新潟中央高校「全校ワックス」

脚本:中村 勉
演出:斉藤志穂美

あらすじと概要

校内をワックスがけすると集められた5人の生徒。互いに会話をしながら……。

主観的感想

2006年に甲府昭和高校が全国大会で上演した台本みたいです(昨年度南関東突破作品ということ)。

大変申し訳ありませんが、旅の疲れが出たこともあり途中で寝てしまい、全体について何か述べることはできません。細かい点のみ記述したいと思います。

細かい点

  • 最初のチャイムがフルサイズで流れるのだけども、長いので半分サイズでよいと思う。
  • 全体に間延びしたムードの劇で、オーバーなシーン、例えばブリっ子キャラがおちゃらけるシーンとか、そういうところはオーバーに演じていいと思う。若干恥ずかしさが感じられた。
  • ほうきがけ、雑巾がけがいい加減で、もちろんリアルな高校生という意味ではやる気なく掃除というのもあるのだとおもうけど、やる気ない演技なのかはっきりせず、やる気ある演技だけど動きがいい加減という印象を受けた。
  • 個性付けしようとして失敗している感じがあり、上辺だけの演技になってしまっているように感じた。掃除への熱の入れ方、例えば、ほうきがけ一つとっても個性を出せたのではないか? みんな画一的な動作をしていたように感じる。
  • 洗剤やワックスを小道具として(あたかも中身が入っているかのように)持ってくるのだけど、その持ち方がいい加減。きちんと中身が入っているように持ちましょう。
  • 掃除道具の扱い方が全体に雑な印象をうけた。キリっと(必要な)メリハリは付けてほしかった(おそらくある程度抜けたムードを狙ったものだと思うので)。
  • 全体に(というか前半を通して)演じるところは演じる、バカをやるところは照れずにバカをやる、真面目なところはくそまじめにという区切りみたいのを意識できたら印象は随分変わったんじゃないかと思います。

審査員の講評

【担当】森脇 清治 さん
  • 舞台全体にベタっとした照明が当たっていて、廊下に緊張感がなかった。廊下を明かりの中心にしたら随分変わったのでは。
  • お掃除やワックスがけがいい加減で、その嘘が気になって台詞に集中できなかった。
  • 顔を見るとき視線が下がっていたので、上げるようにした方がいいと思う。

長野西高校「めぐるめぐる梶の葉たち」

原案:宮端 優子
脚本:演劇部(生徒創作)
演出:大谷 万悠

あらすじと概要

戦時中の高校で女子3人の青春を描く。

主観的感想

学校の昔の文集(でみつけたいい話)を元とした、戦時中の劇です。舞台写真は高校のページ参照

パンフレット等によると昭和20年の設定とのことですが、それにしては元気で陽気すぎたように思います。お話としては、戦争へ将校への千人針と学校が軍人たちに使われてしまうことに対する「綺麗に使ってください」という女子たちの必死の嘆願という2本柱になっています。

舞台装置ですが、斜めに置かれた6面体の手前2面と上1面をハズした形の空間を教室と見立ています(上記写真参照)。舞台では、役者たちが袖ではなく装置の裏に引っ込みます。この意味が全く分かりませんでした。装置の近くまで内幕を引いてしまい、袖に引っ込めばよかったと思います。そのせいで袖から装置裏手まで移動する人物が見えるなど無理が生じていました。

戦時中という設定にしては、床が綺麗すぎ、ほうきも上履きも、まして制服も何もかも綺麗すぎました。役者の切迫感、装置、ストーリーの中の「弁当」の中身、どれ1つとっても戦中ということを台詞の文章以外で説明できなかった、演出できなかったことが最大の問題でしょう。そのため、戦時下のしかも終戦間際の切迫したムードというものがどこからも感じ取れず、この演劇をリアルに見せることに失敗しました。もっと必死に戦中のことを調べないとダメです。また、ラストシーンで現代の演劇部部室へ戻り、この物語の成り立ちに関する話を述べるのですが、この部分ははっきり言って蛇足という印象を受けました。

あくまで印象ですが、いっそ、現代の「私たち」が戦中にワープしてその視点を通して戦中を描くぐらいの方が話として伝わりやすかったのではないでしょうか。いいエピソードの文集をみつけて、それを翻訳し必死に伝えようとした気持ちはとてもよく分かりますし、その努力も大変だったと思うのですが、では実際それがどの程度伝わったのかというと「ああいいお話を見つけたんだね」以上の感想を持つには難しいかと思います。

細かい点

  • この高校も演技のテンポが一定で、メリハリがなく、間もイマイチな印象を受けました。資料室を参考にしてください。
  • 登場人物も顔をメイクしていたように感じます。メイクで血色悪く見せるなら分かるんですが綺麗にしていたのでは、メイクするほど余裕があったの? 戦中なのにそんなに血色がよいの? と感じました。

審査員の講評

【担当】勝島 譲吉 さん
  • 学校史をドラマを作るというのはよくあるのだけど、自分たちのドラマにしようという熱気は伝わってきた。
  • 現代の部分をふくらますことでもっと良くなったのではないか。
  • 声がよく出ていて、姿勢も良かった。
  • 話の筋として、校舎の存続と千人針があったんだけど、最終的には「校舎の存続」に傾いて、千人針の方がおざなりになってしまった。
  • 校舎を綺麗に使ってくださいとお願いにいくとき、千人針を握りしめていてもよかったのでは。
  • セットに窓があるんだけど、夕陽が映り混んでいるとき先生が歩いてきて、窓の向こうが廊下なのか外なのか分からなくなった。
  • 建物のセットが周りの明るさで浮いてしまった感じがする。建物だけを中心とした照明でも良かったのでは。

新潟商業高校「父さんといっしょの地中海」

脚本:赤間 幸人
演出:福嶋ちひろ

あらすじと概要

主人公美咲と母と、アルツハイマーになってしまった父の物語。

主観的感想

この高校も演技にメリハリがないなという印象でした(資料室参照)。リアル志向で演じていたと思うんですが、演劇のリアルと実際日常生活とはわざすに差があって、わずかとは言っても越えられない壁です。役がいまいち読みこなせてないなという印象で、オーバーなところはもっとオーバーにしてよかったのではないかと思います(やり過ぎるとマズいのは確かですが)。

役が読みこなせてない最大の原因ですが、アルツハイマーに対する下調べが大変不足しています(または調べていない)。アルツハイマーの家族に取材したり、老人ホームなどに取材するなどしてほしかった。それが困難であるならせめて、アルツハイマーなどについて取り上げたビデオ映像(や映画)などを借りたり、関連する本を10冊ぐらい読むとかじっくり研究して欲しかったです。アルツハイマーとはどういう病気であるか、それに振り回される家族とは一体どんな心境であるか。この劇の根幹に関わる最も重要な点を「おざなり」にしたことが、リアリティを生み出せなかった原因です。

厳しいようですが、何かについて語ろうと思ったら(人に伝えよう、教えようと思ったら)、まず最初に下調べに相当の時間をかけるものです。下調べに下調べを重ね、完全に自分の中に核としたゆるがないイメージができあがったとき、初めてやっと演技について考えることができます。アルツハイマーってどんな感じなんだろう? と、少しでも不安があったら再度納得するまで調べなきゃいけないのです。そういう追求心が表現にはとても大切です。

また演出面ですが、何を狙ったのか全体によく分かりませんでした。この劇で最も大切なことは、アルツハイマーという病気に振り回される家族と、無自覚(?)な父親という悲壮感をいかにして演出するかだと思うのですが、ともすればお父さんのボケが単なるボケキャラにしか映りかねない状況となっていました。この「悲壮感」がうまく成立しなかったために、ラストシーンでの希望があまり印象的にならなかったのだと思います。

細かい点

  • 部屋がやけにだだっ広くなってしまったので、照明で範囲をしぼるなどしてほしかったところです。こぢんまりと寄り添ったムードがでると、家族の結びつきみたいのが見えてよかったと思います。
  • 部屋に置かれている時計を、電池が入った状態で置いてしまったことは問題でした。実時間(+20分ぐらい)で動く本物の時計(場面転換しても変わらない)を見るたびに現実に引き戻されてしまいます。手動で時計の時刻を変えるか、それができないならば時計を置いてはいけません。
  • (前半の)電話でのやりとりと、その裏での家族の会話というシーンで、どちらも同じ声量で話すためどっちを(観客に)聞かせたいのかよく分かりませんでした(どっちも聞き取りにくかった)。
  • 装置のパネルが低いです。あと少し高くした方がいいと思います。

審査員の講評

【担当】土屋 智宏 さん
  • このお話は心で伝わってきたと思います。
  • 父も母もいい役でよかった。娘役をよかったと思う。
  • この劇をどうやって見せていくかと考えたとき大切なことですが、小さな積み重ねが全体としてリアルを出します。ですが、この劇の装置は居間にしては広すぎて奥行きがありすぎたし、壁に掛かっている時計が劇進行とは無関係に時を刻んでいるのが気になりました。小道具とか、メイクというのは、小さいリアルを積み重ねていく道具なのだから、きちんと気を遣ってほしい。
  • 劇というのはあらゆるものから自由である。
  • アルツハイマーの人の想いを描くとき、どうやって作っていくんだとなって、やっぱり実際に見に行って話を聞いてくるということをしなきゃならない。

筑波大学付属坂戸高校「濃縮還元~彼女はなぜ化粧をするのか~」

脚本:演劇部(生徒創作)
演出:3年生

あらすじと概要

爆弾……かなを中心として、翻弄される人々の様子を多面的に描いた作品です。

主観的感想

筑坂の方々には申し訳ないですが、正直な感想を書きます。去年の劣化コピーだと言わざるを得ません。やっていることは去年と一緒です。メインターム的なキーワードを投げかけながら10~20のシーンを細かく切り取り重ね合わせ、1つの話とするという形です。しかも去年の方がよっぽど面白かった。

講評でも述べられていましたが、「いかにも壮大な裏ストーリーがあって全体が纏まっているかのように装っている断片の固まり」にしか見えません。いやもしかしたら、万が一にきちんと計算されたストーリー構成が一見何の脈絡もない話構成の中に隠れていて、それを紐解くことでテーマが明確に浮かび上がるのかもしれません。かもしれませんが、例え重厚な意味が存在したとしても観客に伝わらない意味は存在しないのと同義です

ストーリーなんてものは、タイトルなんてものはさして重要ではないという姿勢について意を唱えるつもりはありません。ですが、今回のこの作品の作り方、演出の仕方は、大雑把なテーマに対し脈絡の薄いシーンを構成し、演劇技術力(例えば美しい照明処理、場転)を総動員してともすれば技術の無駄遣いを行っています。描き方が潔くないのです。言いたいことがあるなら、こんな遠回しなことをしないではっきり言えばいい(表現すればいいという意味)。言いたいことがないなら、それをまたはっきり表現すればいい。それだけの技術があるのに、釣り針1万本持ってきて湖全体に投げ込むような、安易な舞台の作り方はどうかと思います。

言わんとしていることが分かりにくいと思うので、別の角度から書いてみます。美術的な美しさ、シーン構成(シーンの繋ぎ方)としての面白さ、脈略がないことによる楽しさ、各シーンの持つ風刺的な意味、多重に解釈できる楽しさ、などにとんでもない力の入った演劇だと思います。演劇として面白い要素をたくさんたくさん詰め込んでいます。ただ、それらをつなぎ合わせたときに浮かび出る意味、全体として描写される内容、という面で演出的(話構成的)配慮が非常にいい加減であり、見方によってはそもそも全体としての構成を放棄してると取れる(そうとしか取れない)内容なのです。もちろん放棄すること自体は何ら悪いことはありません。ですが、堂々と放棄するのではなく、あたかも「全体として構成されている」ように装ったことが問題なのです。潔くないのです。

個人的には、演劇技術的には今大会で一番だと思われた(最優秀賞も充分あり得ると思われた)本作品を、入賞すらさせなかった審査員の方々の英断に拍手したいところです。

細かい点

  • 開幕時のSEやBGMがうるさかった。せめてあと3dB下げてほしかった。
  • ドクターの持っているライフルがいかもに偽物(軽そう)だった。
  • かけあいの間が早いため、笑う隙がない。笑うタイミングを自ら殺している。去年はもっと爆笑が起こっていました。
  • 張りの笑いばかりで、ゆるみの笑いが全くなかった。
  • 20分ぐらいで飽きてくる。
  • 話の重要な道具である「地雷」ですが、人を傷つける能力はあっても殺す能力はないのでは?
  • 光の使い方、場面演出などを単独でみれば、今大会イチの出来。

審査員の講評

【担当】オーハシヨースケ さん
  • 一体僕たちをどこに連れて行ってくれるんだろうというハラハラ感があった。
  • 20世紀は劇をパズルのように壊していく時代だった。日常というのは反射的に理解されるもので、劇というのは新鮮に出会いたいためにわざとずらしていくものだと思う(編注:記憶曖昧)。
  • この作品ではパズル壊しに力を入れて、何に新鮮にであってほしかったのか分からなかった。
  • 風の音がよかった。
  • 照明もよかったけど、でも使いすぎたと思う。