新島学園高校「女将さんパラードII」

作:大島 昭彦(既成)
演出:新島学園高校演劇部

あらすじ・概要

卒業式の夜。謝恩会後にけいおん部の3人は居酒屋をやっている純子の家に集まった。遅れてやってきたエリカは彼氏と別れるという。エリカは女将さん(純子の母)に元旦那(早川)とのなれそめや別れた理由を尋ねた。

感想

この台本は2010年の県大会以来、2度目の観劇。今年も新島はパネルを立てて部屋を作ってあり、中央奥に入り口とのれん。下手にカウンターとその上の酒瓶。上手に高くなった台と畳、その上にコタツ。上手壁にトイレ入り口。その他、ハンガーやお酒のタペストリー、メニューなどなどよく作りこまれた居酒屋風景。

いつもどおり安定した新島の上演で、演技がうまく声もよく聞こえ、とてもよく練習したのが分かるのですが、それが仇になっている面もありました。まず台詞のリアクションが早い。「前の台詞を言い終えたら次の台詞を言う」という台詞の応酬が多く、前の台詞を受けて気持ちが動いてからの発声というのができていなかった。多分60分の時間制限に対して台詞が多すぎるのも一因だと思います。

そして不自然な行動も。「乾杯」のとき、なぜみんな示し合わせたように畳から降りて集まりましたか? どの場所で誰がどんな感じに集まって乾杯するとか決まってないですよね? 次いで、下手カウンターでエリカが女将さんに別れた理由(やなれそめ)を聞かせてと頼んでokをもらったシーン。よーしじっくり話を聞くぞー!となったエリカはなぜ上手の畳に移動しましたか? 畳に移動し先程より距離を大きく取った状態で「それでそれで!」と聞く。おかしな演出だと思いませんか?(そもそも演出不在ですが……)

講評でも指摘されていましたが、父親とのなれそめ回想シーンで父親が全然悪者に見えません。ちっとも「ヘビー」じゃないし「ドン引き」する要素が破片もない。演技がコメディに振り過ぎだし、真相を見せてからプレイバックする必要性が全くない(真相は後で観客に想像させれば十分なのです)。父親を悪者に見せたいのか、ただのギャグキャラでいいのか、もう少し考えたほうがよいと思います。あと回想シーンが長すぎる。笑いを取りに行く力の入ったシーンなのはわかりますが、全体の構成を考えた時どう考えても長いと思います。

これも講評で指摘されていましたが、重用アイテムである「缶ビール」から「空っぽい音」がして「空っぽい扱い方」だったのがもったいなかった。裏を繰り抜いて「重り」入れておくこともできたんじゃないかな。日本酒(焼酎?)のビンはちゃんと水が入ってたみたいなので惜しいです。

細かいことですが、黒電話の音がスピーカーじゃなく舞台上から聞こえたので(たぶん)仕込みだったのかラジカセ持ち込んでたのか、こういうところはよく気がつくなと思いました。ハーモニカ生演奏とかもなかなか味があった。

演技や装置のクオリティーは高く、作りこみ(努力)もすごくされているのに、演出的配慮が不足してそれらを活かしきれないあたり例年どおりの新島でした。面白かったんですけどね。毎回言ってるけど演出をしましょう(個々のシーンだけじゃなく全体として)。

新島学園高校「厄介な紙切れ ─バルカン・シンドローム─」

作:大嶋 昭彦(顧問創作)
※優秀賞(関東大会へ)

あらすじ・概要

放課後の教室、数名の生徒が居るその場所に明日のテスト問題が紛れ込んだ。返すべきか、返さざるべきか。テスト用紙をめぐって繰り広げられるコメディ。

感想

舞台奥側に教壇を置いて、その方向に5列、それぞれの列に机を3つずつ。教室の前半分ということでしょう。それにしては教室の構造が少し謎ではありましたが(出入り口どこ?)。

スタート時。教室で3グループが並列して起こる会話を、その他のグループごとにストップさせて1グループだけ時間軸を進行させて見せるのは面白いなと思いました。実力を見せつてくれるなとも感じましたけど、静止タイミングや微動だにしないあたりはさすがの新島。同時並列を、同時並列にして順序を整理して見せるのも1つの方法ですが、こういうやり方もあるんだなと思いました。

相変わらずの演技力で、声がよく通り、それでいて力みすぎず、それぞれの登場人物がきちんと立っていて、非常に安心して見ていられました。また台詞のタイミングもよく整理されていて、わかり易かった。先生が少し先生っぽくないのは、仕方のない面はありますが、でも新島の実力ならもう少し頑張れますよね?

全体的に

講評の指摘がほぼ台本だったということが象徴してると思うのですが、くだらない話なんだけど演劇としてはきちんとできている。でもくだらない話。

くだららない話=ダメということはもちろんないのですが、盛り上がらない作りだなとは感じました。何も起こらず、終わって何か残るものもなく。最後にもう1つ厄介な紙切れがあればいいという講評の指摘もあり、もっともっとくだらない方向に突き抜けていればまた印象が違ったのかなと思いました。話全体がくだらない割に、細部の構成が真面目なんですよね。

新島らしい完成度の高めの安心できる芝居ではありました。

新島学園高校「厄介な紙切れ -バルカン・シンドローム-」

関東大会だから教室のパネルぐらい用意するんだろうなと思ったら、本当に用意してきたあたりは期待を裏切りません。途中黒板の留め具の片方が落下という事故もありましたが、動じず、後半にはネタにする余裕はさすがのものでした。あの傾いた黒板は冷静に考えると笑いそうになってしまいましたが(苦笑)、同時にもう片方も外れて事故にならないことを祈ってました。

県大会と終盤の流れを変えて話を整理したこと、紙切れをちゃんと最後のオチに持ってきたこと、県大会で指摘した先生が先生らしくないのが修正され(ちゃんと先生見えまたよ!)、確実に進化していました。教室もパネルがあることで、オープンスペース(教室の壁がないタイプ)と分かるようになっていました。よかったです。

新島学園高校「たばこ屋ラプソディー」

作:大嶋昭彦(顧問創作)

あらすじ・概要

学校でタバコが見つかったため謹慎になってしまったゆき子はお婆さんの家に居た。昔タバコ屋だったお婆さんの家。ゆき子はどうしてタバコを持っていたのか、謹慎から復帰することはできるのだろうか。

感想

いつものハートフルコメディ。幕があがりお婆さん3人が花札をしているシーンから始まります。畳の和室が左右2つに分かれていて(ふすまなどはなく続いている)、下手の部屋に仏壇、中央に丸テーブルがあってそれを囲むようにお婆さん3人。上手には四角いちゃぶ台の置かれた居間。居間の奥に閉じられたふすま、その奥に廊下があり、廊下の奥側に階段、廊下の上手に玄関という構造を想像させます。

お婆さんは死んでいてゆき子だけに見える設定だったのかな。後半になってお婆さんが死んでいることが明かされますが、この辺の実在しないものを見せてしまう構成や、人の出入りをうまく使って話を進めたり、見事な部屋の装置を作ったり、時計を置いてそれを動かしたりといつもの新島らしい隙の無い舞台作り。(ところでいつも気になるのですが、あの時計はどうやって変えてるんだろう。あらかじめ設定した同じ時計を置き換えてるのか、暗転ごとに毎回調整してるのかな)

そして見事なのが、高校生・大人(親や先生)・お婆さんの演じ分け。風貌はもちろん、テンポの違い、動きの違いを非常によく演じ分けています。お婆さんについては講評でステレオタイプじゃない?との指摘もありましたが、記号だとしてもお婆さんに見えることはやはりすごい。他校が年配者演じると大体失敗するんですよね……。

学校の先生が家に訪ねてくるところで、母親が娘に対する態度と先生に対する態度(よそ行きの顔)を使い分けたり表情で指図してみたり、母親は背筋が伸びてるのに娘はだるそうに猫背にしてたり、先生方はきちんとしてたり非常に上手い。年齢による演じ分け含め普段から余程エチュード等で練習しているのでしょうか。いつもながら唸ります。

全体的に

いつもどおりの完成度の高さにただただ唸る所ではありますが、年々他校のレベルも上がってきた今、いまいち「ぱっとしない」印象は拭えません。こう言っては失礼なのはわかっていますが、完成度が高いだけなんですよね……。実際2年前に予想したとおりの状況になってる(「だんだん他校の実力もあがっているので他校が骨のある本と演出で勝負してきたときには分からなくなりますね」の部分)わけで……。基礎演技力でも新島とそれほど変わらない高校だってあります。

この物語で重要だったのは「タバコ」というアイテムなのですが、中盤それが完全に忘れられている。元タバコ屋という設定ですが、舞台空間にはタバコ屋の影形もない。タバコとそれにつながるお婆さんに観客の意識を持って行かないとこの物語は成り立たないのではないですか? タバコそのものではなく「タバコを持ってたこと」や「ゆき子の謹慎」に焦点が行っている気がしませんか。

例えば舞台装置がタバコ屋になっていて、(死んで店じまいしたために)片付け中のタバコが置かれていて、その手間にお婆さんがいつも座っていた椅子があり、そこに視線で演技するだけでも全然違ったのではないでしょうか。タバコの他に花札という2つのアイテム分散させる必要もないのでお婆さんが3人も要らなくなり、色々変えることにはなりそうですが。もしかすると部員10人全員に役を当てるというのがまず最初にあったのでしょうか。だとすれば、その最初の制約を克服できなかったのではないかと思います。

新島学園高校「女将さんのバラード」

原案:安藤里紗(生徒)
作:大嶋昭彦(顧問創作)
※優秀賞(次点校)

あらすじ・概要

卒業式の夜。けいおん部の3人は居酒屋をやっている純子の家に謝恩会後の2次会として集まった。遅れてやってきたエリカは彼氏と別れるという。エリカは女将さん(純子の母)に元旦那(早川)とのなれそめや別れた理由を尋ね始めた。

感想

高さ8尺(6尺ではない)のパネルで囲まれた居酒屋。左手にカウンター中央左にテーブル、中央に入り口、右手にこたつ席。一番右にトイレ。壁にはビールのポスターやらメニューやらがあり、テーブルには箸やら小さいメニューやらが置かれ、ちょうちん、神棚、カレンダー等などすばらしく作り込まれた居酒屋の舞台装置。新島は部屋を作らせたら本当にうまい。

今年も生徒原案、顧問創作という好感の持てる構成。けいおん部とかの設定は生徒でしょうか。いつもながらに非常に完成度の高い台本で、創作脚本賞あげてもいいんじゃないかといつも思うのですが、完成度より着想の方が評価されるためたまにしか脚本賞にならない。

と脱線しましたが、話自体が面白いところに演技がまたすばらしく、とても面白く楽しめました。具体的には台詞に対するリアクションがきちんとできていて、そのリアクション自体に相手に対する気持ちや人物個々の性格がよく表れていました。3人のうち1人が早川を好いてない態度や距離をきちんと演じてたり。全体的によかったのですが、特にうまかったなあと思うのは最後の女将さんと早川(元夫)がぎこちなく会話するシーンで、言葉以上に視線や態度で会話してるんですよね。二人の距離も近すぎず遠すぎずちゃんと意味を持っている。人物距離感と心の距離感もよく考えられていて、静と動をきちんと明確に使い分けている。1行の台詞の中ですらも、トーンの変化、声の強弱、メリハリがきちんとなされていて、ゆるみの演技もきちんとできている。本当に隙がない。

演出面でよかったなと思ったのは女将さんが若い頃を回想するシーンでは声のトーンを変え、早川の髪型や髪の量をも年代を追うに連れ相応に変化させている。見落としがちな細かいところをきちんと配慮することで、大人や時間の流れを的確に表現していて、講評では否定的に言われていたけど若女将と考えれば別段不自然じゃなかったし、むしろとても自然に演じられていたと思います。光の明るさと心情をリンクさせていたところもうまい処理だと感じました。

非常に細かいことですが、缶ビールは底に穴を空けることで中身を空にしておくという処理がされていたため、序盤のシーンでは「空っぽな音」がしてしまったのが残念でした。ラストシーンではそれがなかったので、多分演者も気付いてると思いますが一応指摘。サイダーも空っぽさが少し出てしまったかな。ステージの制約でなければ水入れておいてもよかったように思います(そういう演出を好まないのは知ってますが(苦笑))。

これも細かいことですが、回想シーンでバーのマスターに麻生首相のかぶりものを被せたところはもう出オチで凄まじかったけど、その声を卒業生3人の中で当ててしまうという発想はうまかった。

上演時間が4分ぐらい余っていたので「笑い待ち」してもよかったんじゃないかと。ドッとうけているときに流してしまうと台詞は聞こえなくなってしまうし勿体ない。

全体的に

見事でした。「小難しい劇さえしなければ、新島敵なしか」と思ったものの、この上演で関東いけないのかと結果をきいて恐ろしくも感じました(詳しくは全体感想にて)。

面白かったし、ラストに至る流れも不自然なところはない(ラストを取って付けた感もない)。細部まで演出されていて、何が足りなかったかという逆思考を敢えてするなら、早川と女将さんの関係にエリカが尋ね始めるより前からスポットがあたって、「女将さんと早川の関係」が「エリカとその彼」の関係と対比され、もう少し目立って表現されていればなあというところか。大人と高校生のコントラストとか、近くて遠い存在という距離感とか、純子の父や母に対する気持ちの表現とか。

とはいえ、別に現状の流れでも(個人的には)不満ないんだよなあ。とても面白かった。