作新学院高校「ナユタ」

脚本:大垣ヤスシ(顧問創作)
演出:森本 浩予
※優秀賞、創作脚本賞

あらすじと概要

おじいちゃんとお父さん、姉と弟の4人家族。ある日突然、お父さんが再婚相手(候補)を連れてくるという。なんと現れたのは、ベトナム人のナユタという女の子。大反対する姉だったが……。

主観的感想

講評でも触れられていましたが、おじいちゃんが非常に美味しいキャラであり爆笑を誘っていました。笑いでお客を掴みつつ、再婚とそれに反対する姉、だんだんと家族に受け居られる素直なナユタという存在が非常に丁寧に描かれていました。ベタな話構成ではありますが、大変面白い演劇だったと思います。

幕が開いてざっと散らかった部屋(居間)がよく作り込まれており、それを暗転せず、片づけるシーンとして黒子を登場させコメディ仕立てに部屋を綺麗にさせたあたりの処理はすばらしかった。途中、ナユタとおじいちゃん、姉「みか」とナユタが将棋で戦うシーンがあるのですが、いい加減に動かすのではなく棋譜を覚えた上できちんとコマを動かし会話を重ねていました。こういう細かい細かい演劇的な嘘の積み重ねがあってこその、非常にアットホームで完成度の高い芝居を成立させていたと思います。

しかし、難点をあげるとすればやはりラストに係る処理です。結局物語りの争点はナユタを拒否する姉と他大勢という構図に落ち着くわけですが、姉「みか」が終盤に向けて早々にナユタを受け入れに傾くため、物語の軸が飛んでしまいます。そこに突然登場するおばさんによるナユタの過去の暴露という状況になるわけですが、(オバさんが初登場であることもあり)取って付けた感は否めません。

またこのシーンになると、ベトナム戦争の話、娼婦だった話などが出てくるのですが、ナユタというこの劇には大きすぎる要素だった気もします。話を展開させるために、やや安易に使った感じがあり、このシーン付近でのお父さんの「ナユタを愛してる」という台詞も実感がまるでこもっていません(それは演技もありますが、それ以前に台本内で描写され演出されてないからです)。同様に、その後の夜の公園(?)シーンでの父の独白が説得力をあまり感じられず、全体として面白かったけど結局なんの話だったの? という印象は拭えないと思います。あくまでナユタを含めた家族の物語として、ベトナム戦争ほど大層な言葉を安易に使わず処理されたなら、また違った印象を受けたかもしれません。

ナユタの外国人っぽさ(演技もメイクも上手かった)を含め、そのキャラクターが強く印象に残った演劇であり、色々書きましたが十分に面白かったと思います。

細かい点

  • 劇中で隣の部屋のテレビの音が鳴るシーンがあり、この音がまたよくリアルに作ってある(実際にとなりの部屋=袖でならしている)。
  • 暗転時は健太(弟)のナレーションで劇が進行するのだけど、もう少し語り口調に味(おちつきとか)があってよかったと思う。
  • ナユタの過去の出来事回想シーンのとき、(その前のシーンで勝負に使った)将棋盤が出っぱなしというのは気になった。欲を言えば小道具なども回想ごとに少しずらしていたらよかったかな。

審査員の講評

【担当】安田 夏望 さん
  • とても良かった。
  • 書く登場人物の個性がよく出ていて、特におじいちゃんが良かった。
  • 動きとか間とか早回しとかとてもよく出来ていていた。
  • ナユタによって空いた心の穴を埋めていった物語だと思う。
  • 見せ転換で将棋を真っ先に片づけていたけど、あれはあえて最後に残すことで余韻を出してもよかったのでは。
  • 最後の襲われるシーンでナユタが姉を助けるのだけど、ナユタが切られた方が衝撃的でよかったのでは。
  • 部員みんながよく協力し舞台を作っていたと思う。

長野西高校「めぐるめぐる梶の葉たち」

原案:宮端 優子
脚本:演劇部(生徒創作)
演出:大谷 万悠

あらすじと概要

戦時中の高校で女子3人の青春を描く。

主観的感想

学校の昔の文集(でみつけたいい話)を元とした、戦時中の劇です。舞台写真は高校のページ参照

パンフレット等によると昭和20年の設定とのことですが、それにしては元気で陽気すぎたように思います。お話としては、戦争へ将校への千人針と学校が軍人たちに使われてしまうことに対する「綺麗に使ってください」という女子たちの必死の嘆願という2本柱になっています。

舞台装置ですが、斜めに置かれた6面体の手前2面と上1面をハズした形の空間を教室と見立ています(上記写真参照)。舞台では、役者たちが袖ではなく装置の裏に引っ込みます。この意味が全く分かりませんでした。装置の近くまで内幕を引いてしまい、袖に引っ込めばよかったと思います。そのせいで袖から装置裏手まで移動する人物が見えるなど無理が生じていました。

戦時中という設定にしては、床が綺麗すぎ、ほうきも上履きも、まして制服も何もかも綺麗すぎました。役者の切迫感、装置、ストーリーの中の「弁当」の中身、どれ1つとっても戦中ということを台詞の文章以外で説明できなかった、演出できなかったことが最大の問題でしょう。そのため、戦時下のしかも終戦間際の切迫したムードというものがどこからも感じ取れず、この演劇をリアルに見せることに失敗しました。もっと必死に戦中のことを調べないとダメです。また、ラストシーンで現代の演劇部部室へ戻り、この物語の成り立ちに関する話を述べるのですが、この部分ははっきり言って蛇足という印象を受けました。

あくまで印象ですが、いっそ、現代の「私たち」が戦中にワープしてその視点を通して戦中を描くぐらいの方が話として伝わりやすかったのではないでしょうか。いいエピソードの文集をみつけて、それを翻訳し必死に伝えようとした気持ちはとてもよく分かりますし、その努力も大変だったと思うのですが、では実際それがどの程度伝わったのかというと「ああいいお話を見つけたんだね」以上の感想を持つには難しいかと思います。

細かい点

  • この高校も演技のテンポが一定で、メリハリがなく、間もイマイチな印象を受けました。資料室を参考にしてください。
  • 登場人物も顔をメイクしていたように感じます。メイクで血色悪く見せるなら分かるんですが綺麗にしていたのでは、メイクするほど余裕があったの? 戦中なのにそんなに血色がよいの? と感じました。

審査員の講評

【担当】勝島 譲吉 さん
  • 学校史をドラマを作るというのはよくあるのだけど、自分たちのドラマにしようという熱気は伝わってきた。
  • 現代の部分をふくらますことでもっと良くなったのではないか。
  • 声がよく出ていて、姿勢も良かった。
  • 話の筋として、校舎の存続と千人針があったんだけど、最終的には「校舎の存続」に傾いて、千人針の方がおざなりになってしまった。
  • 校舎を綺麗に使ってくださいとお願いにいくとき、千人針を握りしめていてもよかったのでは。
  • セットに窓があるんだけど、夕陽が映り混んでいるとき先生が歩いてきて、窓の向こうが廊下なのか外なのか分からなくなった。
  • 建物のセットが周りの明るさで浮いてしまった感じがする。建物だけを中心とした照明でも良かったのでは。

筑波大学付属坂戸高校「濃縮還元~彼女はなぜ化粧をするのか~」

脚本:演劇部(生徒創作)
演出:3年生

あらすじと概要

爆弾……かなを中心として、翻弄される人々の様子を多面的に描いた作品です。

主観的感想

筑坂の方々には申し訳ないですが、正直な感想を書きます。去年の劣化コピーだと言わざるを得ません。やっていることは去年と一緒です。メインターム的なキーワードを投げかけながら10~20のシーンを細かく切り取り重ね合わせ、1つの話とするという形です。しかも去年の方がよっぽど面白かった。

講評でも述べられていましたが、「いかにも壮大な裏ストーリーがあって全体が纏まっているかのように装っている断片の固まり」にしか見えません。いやもしかしたら、万が一にきちんと計算されたストーリー構成が一見何の脈絡もない話構成の中に隠れていて、それを紐解くことでテーマが明確に浮かび上がるのかもしれません。かもしれませんが、例え重厚な意味が存在したとしても観客に伝わらない意味は存在しないのと同義です

ストーリーなんてものは、タイトルなんてものはさして重要ではないという姿勢について意を唱えるつもりはありません。ですが、今回のこの作品の作り方、演出の仕方は、大雑把なテーマに対し脈絡の薄いシーンを構成し、演劇技術力(例えば美しい照明処理、場転)を総動員してともすれば技術の無駄遣いを行っています。描き方が潔くないのです。言いたいことがあるなら、こんな遠回しなことをしないではっきり言えばいい(表現すればいいという意味)。言いたいことがないなら、それをまたはっきり表現すればいい。それだけの技術があるのに、釣り針1万本持ってきて湖全体に投げ込むような、安易な舞台の作り方はどうかと思います。

言わんとしていることが分かりにくいと思うので、別の角度から書いてみます。美術的な美しさ、シーン構成(シーンの繋ぎ方)としての面白さ、脈略がないことによる楽しさ、各シーンの持つ風刺的な意味、多重に解釈できる楽しさ、などにとんでもない力の入った演劇だと思います。演劇として面白い要素をたくさんたくさん詰め込んでいます。ただ、それらをつなぎ合わせたときに浮かび出る意味、全体として描写される内容、という面で演出的(話構成的)配慮が非常にいい加減であり、見方によってはそもそも全体としての構成を放棄してると取れる(そうとしか取れない)内容なのです。もちろん放棄すること自体は何ら悪いことはありません。ですが、堂々と放棄するのではなく、あたかも「全体として構成されている」ように装ったことが問題なのです。潔くないのです。

個人的には、演劇技術的には今大会で一番だと思われた(最優秀賞も充分あり得ると思われた)本作品を、入賞すらさせなかった審査員の方々の英断に拍手したいところです。

細かい点

  • 開幕時のSEやBGMがうるさかった。せめてあと3dB下げてほしかった。
  • ドクターの持っているライフルがいかもに偽物(軽そう)だった。
  • かけあいの間が早いため、笑う隙がない。笑うタイミングを自ら殺している。去年はもっと爆笑が起こっていました。
  • 張りの笑いばかりで、ゆるみの笑いが全くなかった。
  • 20分ぐらいで飽きてくる。
  • 話の重要な道具である「地雷」ですが、人を傷つける能力はあっても殺す能力はないのでは?
  • 光の使い方、場面演出などを単独でみれば、今大会イチの出来。

審査員の講評

【担当】オーハシヨースケ さん
  • 一体僕たちをどこに連れて行ってくれるんだろうというハラハラ感があった。
  • 20世紀は劇をパズルのように壊していく時代だった。日常というのは反射的に理解されるもので、劇というのは新鮮に出会いたいためにわざとずらしていくものだと思う(編注:記憶曖昧)。
  • この作品ではパズル壊しに力を入れて、何に新鮮にであってほしかったのか分からなかった。
  • 風の音がよかった。
  • 照明もよかったけど、でも使いすぎたと思う。