吾妻高校「空ヲ飛ブモノ」

原作:鳴宮 友祈(小説『飛行症候群』より)
脚色:松井 由真(生徒)
演出:松井 由真

あらすじ

多発する投身自殺。それは少年――ユキがそそのかしたものだった。 ユキの真意は何なのだろうか。 ベンチでそんな噂話をしている高校生の悟とすみれ(男女)。 そこへ、そのユキがあらわれ「人は空を飛べるか?」と問う。

【以下ネタバレ】

また姉が自殺したという女子があらわれ、 そのままユキにビルの屋上に連れていかれる。 そして、言葉巧みに彼女を自殺に追いやる。 その後、ビル屋上を確認にきたおばさん。 「人は空なんか飛べない」という言葉に、 ユキは手を引っ張っておばさんをビルの外に投げ出す。

そのおばさんはすみれの母で、ビルの屋上を訪れたすみれを暗示にかけ(?)、 ビルから飛び下りさせようとした瞬間、悟が助けに入る。 一騒動あった後、ユキは語りだす。自分の母親が「空を飛べる」と言い、 自殺したことを。二人はそれを非難するも、 そんなユキの考えを『信じる』と答えて、そして別れた。

原作について

タイトルが変更されているため、最初、この台本がどこから生まれたのか分からず苦労しました。(講評の言葉によると)小説のようで、検索して見つけました。原作と言うよりもアイデアのベース、原案という感じのようです。後日、図書館で見つかりましたら読んで要旨と、脚色化の比較をしてみたいと思います。
原作者のWebページ:上演許可のときの話→http://www.enpitu.ne.jp/usr3/bin/day?id=36653&pg=20040803(消失)

#該当、地区大会が9月18日だから……許可取るのが少々遅い気が……。断られたらどうするつもりだったのでしょうか……。

主観的感想

【脚本について】

結構、好みのお話。まあでも……、ひいきは無しで。 ユキという人物は母親が「空が飛ぶ」といって飛び下りたこと、 その言葉をトラウマにしている。 そのために色々な人をそそのかせて飛び下り自殺をさせ、 「本当に飛べる人間を探していた」という自己矛盾オチ。 身も蓋もなく言えば。

ユキという存在を通して示したかった『人は空を飛べる』という言葉は、 おそらく「夢を追いかけ(社会的な抑圧をはねのけ)自由にはばたく」という意味合いがあり、 ラストに「ねぇ、空、飛びたくない?」と言葉を残して終わる。 これが本来のテーマであったとすれば、 単なる自殺の誘発という物語の性格は乖離しすぎです。 もしテーマか推測通りで、 観客の反応の悪さが「単に伝わってないだけ」だとしたら残念でなりません。

また、すみれという人物は、母親が目の前の少年によって殺されているにも関わらず、 ユキを(安易に)受け入れてしまいます。 そういう心理的変化では無理の多い、ハナからそのラインを守る気はないとも言えます。 描こうとしたことは悪くはないし、ムード自体も好きなのですけど、 方法論に問題あり……と。

※上記は劇のもので原作は関係ありません。 また脚本化に当たり、原作の「メール」という要素が完全に削られているようです。 残念なことに、審査員の講評や他の反応を訊く限り「空を羽ばたく」という意味を、 「自由に羽ばたく」ことに対する暗喩であると受け取った人はとても少ないようで、 もしこの解釈が正しいのだとすれば、本当に残念です。

【脚本以外】

台本が難しい――無理な部分があるせいもあるのか、演技が悪い。 通り一片の悲しみの演技や、対話の演技や、肯定の演技。 妹がその母親が殺されたことを知って崩れるシーンは、 その崩れかたがあまりにも型通り過ぎました。 それ以外にも、全体的に演技のメリハリがない。

例えば、悟がカメラを扱うシーンがありますが、大切そう、 大事そうに扱ってるように見えない。 動作(アクション)のリアリティがとことんない、 下手なTVドラマを真似た印象で、敢えてキツく言えば考察不足、手抜き。 それとBGMのフェードアウトができておらず、2回ほどブチって切れた印象を持ちました。

とはいえ特に驚いたのは、ユキ役と悟役の人。 両方とも男役で、観ていて完全に少年だったのですが、 「もしや?」と思ってキャスト表を見たり両方共女性。 キャスト表がなければ思い過ごしで済ませてしまった可能性もあるぐらい、 完璧に少年でびっくりしました(それ以前に女子校らしい)。

結構好きな作品なのですが……、小説の脚本化という点で難航したのかも知れません。

審査員の講評

【中】
  • 男の子の役をした二人を一瞬「本当に男子が演じている」と一瞬感じてしまった。
  • キャスト全員、発声などがきちんと出来ており、うらやましかった。
  • 小説を脚色したのが大変だったのではないか。
  • ユキのやっていることが「いいのか?」と感じてしまった。
  • スミレは母親が死んで屋上にやってきているのに、普通すぎた。 もっと悲しんだり、怒ったりするのではないか。
  • 舞台は屋上の感じが出ていてよかったが、もう少し縁を高くしてもよかったかなと感じた。
  • ユキが一人残ってみんな死んでいくので、怖くてドキっとさせられた。
【掘】
  • 観ていて非常に怖くて、少年ユキを殴りたい衝動にかられた。 許せないと感じた。
  • 少年ユキの内面をもっと描いてほしい。
  • 脚色というのは元があるので一見楽そうに感じられるが、 作者の意図を汲んだ上で自分の世界を広げる必要があるため結構大変。 (また、まず本を書くときは場面を1ヶ所に固定することを考える)
  • ラスト「ねぇ、空飛びたくない」で終わり、 自殺の話は結構あるが、今回の劇は本当に怖くてどうしようかと思った。
【原】
  • 役者の台詞と発音がとても綺麗だった。
  • であるだけに、ストーリー展開の面白さというものに若干不足を感じてしまった。
  • どう終わるのか、という点について、良い意味でも期待を裏切った。
  • 暗転時が丁度BGMの谷間になっていて、舞台装置を運ぶ音が気になった。