2003年度 群馬県大会
- 場所:藤岡市みかぼみらい館 - 大ホール
- 日時:2003年11月8日(土)、9日(日)
- 審査員(敬称略)
- 小宮 正三(城北埼玉高校教諭)
- 大渕 秀代(高崎工業高校教諭)
- 斎藤 理一郎(玉村高校教諭)
- 最優秀賞
- 【関東】安中高校「カレー屋の女」
- 優秀賞
- 創作脚本賞
脚本:岡田 美恵子(生徒創作)
演出:岡田 美恵子
※優秀賞(次点校)/創作脚本賞
「私は世界一のドロボウです」で始まる物語。 なんとそのドロボウは人生を奪うドロボウだった。ドロボウに人生を奪われ自分が 何者かも分からなくなった主人公は? 一体何者?
前半はギャグをふんだんに遣い、個性的な登場人物による掛け合いを組み合わせながら、 人数が増やし、だんだんとドロボウの街へと近づいていく。 ドロボウでオークションにかけられる主人公の人生。 実は強盗だった。そんな人生本当に取り返したいのか? そんな中、一緒にドロボウの街までやってきた警官が 「実は人生を買った人間」であることが分かり……。
劇の主題とも言うべきドロボウの街が出てくるまでが長い。 ドロボウの街、人生のドロボウと言われたら、 観る側としては奪われた人生、を中心に期待してしまう。 そして、人生を買った人間を出すのならば、 なぜ「人生をとられた人」と「人生を奪われた人間」の 対比を物語の主軸に添えなかったのか?
ラスト10分。人生について色々な登場人物の台詞がありますが、 そられの言葉に全く重みがない、軽い。 演技の問題よりも、唐突だというのが一番の原因みたいです。 本来そういうことこそ丁寧に綴るべきであって、 時間不足なのだとしたら、前半の時間をもっと圧縮するべきだと感じました。 タイトルにもなっているのに、ドロボウの街に居る時間が短い。 意図はしていないのでしょうが、 引っ張った分だけ期待が大きくなり「なんだ……」という印象を抱いてしまいました。
以上、話の本筋を慎重に追う限り、創作脚本賞には少々疑問が残ります。 とはいえ、各部はバランスよく書けていて、 演技、演出等、常連だけあり非常に高い完成度で終始楽しめます。 BGMの使い方(フェード等)もうまかった印象あります。
脚本:中村 勉
演出:川合 和子
まずダンスに始まって、次に3名が出てメタシアターについて説明を始める。 メタシアター、劇中に関する演劇、演劇とは何であるかを 演劇によって考えていくための演劇。 それについて説明している姿も、はたして演劇なのか? それとも劇に入る前の説明なのか?
演劇部を舞台に、先輩・後輩の間で演劇についてのやりとりと、 演劇関係の内輪ネタ、分かりやすいところで言えば 「どうせ(コンクールの)優劣なんて審査員の好みだよ」 みたいなものが多数出てくる。 演劇関係者しか笑えないネタに少々疑問を覚えながら、 そんなやりとりが約半分続く。 その後、「エチュードやります」と宣言し、 繰り返しエチュードを上演する。
全体的にテーマとの脈絡が感じられず、 本当に演劇の姿を追求する気があるのかな? と疑問を感じて迎えたラスト近く、 テーマ付近の内容に触れて終わる。 出演者3人は本当によく(素晴らしく)演じられているにも関わらず、 メタシアターとしては少々軽すぎる印象。
劇中に「クレタ人のパラドックス」という台詞があります。 この言葉は「すべてのクレタ人は嘘つきだ」とクレタ人が言った。 このクレタ人は嘘つきか? 正直者か? という問いです。 類似のものとしては「この文章は間違っている」、 さてこの文章は正しいか、正しくないか? というものがあります。 この手の問題をパラドックス(逆説)と言います。 演劇というのは、現実を描いた虚構だし、 虚構なのに舞台の上で実際に起こっている現実です。 このパラドックスを、クレタ人のパラドックスに引っかけて 『演劇』の姿に迫るのが本来の狙いかなと感じました。
余談ですが、矛盾を追求し、 矛盾が抱える問題を分析することで真の姿が見えてくるというのは、 1900年代始め頃、数学(や哲学)の世界でよくやられた手法で、 クレタ人のパラドックスもこの文脈で出てきます。 背理法というのものをご存じでしょうか? 矛盾を導き出す事で、ある事実を証明する方法。 数学の世界で「どんな集合よりも大きな集合が存在する」って証明が 丁度この背理法を用いており、 矛盾によって更に大きな世界の存在を示しています。 そして、この証明法をほんのちょっと変えるだけでパラドックスが得られます。
完全な私情ですが、これを演劇に類推して 「演劇の中から、外の世界(現実)」を描けたならば、と残念に思います。 テーマに対する理解・説明がやや不足した印象を受けてました。 しかしながら、劇としての完成度は高い作品です。
脚本:喜多 淳
演出:大久保 岳
TVのヒーロー物に、演劇的ギャグを取り入れた作品。 笑いを狙っているのは分かるのだけど、不発が多かった様子。 笑える、笑えないの境界は難しいところにあるんだと観ていて感じました。 登場人物達が次々と気持ち独白するあたり、 観客を少し置いて行っている印象を持ちました。 (演技の)動きも適当で、間がうまく計れないのか、 タイミングを伺っている姿を何度も見かけました。 音のつけ方も、何か鳴らしてごまかす、という意図を感じてしまい、 もっと工夫をしてほしいなと感じた作品でした。
脚本:磯田 武久(生徒創作)
演出:磯田 武久
高校の美術室を舞台にして「ミステリーに挑戦」がパンフレットのうたい文句。 コンセプトは良いにしても全体的に不足だらけ。 観ただけでは何を目指したのかすら少々分からなかった。 男子3名によって繰り広げられる主人公との関わり合いが主軸なのですが、 そのどれもが中途半端。お約束の独白あり。 劇中、暗転が非常に多く、 おまけに多くの暗転が「時間跳躍」をしているために最後にならないと意味が分からない。 ミステリーには必要ですか、多少演劇には合わない見せ方のような気もしました。 あまりお客さんを引き込めていない様子で、 物語の導入に「つかみ」がないせいかなと感じました。