秩父農工科学高校「サバス・2」

脚本:若林 一男(顧問創作)
潤色:秩父農工科学高校 演劇部
演出:神田 瞳

※最優秀賞(全国大会へ)

あらすじと概要

混沌とした演劇部部室。そこに現れたバカボンとパパ(の格好をした人間)の幽霊は、5年前、その演劇部で全国大会前に命を落とした部員であった。やってきた演劇部部員、みんなこの3月で卒業してしまい、このままでは演劇部は廃部となり部室をパソコン部に奪われてしまう。そこへやってきた、その幽霊の妹である1年生。廃部の危機を救えるか、幽霊になった先輩二人を成仏させることができるか。

主観的感想

舞台全体を使ってごちゃごちゃとし面白みのある部室。部室にしてはやたら広い感じがしながらも、面白みというか味のある装置。メインは現役演劇部の女子二人なんですけど、その二人の個性や演技がうまいこと。グデってしてみたり、つつきあってみたり、実に(演劇的)リアリティのある伸び伸びとした大きな演技をみせてくれました。部室で和んでるって感じが本当によく出てたんですよね。友人達、相撲部員、バスケ部員、パソコン部員など全部で20名近い大勢の人たちが出たり入ったりと、ハイテンションで回すコメディです。

ギャグにしても何にしても、テンポの強弱の使い方もよくできていて(個人的にはもう少し止めを入れてもいいかなとは思いましたが)、段違いな演技はもとより、効果音、照明、装置といった総合芸術としての演劇ってのがよく出てたと思います(県大会では、この総合的な演劇ってものはあまり感じられませんので余計に)。

ただまあ、一つ難点をあげるとするならば全体的な流れ。5年前に死んだ部員というものを全く重さを感じさせず、かつその軽さに違和感を感じさせなかった演技はすごい。しかしここで敢えて冷静に話の流れだけ分析するならば、演劇部が廃部という状況(パソコン部の部室になってしまうという前提状況)も、その二人の幽霊という存在も、話を転がすための仕掛けに過ぎず、じゃあそれだけの仕掛けを使って描かれたオチは何かと言えば二人の演劇部員が自殺を思いとどまったことと、それ以外の人物+パソコン部部員の自殺というラストの描写。

もともとコメディをしたいがためのお話作りであるものの、劇として上演するからにはオチが必要。たしかにこれでオチにはなっているのですが、ベストマッチのオチかと言われれば甚だ疑問と言わざるを得ません。オチの付け方が安易です。審査員講評でもオチについて苦言が出ていましたが、元々オチやテーマ性を二の次(三の次)とした話構成になっているために、はたした多少のアレンジで合理的なオチか付けられるのかは難しいところ。

色々書いてしまいましたが、演劇としては断然に面白かったし、オチを別とすれば十分楽しめるものです。関係のない話になってしまいますが、この高校は単独自主公演を有料でやっているようで……群馬では考えられないなーと感じる一方、このレベルならそれもできるかと思ってしまいました。

審査員の講評

【担当】内山
  • 幕が開き、小道具が散らかって雑然とした部室と、音楽と。最初をうまく引き込んだと思う。
  • 舞台の真ん中に電柱があったが、お話としても電柱が中心を取って支えていたと思う。
  • お化けが舞台のうしろから出てきたというのは効果的だと感じた。
  • キャタツを置いて舞台の上下をうまく活用していたし、またロッカーなどの装置の使い方もうまかったと思う(編注:ロッカーに入って消えるという使い方をしていました)。
  • ラストシーンがちょっと長く感じた。
  • 演技は呼吸法がよくできていて、役者が「役」をしっかりと自分のものにしていて、またお客の呼吸もよく掴んでいた。
  • 衣装もキャラクター作りに貢献していたし、アンサンブルがよかった。
  • 【補足/若杉】幽霊と遭遇するということが話の主軸になっていたわけですが、幽霊との出会いといったびっくりや「別れ」といったものを出すともっと良くなったかなと感じた。

他、どちらから出たかは忘れましたが、「お話としてのみ冷静に見るとやや破綻しているが、役者がキャククターをしっかりものにしていたのでその勢いでカバーした感じがする」というものがありました。