新潟商業高校「父さんといっしょの地中海」
脚本:赤間 幸人
演出:福嶋ちひろ
あらすじと概要
主人公美咲と母と、アルツハイマーになってしまった父の物語。
主観的感想
この高校も演技にメリハリがないなという印象でした(資料室参照)。リアル志向で演じていたと思うんですが、演劇のリアルと実際日常生活とはわざすに差があって、わずかとは言っても越えられない壁です。役がいまいち読みこなせてないなという印象で、オーバーなところはもっとオーバーにしてよかったのではないかと思います(やり過ぎるとマズいのは確かですが)。
役が読みこなせてない最大の原因ですが、アルツハイマーに対する下調べが大変不足しています(または調べていない)。アルツハイマーの家族に取材したり、老人ホームなどに取材するなどしてほしかった。それが困難であるならせめて、アルツハイマーなどについて取り上げたビデオ映像(や映画)などを借りたり、関連する本を10冊ぐらい読むとかじっくり研究して欲しかったです。アルツハイマーとはどういう病気であるか、それに振り回される家族とは一体どんな心境であるか。この劇の根幹に関わる最も重要な点を「おざなり」にしたことが、リアリティを生み出せなかった原因です。
厳しいようですが、何かについて語ろうと思ったら(人に伝えよう、教えようと思ったら)、まず最初に下調べに相当の時間をかけるものです。下調べに下調べを重ね、完全に自分の中に核としたゆるがないイメージができあがったとき、初めてやっと演技について考えることができます。アルツハイマーってどんな感じなんだろう? と、少しでも不安があったら再度納得するまで調べなきゃいけないのです。そういう追求心が表現にはとても大切です。
また演出面ですが、何を狙ったのか全体によく分かりませんでした。この劇で最も大切なことは、アルツハイマーという病気に振り回される家族と、無自覚(?)な父親という悲壮感をいかにして演出するかだと思うのですが、ともすればお父さんのボケが単なるボケキャラにしか映りかねない状況となっていました。この「悲壮感」がうまく成立しなかったために、ラストシーンでの希望があまり印象的にならなかったのだと思います。
細かい点
- 部屋がやけにだだっ広くなってしまったので、照明で範囲をしぼるなどしてほしかったところです。こぢんまりと寄り添ったムードがでると、家族の結びつきみたいのが見えてよかったと思います。
- 部屋に置かれている時計を、電池が入った状態で置いてしまったことは問題でした。実時間(+20分ぐらい)で動く本物の時計(場面転換しても変わらない)を見るたびに現実に引き戻されてしまいます。手動で時計の時刻を変えるか、それができないならば時計を置いてはいけません。
- (前半の)電話でのやりとりと、その裏での家族の会話というシーンで、どちらも同じ声量で話すためどっちを(観客に)聞かせたいのかよく分かりませんでした(どっちも聞き取りにくかった)。
- 装置のパネルが低いです。あと少し高くした方がいいと思います。
審査員の講評
【担当】土屋 智宏 さん- このお話は心で伝わってきたと思います。
- 父も母もいい役でよかった。娘役をよかったと思う。
- この劇をどうやって見せていくかと考えたとき大切なことですが、小さな積み重ねが全体としてリアルを出します。ですが、この劇の装置は居間にしては広すぎて奥行きがありすぎたし、壁に掛かっている時計が劇進行とは無関係に時を刻んでいるのが気になりました。小道具とか、メイクというのは、小さいリアルを積み重ねていく道具なのだから、きちんと気を遣ってほしい。
- 劇というのはあらゆるものから自由である。
- アルツハイマーの人の想いを描くとき、どうやって作っていくんだとなって、やっぱり実際に見に行って話を聞いてくるということをしなきゃならない。