筑波大学付属坂戸高校「濃縮還元~彼女はなぜ化粧をするのか~」

脚本:演劇部(生徒創作)
演出:3年生

あらすじと概要

爆弾……かなを中心として、翻弄される人々の様子を多面的に描いた作品です。

主観的感想

筑坂の方々には申し訳ないですが、正直な感想を書きます。去年の劣化コピーだと言わざるを得ません。やっていることは去年と一緒です。メインターム的なキーワードを投げかけながら10~20のシーンを細かく切り取り重ね合わせ、1つの話とするという形です。しかも去年の方がよっぽど面白かった。

講評でも述べられていましたが、「いかにも壮大な裏ストーリーがあって全体が纏まっているかのように装っている断片の固まり」にしか見えません。いやもしかしたら、万が一にきちんと計算されたストーリー構成が一見何の脈絡もない話構成の中に隠れていて、それを紐解くことでテーマが明確に浮かび上がるのかもしれません。かもしれませんが、例え重厚な意味が存在したとしても観客に伝わらない意味は存在しないのと同義です

ストーリーなんてものは、タイトルなんてものはさして重要ではないという姿勢について意を唱えるつもりはありません。ですが、今回のこの作品の作り方、演出の仕方は、大雑把なテーマに対し脈絡の薄いシーンを構成し、演劇技術力(例えば美しい照明処理、場転)を総動員してともすれば技術の無駄遣いを行っています。描き方が潔くないのです。言いたいことがあるなら、こんな遠回しなことをしないではっきり言えばいい(表現すればいいという意味)。言いたいことがないなら、それをまたはっきり表現すればいい。それだけの技術があるのに、釣り針1万本持ってきて湖全体に投げ込むような、安易な舞台の作り方はどうかと思います。

言わんとしていることが分かりにくいと思うので、別の角度から書いてみます。美術的な美しさ、シーン構成(シーンの繋ぎ方)としての面白さ、脈略がないことによる楽しさ、各シーンの持つ風刺的な意味、多重に解釈できる楽しさ、などにとんでもない力の入った演劇だと思います。演劇として面白い要素をたくさんたくさん詰め込んでいます。ただ、それらをつなぎ合わせたときに浮かび出る意味、全体として描写される内容、という面で演出的(話構成的)配慮が非常にいい加減であり、見方によってはそもそも全体としての構成を放棄してると取れる(そうとしか取れない)内容なのです。もちろん放棄すること自体は何ら悪いことはありません。ですが、堂々と放棄するのではなく、あたかも「全体として構成されている」ように装ったことが問題なのです。潔くないのです。

個人的には、演劇技術的には今大会で一番だと思われた(最優秀賞も充分あり得ると思われた)本作品を、入賞すらさせなかった審査員の方々の英断に拍手したいところです。

細かい点

  • 開幕時のSEやBGMがうるさかった。せめてあと3dB下げてほしかった。
  • ドクターの持っているライフルがいかもに偽物(軽そう)だった。
  • かけあいの間が早いため、笑う隙がない。笑うタイミングを自ら殺している。去年はもっと爆笑が起こっていました。
  • 張りの笑いばかりで、ゆるみの笑いが全くなかった。
  • 20分ぐらいで飽きてくる。
  • 話の重要な道具である「地雷」ですが、人を傷つける能力はあっても殺す能力はないのでは?
  • 光の使い方、場面演出などを単独でみれば、今大会イチの出来。

審査員の講評

【担当】オーハシヨースケ さん
  • 一体僕たちをどこに連れて行ってくれるんだろうというハラハラ感があった。
  • 20世紀は劇をパズルのように壊していく時代だった。日常というのは反射的に理解されるもので、劇というのは新鮮に出会いたいためにわざとずらしていくものだと思う(編注:記憶曖昧)。
  • この作品ではパズル壊しに力を入れて、何に新鮮にであってほしかったのか分からなかった。
  • 風の音がよかった。
  • 照明もよかったけど、でも使いすぎたと思う。