高崎東高校「ステップ」

作:高崎東高校演劇部(創作)
演出:(表記なし)

あらすじ

NEET(ニート)の兄、妹、母親、単身赴任で家にいない父親の家族コメディ劇。兄は昆虫にはまっていて、最近の行動はなんだかよく分からない。そこに近所でおこる不審な誘拐事件の犯人として兄が疑われているという噂が舞い込んでくる。兄と父親が昆虫の幼虫のことで電話してるのを盗み聞きした母が、てっきり兄が子供を誘拐したものと勘違いして……。

主観的感想

【脚本について】

コメディの王道かな。電話の会話を母親に盗み聞きさせ、兄を誘拐犯と勘違いさせるなどの作りはうまく出来ていました。講評でも述べられているとおり、おっとりな母親、元気な妹、NEETの兄という人物の色づけがうまく出来ています。

その一方でやっぱりこれも話全体としては無理があります。家族劇、青春劇だと思うんですが、出てくる人物のキャラ立てはうまくできているのに深みや背景がない。最終的に昆虫好きの兄は北海道に単身赴任している父親の元へ引っ越すという結論を出すのですが、そこに至る葛藤やら、なんでNEETなのかといった描写、そんな兄のことを母や妹はどう想っているのかなど、そういうドラマが全くありません。

では全編とおしてコメディなのかというと、コメディとして見たときも中途半端。「60分笑いっぱなし」とはいきません。作者が演劇部表記であることや内容から推測して、多分話を構成したというよりは数珠繋ぎにシーンを作って繋げていったのではないかと思うのですが、それだけに非常に散漫な作りになってしまいました。

【劇について】

後ろに幕を張って、その前に家財道具を置くことで家に見立てているのですが、やっぱりパネルがほしい。壁があって囲ってしまわないと家という感じはどうにもしません。照明のあたる範囲を狭めればよかったのでしょうが、どこの高校もそういうことをしていなかったので、おそらく照明のあたる部分を絞れない舞台(照明装置)だったのでしょう。

笑いを狙っているのですが、全体に微妙な笑いです。というのも台詞と台詞に「間」がほとんどなく、台詞のテンションがほとんど一定だから「ゆるみ」などがなく見ていて飽きてくるのです。コメディとして中途半端になった原因はここにもあると思います。唯一電話で父とやりとりするシーンは一番おいしく面白かったんですが、他が散漫すぎてしまったといえるでしょう。あと電話の声、少し大きかったかな。

【全体的に】

ドラマ性がなくテンポが一定だと、もうそれは飽きるしかなくなるわけで、そういう意味で勿体ない劇でした。とはいえ1つ前の市立前橋同じく、全くなってない悲惨なものかと言うとそうではなく、劇にはなっていますし初歩的なミスや致命的な演技の欠陥もありません。逆に言えば、それぐらいドラマ性がないシナリオと、テンションの変わらない芝居が悪影響するということを示した典型例とも言えます。全体に一生懸命になりすぎたあまりの失敗かもしれませんね。

とにかく、演じるときのテンションを変化させること、台詞と台詞のあいだにある「間」を大切にすること(練習を録音して自分たちで聞いてみること)、この2点を注意するだけでかなり変わるのではないかと思います。それだけやってもよく分からなかったら、さらに県大会上位の上演やプロの上演、全国大会の上演などを「間」や「テンション」に着目して見てみるといいでしょう。

審査員の講評

【担当】小堀 重彦 先生
  • 面白い台本で、着想が優れていると思う。
  • 父は北海道へ単身赴任、おっとりした母、サクサクとした感じの妹、主役のカブトムシのかぶり物(よく出来ていた)を被った兄。それぞれキャラが違うというのは良いドラマのポイントになっていた。
  • カブトムシの子供を間違えて殺してしまったという兄の電話を、(人間の)子供を殺したと勘違いした母や、事実が分かったときの母の戻りかたもほんわかしていた。
  • ラストシーンのあと、なつき(兄)は昆虫学者になったのかな、何になったのかなと今後を想像させた。
  • シーン最初で扇風機で声が変わるところがあったが、ややしつこいように感じた。しかも客席ではそんなに声が変わったように聞こえなかった。
  • いたって普通な家庭環境から立ち上げて60分よく作ってあった。

筑波大坂戸高校「絶対矛盾的緑望論序説 ~ようこそグリーンマンパラダイス~」

脚本:演劇部(創作)
演出:(表記なし)
舞台監督:徳山 望

※優秀賞、創作脚本賞

あらすじと概要

「おじいさんとおばあさんはグリーマンになることになりました」とやってくる役所の職員。「この度、公務員の妻はグリーマンになることになりました」それに反対する主婦達。グリーンマンって何? 「グリーンマンバンザーイ」。グリーンマンはいい人なの? 家庭、幼稚園、公演と様々に変わる場面の中、グリーンマンの真実が徐々に明かされて……。

主観的感想

暗転回数は20回近いと思います。それだけ暗転が多くてそれでも成り立っている創作脚本を初めてみました。そのことにまず驚きです。その暗転の主要な役割を果たしているのが男子が演じる女子高生役で、それがギャグキャラとなり場繋ぎの役割を果たしています。舞台を手前と奥に分け、暗転の最中は手前にその女子高生役をおいて他の登場人物と寸劇を交わすことで、時間繋ぎをしている。こういう舞台の使い方も見事だし、シーンの切り方もうまいと。唸ってしまいました。

まあでもいくつ。女子高生役の男子の台詞の滑舌が気になりました。なんだろう少し粘る感じの発音で、しゃべり方というよりその人がそういう感じだというだけなんでしょうが、気にはなってしまいました。また「椅子屋ー、椅子屋ー」というかけ声で椅子屋さんが出てくるのですが、始め「椅子」と聞き取れませんでした。

全体の演技や演出は大人数でありながらよく作り込んできていて、カット割りの素早さを演劇できちんと成立させてみせたあたりが一番驚いたかな。個々人の役者もよく頑張っていました。ただまあ、お話としては「グリーンマン」というキーワードと多くの場面を通して、多面的に「人の持つ役割とはなんだろう?」ということを投げかけた劇だと思いますが、それにしては軽かったというか、上辺を舐めただけという印象。面白かったけど、あと足りないものは何ですかと言われたら、即答で演劇としての深み、そして起承転結と答えたくなる、そういうお演劇でした。でもその点を除けば、お話作りとしても完成度であり、大きな破綻もなく、創作脚本賞であることも頷けます。演劇としてもよく出来ていました。

審査員の講評

【担当】青木
  • スモークと黒子と美しく始まって大変綺麗でした。
  • 本でも読んだけど、劇では照明の使い方や人物配置のセンスとかラストの風鈴とか配慮がされている。
  • 「いらない人間をグリーンマン化」するというのが、現代人への風刺、警鐘になっていたと思う。全体的にみれば意味がないし論理的にはつながったないのだけど、それでもよくこちらに伝わってきた。
  • 全体的にうまくテンポ良かっただけに、ラスが少し間延びした印象。もっと切ってもいいんではないかな。全部言ってしまわないで、ラストを観客に想像させてほしい。
  • 女装して女子高生してた工藤君かな? 滑舌がすごく悪かった。自分もそれで苦労したのだけども、口先でしゃべらないように気を付けるといいとおもう。もし僕の方法が気になるならあとで聞きにきてください。
  • 全体に感じるところの多い作品でした。

作新学院高校「TSUBASA」

脚本:大垣 ヤスシ(顧問創作)
演出:仁科 朋晃

※優秀賞

あらすじと概要

理科準備室の準備室「開かずの部屋」。そこに忍び入った女子3名は、はしゃいでるうちにそのまま中に閉じこめられてしまった。助けを呼ぶためコータローに携帯から電話をする。コータローはサトコの幼なじみで、マナミの好きな人。マナミはスケッチブックにコータローの絵を描いていた。助けに来たコータローに大してカメ(亀田)が気を遣ってくっつけようとするのだけど……。

主観的感想

まず真っ暗な狭い空間。「開いた」という声と共にドアが開きあかりが差し込む。「真っ暗で何も見えないよ」という言葉に応じて部屋の電気を付ける。パッと明るくなる狭い準備室の雑然とした空間。こんな始まりの演劇で、説明台詞の応酬が気になって仕方ありませんでした。ラストシーン近くでも「夕陽きれいー」とかも、台詞で直接説明せずに、比喩的に表現して事実を感じさせるとか、台詞のリアリティをちょっと研究してほしいなと気になって仕方ありません。

さて、演劇の方。「作新で初めての女子高生等身大もの」(パンフより)ということで、3名の主役、サト子という普通キャラ、マナミという恥ずかしがり屋内向キャラ、カメというバカキャラ。実に基本を抑えた人物配置で、それを役者がうまく回して笑いに繋げていました。ノリの良さはよく出ていて、見ていて楽しい演劇でした。

装置の方、何年も使われていない開かずの間という割には、安易ではありますが蜘蛛の巣みたいな演出(別に演技だけでみせてもいいと思いますが)や、ホコリをつもらせるぐらいの装置の演出はできたと思うんですがそれはありませんでした(舞台を汚すとマズいのなら下に敷くとか)。

再び演技ですが細かいツメが甘い印象。電話するときの動作が相手の番号を探している様子がなかったり、冒頭で標本に驚くシーンがあるんですが、その驚きが「予期した驚き」になっていました。本当に驚いてください。感情表現のシーンについてもコータローはそこそこ出来ていたのですが、3名の主役はちょっとなーと感じました。ノリのよい演技、3人のワイワイ騒ぐというリアリティは実によく出ていただけに、反面感情表現の弱さが気になりました。もっと研究が必要でしょう(参考:演劇資料室)。

全体的に。登場人物の配置の配置が基本を抑えてると書きましたが、それは裏を返せばステレオタイプということです。つまり、人物像としての深みがあまり感じられず、そんな仲良し女子3人が開かずの間に迷い込んで幼なじみだったり好きな人だっりする人が助けに来たけど色々あって帰っちゃって最後は先生に見つかって出て行きましたというお話。そういう甘酸っぱいほどではないにしろ何気ない日常のひとコマを切り取って描いている劇。

面白い(笑う)という意味では言うことはありませんが、途中に差し込んだシリアスシーンを初め、いまいちテーマというか描きたい対象を絞り切れてない散漫とした「何気なすぎるひとコマ」という印象を拭えませんでした。いや面白かったしよく出来てたんですけどね、だから余計に…。

審査員の講評

【担当】若杉
  • 大変完成度が高く、総合芸術として全体のレベル高い仕上がりだったと思う。
  • 夢ひとつにも、茶化す人がいて、追いかける人がいて、笑いありドラマありで上手かった。
  • お芝居の作り、特に笑いのセンスなんか見事だった。
  • 気になった点として、日常の会話や告白の言葉とか感情表現、その辺を研究してほしい。叫ぶばかりが台詞じゃないし、呟いたりささやいたり沢山色々な話し方がある。感情と言葉が違ったり、言葉にも色があったりとか。そういう所を研究すればもう一段上にいけるのではないかと思った。
  • それでも、きちんとまとまった完成度の高い作品だと思います。

草加東高校「DELETE」

脚本:コイケユタカ(顧問創作)
演出:草加東高校 演劇部

あらすじと概要

近未来都市。ある地下共同体で冷凍保存から目覚めたタケルが迎えられた。政府組織がタケルを探してやってくるがシラを切る人たち。そしてそこはレジスタンスたちのアジトだった。タケルは、すべての戦争プログラムを削除するウイルスの、そのキーワードをタケルだけが知っているはずだった。そしてやがて完全包囲され迫る政府軍と「Enter the Password」の文字。はたしてタケルはパスワードを思い出せるのか?

主観的感想

あらすじからもわかるとおり、実にゲーム的なストーリーでその上にゲーム的な演出を行った演劇です。過去、地元の高校演劇でこの手の作品は色々見てきましたが、劇として成り立っているものははじめてみたなーという印象でした。実に忠実にゲーム的ストーリーを構成し、最後は恋愛ネタで落とすあたりもそのままだなあーという印象。シリアスに偏りすぎず、動きや見せ方に遊びを持たせ(特にロボットなのかな? 7人ぐらい)うまく作り込んでいる印象でした。

ただまあ逆説的にいえば、いかに作り込んでこようともその「ゲーム的である」という最大の弱点を克服するには至らなかったかなとも感じました。まず演出面。服装にもうちょっと近未来的な演出(でもあからさまじゃない程度)があってよかったように思います。BGMの使い方、ノイズ混じりや戦闘シーンでゲームのバトルテーマを流すなど安易な選択は演劇としては違和感あり。お話作りも「ゲーム的だね」以上でもなく、やっぱり安易と言わざる得ません。

実はこの作品の一番興味深いところは、昨今若い人たちの間で流行っている「設定ゼロ状態における物語構成」をまさにそのまま使ってきたところですが、長くなるので全体感想の方にまとめておきます。繰り返しになりますが、良くも悪くもゲーム的であるということが、この演劇を一番表した言葉であると思いました。

全体としては、笑いもきちんと取って、盛り上がりもつけて、最後はちょっと良い話という感じで、細かいことを気にしなければ十分楽しめるものだったと思います。劇自体は実にエネルギーの溢れる意気込みを感じさせた作りになっていて、演技もきちんと考えられて作っていましたし、よく頑張っていたと思います。

審査員の講評

【担当】篠崎
  • ギャグを次々と出して、しかも新幹線のような速度で非常に面白かった。
  • 剣撃ち合い(チャンバラ)ももっとスピード感があったらよかったかなと思います。
  • 全体的に話の筋に関するところがおざなりで、他の関係ない部分がよく出来ているという印象。例えば世界設定が不明確で、世界戦争後にどうなったのかとか、今の地上の様子はとか、何のためのレジスタンスなのかということが分からなかった(編注:設定ゼロについて)。
  • 音の使い方ですが、ラストのパスワードシーンではどんどんボリュームを上げていく演出があってもよかったと思う。
  • ハルカ(お婆)が実はタケルの恋人だったという設定はよかったと思う。
  • あと細かいことですが「大帝国戦争」とか「氏神」といった単語を使っていたけども、意味分かって使ってるか疑問を感じた。
  • あれだけ体張って演じていると、芝居をやってる感じがしてよかった。

秩父農工科学高校「サバス・2」

脚本:若林 一男(顧問創作)
潤色:秩父農工科学高校 演劇部
演出:神田 瞳

※最優秀賞(全国大会へ)

あらすじと概要

混沌とした演劇部部室。そこに現れたバカボンとパパ(の格好をした人間)の幽霊は、5年前、その演劇部で全国大会前に命を落とした部員であった。やってきた演劇部部員、みんなこの3月で卒業してしまい、このままでは演劇部は廃部となり部室をパソコン部に奪われてしまう。そこへやってきた、その幽霊の妹である1年生。廃部の危機を救えるか、幽霊になった先輩二人を成仏させることができるか。

主観的感想

舞台全体を使ってごちゃごちゃとし面白みのある部室。部室にしてはやたら広い感じがしながらも、面白みというか味のある装置。メインは現役演劇部の女子二人なんですけど、その二人の個性や演技がうまいこと。グデってしてみたり、つつきあってみたり、実に(演劇的)リアリティのある伸び伸びとした大きな演技をみせてくれました。部室で和んでるって感じが本当によく出てたんですよね。友人達、相撲部員、バスケ部員、パソコン部員など全部で20名近い大勢の人たちが出たり入ったりと、ハイテンションで回すコメディです。

ギャグにしても何にしても、テンポの強弱の使い方もよくできていて(個人的にはもう少し止めを入れてもいいかなとは思いましたが)、段違いな演技はもとより、効果音、照明、装置といった総合芸術としての演劇ってのがよく出てたと思います(県大会では、この総合的な演劇ってものはあまり感じられませんので余計に)。

ただまあ、一つ難点をあげるとするならば全体的な流れ。5年前に死んだ部員というものを全く重さを感じさせず、かつその軽さに違和感を感じさせなかった演技はすごい。しかしここで敢えて冷静に話の流れだけ分析するならば、演劇部が廃部という状況(パソコン部の部室になってしまうという前提状況)も、その二人の幽霊という存在も、話を転がすための仕掛けに過ぎず、じゃあそれだけの仕掛けを使って描かれたオチは何かと言えば二人の演劇部員が自殺を思いとどまったことと、それ以外の人物+パソコン部部員の自殺というラストの描写。

もともとコメディをしたいがためのお話作りであるものの、劇として上演するからにはオチが必要。たしかにこれでオチにはなっているのですが、ベストマッチのオチかと言われれば甚だ疑問と言わざるを得ません。オチの付け方が安易です。審査員講評でもオチについて苦言が出ていましたが、元々オチやテーマ性を二の次(三の次)とした話構成になっているために、はたした多少のアレンジで合理的なオチか付けられるのかは難しいところ。

色々書いてしまいましたが、演劇としては断然に面白かったし、オチを別とすれば十分楽しめるものです。関係のない話になってしまいますが、この高校は単独自主公演を有料でやっているようで……群馬では考えられないなーと感じる一方、このレベルならそれもできるかと思ってしまいました。

審査員の講評

【担当】内山
  • 幕が開き、小道具が散らかって雑然とした部室と、音楽と。最初をうまく引き込んだと思う。
  • 舞台の真ん中に電柱があったが、お話としても電柱が中心を取って支えていたと思う。
  • お化けが舞台のうしろから出てきたというのは効果的だと感じた。
  • キャタツを置いて舞台の上下をうまく活用していたし、またロッカーなどの装置の使い方もうまかったと思う(編注:ロッカーに入って消えるという使い方をしていました)。
  • ラストシーンがちょっと長く感じた。
  • 演技は呼吸法がよくできていて、役者が「役」をしっかりと自分のものにしていて、またお客の呼吸もよく掴んでいた。
  • 衣装もキャラクター作りに貢献していたし、アンサンブルがよかった。
  • 【補足/若杉】幽霊と遭遇するということが話の主軸になっていたわけですが、幽霊との出会いといったびっくりや「別れ」といったものを出すともっと良くなったかなと感じた。

他、どちらから出たかは忘れましたが、「お話としてのみ冷静に見るとやや破綻しているが、役者がキャククターをしっかりものにしていたのでその勢いでカバーした感じがする」というものがありました。