っていたのですが、ギャグなどに対する演技・演出が大変優れていて、だんだんと観客を笑いに巻き込みながら、最後は観客に「Let'sピンキーと声で応援させられる」という大胆な演出。もしもそこまでに観客を巻き込めてなかったら「総白け」となりかねない危険なシーンですからね。それを難なくやってこなす自信と演出のなせる技でしょうか。

最初、この主人公を「女子が男装して演じてる」と思ってたんですが、どうやら本当に男子だったようで。背格好はともかく、声が女子っぽい(男子の声をしている女子っぽい)男子だったようでめずらしい。よく似合っていました。

内容をどうのと語るのも野暮ってもので、とにかく面白かったし、そうかこんなのもアリかと思わせてれるよい上演でした。

宇都宮中央女子高校「あゆみ」

長方形のサスで区切った空半を次々と右から左(上手から下手)へと向かっていく人々(同じ格好)により、あゆみという主人公を中心とした、連続的な時間の流れのを表した舞台。言葉では非常に説明しにくいのですが、とても面白く完成度の高い試みでした。上演感想(感想板)をみた感じでは同じ形式での他校の先行上演(もしくは初代上演?)があるようです。

サスの外側は見えないという約束で、サスから消えた人たちは後ろ側を移動して右に再び待機するのですが、それが見えてしまうのが非常にもったいない。左から出ると同時に、右から入る別の人が同じ人の続きを上演するという高度なことをやっているのですから、内幕ないしは黒いパネルを用意してサスの両側を見えなくするだけで、面白さが倍増したと思うのです。実際、途中手で左右を隠してみてましたが、準備の様子が見えないだけで次どうなるんだろうというワクワク感がありました。もったいないです。

それともう一つ、映像(舞台)の文法としては進行するもの(物語進行)は通常「左(下手)から右(上手)に向かう」ので終始気になって仕方ありませんでした参考)。知ってて敢えて上下(かみしも)にしたのか、知らなくて上下にしたのか、映像と演劇は無関係だということなのかわかりませんが、気持ち悪さがありました。

前橋南高校「狩野■Kanou県 」

妹の椅子が舞台中央にあり、姉の椅子が舞台よりやや下手にあるので、椅子の中心が舞台中心からずれているのがなんとも気持ち悪く感じてしまいました。サスの関係なのかもしれませんが、県大会はこうではなかったような気が……。全体的に県大会のほうが面白かったなという印象が拭えません。

照明設備の関係はあるのでしょうが、夜な夜な出てくる女がハッキリ認識できるまでの時間が遅くなってしまい、この夜のシーン用のスモークが女まで届いてなかったり、また椅子位置の関係からリサイクル業者の出入りや玄関などの位置が不自然(窮屈)で、リサイクル業者の男が妹に色目を使うシーンの「キラッ」音などのSEがやや小さく、なんとも不恰好に感じられました。

舞台が広くなったのか姉が若干早足になっていたのが気になった以外は演者に問題はなかったと思うのですが、照明、音響、スモークなどのスタッフワークの部分での粗が目立ち、前橋南独特の世界観の構築に失敗しているように感じられました。おそらくシルクホールに不慣れだったためでしょう。たったそれだけのことでこれだけ印象が変わってしまうのだから、普段県大会で見せるあのクオリティは絶妙なバランスの上に成り立っているのだと、あらためて実感しました。